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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ
幕間

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『師団長について②』



 現魔術師団長に付いた数人の師団員を連れて「魔物のような生物に村人が襲われた」と報告のあった辺境の村に調査へ行った時のことだ。


「魔物に襲われたという村人の証言では、被害にあったのはこの辺りのはずですが」


 事前に寄った村で聞いた情報を元に現場付近まで来たものの、それらしき姿は見えない。

それどころか鳥の声や虫の羽音すら聞こえない。


 …異様な程に静かだ。


「静かですね。野生動物の姿すら見えません」


 そう呟いたのは私と同じように魔術師団が現行になった当初からユーリスに従ったミリア・シャマリーだ。

女性の身で魔術師団に在籍し、その上出身は男爵家。

どうせ肩身の狭い思いをするくらいならばとユーリスにかけたのだろう。


「いや、居るよ」


 ユーリスがそう言った直後のことだった。

近くの茂みからガサガサと物音が聞こえ、その場に緊張が走る。


「待て!!お前ら村の大人に言われてジャンを捕まえに来た奴だろ!」


 そう言いながら我々の前に飛び出して来たのは幼い男児だった。


 一体何を言っているんだ?


「ジャンはボクの友だちだ!」


 我々を睨みつけ叫ぶ。


「ちょっと、落ち着いて。ここはまだ危険よ。お友達は私たちが探すから、一体どんな…」


 目の前で喚く男児を、シャマリーが何とか宥めようと試みるが興奮しているのか効果が無い。

少年がなおも言い募ろうとしたところだった。


「誰かを襲うなんて!そんなことするわけ…」


「危ない!」


 シャマリーが叫ぶ。

彼の背後に不気味な靄を纏った黒く大きな塊が迫っていた。

少年の頭目掛けて鋭い爪を伸ばすのが視界に入った瞬間、ザシュッという音と共に大きな影が真っ二つに割れ、霧のように跡形もなく霧散する。


「…え?」


 後には少年がただ茫然と立ち尽くすのみだった。

呆気に取られ、一瞬その場で固まった我々は呆然とユーリスを見る。


 …やったのは恐らくユーリスだ。


彼は呪文を唱える事が無い。

その上、ちょうど音と同じタイミングで手を小さく斜めに振ったのを、私は辛うじて視界の端で捉えていた。


 それに、あの目…。


「用は済んだ。行こう」


 ローブを翻し来た道を引き返すユーリスに皆、戸惑いつつも付き従う。


「シャマリー悪いけど、ここに残ってあそこの彼とお墓を作ってあげてくれないかな?もうこの辺りに魔物の気配は無いから安心していい。私達は村長に報告に行くから、村で落ち合おう」


 そんな我々を知ってか知らずか、ユーリスは普段通りの穏やかな口調でシャマリーに話しかける。


「…は、墓ですか?」


「うん。彼の友人のお墓だよ。このままでは、前に進もうにも進めないだろうから」


 予想外の指示を出されたシャマリーは真意を掴みかねる…という表情が隠せていない。


「しょ、承知いたしました」


「お願いね。私ではきっと怒らせてしまう」


 シャマリーはとにかくユーリスの命に従うことにしたようで、未だ立ち尽くす少年の元へ走っていく。


 私としても、女性であるシャマリーが1番警戒心を解きやすいという考えは分かるの。

判断としては悪くないと思う。


 だが、些か疑問が残る。


魔物を屠った後に見たユーリスの表情。

一瞬ではあったが、いつもの人好きのするユーリスとは違う…なんというか路傍の石を見るような目をしていた。

何の感情も無い人形のような、空虚で無機質な目だ。


ユーリスは何を考えている…?


 何はともあれ、確認しておきたいことがある。

先程、ユーリスは「自分では少年を怒らせてしまう」と言った。

スタスタと一度も振り返る事なく歩き続けるユーリスに声を掛ける。


「あれが、彼の友人だったと…?」


「恐らくね。そうでなければアレに喰われている。どのみち、もう生きてはいないよ」


 特に何の感慨も無く放たれたユーリスの言に言葉を失う。


この男は優しいのか、それとも非情なのか?


最早それすら分からない。

虫も殺せないのでは…という考えが杞憂であったことだけは理解できるが。


 この若き魔術師団長を理解するには、もう少し観察が必要なのかもしれない。



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