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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ
幕間

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『師団長について①』



「ただいま、ヴィンター」


 執務室に風が巻き起こり、未だ年若い上司の姿が現れる。

第二王子殿下と第一王子の婚約者殿の授業を終えたところだろう。


 通常業務に加え講師などと王命とはいえよくやる…とは思うが当人は存外その役目を気に入っているらしい。


「お疲れさまです。第二師団から捜査報告書が来ていますのでご確認ください」


「最近すんなり回って来るようになったよね。ヴィンター何かした?」


 そう言いながら手に取った報告書の束を素早く確認し、サクサク分けていく。

第二師団が担当している魔法絡みの事件調査のものだ。


「私は何も。ただ、回収をアイザックに頼みました。あれは高位貴族や魔力が高い者に対して物怖じしませんので」


 まぁ、当のアイザック曰く「うちの師団長に比べれば全部ザコ」という身も蓋も無い理由だが。


「数日の間、ウザ絡みを繰り返したら大人しく投げ渡してくるようになったそうですよ」


「あははは、ザック良い仕事するなぁ」


「そうですね」


 基本的に魔術師団の担当する業務の報告書は全て魔術師団長が最終チェックを行う。

提出されればの話だが。


「これは騎士団へ、多分シロだ。証明が必要ならアンリを回してあげて」


「承知しました」


 捕まえられた容疑者は魔法無効化の牢に入れられ尋問は騎士団が担当、必要であれば魔術師団から人員を派遣する。


「あと、こっちはうちで再調査が必要なんだけど」


「私の小隊でやっておきます」


「ありがとう。助かるよ」


 騎士団で手に負えない案件はこちらで再調査。


 放っておけば第二師団の連中は自分達の家に都合の悪い者を適当に捕まえて牢屋にぶち込む。


本当にロクでも無い。


この確認作業と騎士団の働きにより魔法関連事件の冤罪が防がれていると言っても過言では無い。


「第二小隊は戻ってきた?」


「つい先程」


「そう、じゃあ報告でも聞いてこようかな、キミもあまり遅くならないうちに切り上げて帰るんだよ」


 そう言ってユーリスが執務室を出ていくのを見送る。


 私にいう前に貴方が帰るべきでは?


 魔術師団長とはいえ、彼はまだ18だ。

普段の働きぶりを考えても、部下より先に帰ったところで誰も何も言わない。


そう思うがそうもいかないのだろう。

情け無いことに、我々がこの国を守るには私より10以上も年下の彼に頼らざるを得ない。


嘆かわしい話だ。



 最初の印象は「この青年に魔術師団長が務まるだろうか」というものだった。


 他の者と同じように彼の生まれにどうこう言うつもりは無い。

私とて伯爵家の出とはいえ、どう足掻いても爵位の継げそうにない三男坊。

魔術師団に所属していなければ庶民とそう変わらぬ身だ。


 だが、魔力量が多く魔力操作も飛び抜けていたとして、あまりにも若過ぎはしないだろうか。


「この度、魔術師団長に任命されたユーリス・アクベンスだ。よろしくたのむ」


 初めて目にした際は、まだ少し幼さの残る新しい魔術師団長殿を見て、ついそのような考えが頭の端を掠めた。


「ヴィンター・サルガスです。よろしくお願いいたします」


「君のことは前魔術師団長から聞いているよ。頼りになる副官だったと。私が居なければ魔術師団長も狙えただろうに…悪いことをしてしまったね」


「いえ、身の程知らずにも魔術師団長になろうなどとは、頭にも上りませんでした。それに、私は補佐が性に合っておりますので」


 これは嫌味か?

それとも叛意を疑われているのか。


一瞬そう考えたものの、すぐにそのどちらでも無いと分かる。

彼の表情からは悪意や警戒を微塵も感じない。


「君は謙虚だね。そうだ、堅苦しいのは無しにしよう。君にはこれから世話になるのだし、人生経験も魔術師団員としても先輩だ。ユーリスと呼び捨てにしてくれてくれて構わない」


「しかし…」


 人好きのする笑顔に温和な態度。

今回の魔術師団長任命は、今後起こると想定される魔物の発生に対応する為と聞いている。


この虫も殺せないような少年に務まるのだろうか?


「侯爵家の一員になってから礼儀作法は散々詰め込まれたけど、堅苦しいのは落ち着かなくて」


「…分かりました。では、私のこともヴィンターと」


「ありがとう、ヴィンター」


 いくら世話になった前魔術師団長殿から「次の魔術師団長の指示をよく聞き、しっかりと支えていくように」と言われたからと言って、本当にこれで良かったのか…この段階ではそう思っていた。



 だが、その印象は早々に打ち砕かれることになる。



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