魔物対策合同演習②
そっと隣の席を見るもロジェット殿下の姿はまだ無い。大丈夫なのかな、もう始まっちゃうけど。
そう考えていたところで、俄かに後方から慌ただしい足音がする。
「父上、母上、遅くなりました」
「ああ」
「ロジェット!何を考えているのです!もう始まるわ。座りなさい」
ロジェット殿下と両陛下のお声が聞こえたかと思うと、隣にドカッという振動が走る。
ロジェット殿下だ。
「ご、ごきげんよう」
「ご機嫌よろしく見えるか?」
「いえ…」
ひとまずご挨拶をと思っただけなのだが、ロジェット殿下の返答に戦慄する。
この距離では陛下に聞こえていてもおかしくない。
「兄上!」
アシュレイ殿下が諌めようとするもののロジェット殿下は意に介した様子がまるで無い。
頬杖ついて足まで組んでいるし…。
この間のユーリス先生のちょっとした裏話を聞く限り、陛下は王立騎士団と魔術師団の改革、そして魔物対策に並々ならぬ御心を向けられている。
にも関わらず、その一貫である魔物対策合同演習における第一王子の遅刻。そしてこの態度…。
陛下からお叱りこそは無かったものの、というか何も無いのが一番怖いと思うのは私だけだろうか。
そうこうしている内にも着々と演習が進んでいく。
騎士団の模擬戦は見事なもので息を呑むような緊迫した空気の中、隙のない打ち合いが続く。
確か、現騎士団長は庶民から騎士爵を叙爵された相当の実力者だと聞いている。
今、眼前で戦っているのも熾烈な実力争いを勝ち抜いた者達なのだろう。
右隣に座るアシュレイ殿下も真剣な面持ちで見つめていた。
演習は順調に進み、魔術師団の射的演習に差し掛かった辺りで左隣からフンッと鼻を鳴らす音がする。
「なんだあの見窄らしい魔法」
ロジェット殿下だ…。
青の紀章、第一師団が的に向けて魔法を放った瞬間だったので恐らく第一師団に向けて仰ったのだろう。
ロジェット殿下は副師団長に指導を受けているから、第二師団を贔屓するのは分からなくもないのだけれど。
「魔力の少ない者はこれだから」
自国を身体を張って守ってくれている方々に対して、その物言いは如何なものかと思います…。
だが、ここで苦言を呈して陛下の御前で喧嘩をする訳にはいかないのでロジェット殿下の発言を聞き流しながら演習場を見る。
確かに、第一師団の者が放った魔法は第二師団のものよりかなり小規模だ。
だけど、的確に的の中心だけを次々と射抜いていく。
今のところ一度も外していない。
対して第二師団の方は的に当たってはいるものの、命中というより丸焼きと言った方が正しいのではないだろうか。
非常に派手で見栄えは抜群なのだけど…これで良いのかな?
「いよいよですね」
ロジェット殿下の発言を私と同じく聞き流す事に徹していたアシュレイ殿下が久方ぶりに声を発する。
次は実践形式の演習だ。焼け焦げた的を片付けた後に二手に別れて人が入っていく。
向かって右手が青い紀章の魔術師、そして青い腕章を着けた騎士達。
左手に赤い紀章の魔術師と赤い腕章を着けた騎士だけど…あれ?
「あの、アシュレイ殿下、人数ってこれで」
「ふん、そんなことも知らんのか。第二師団の人数は総勢215名、あの魔術師団長とやらの人徳が知れるな」
全部ですか?と聞こうとした矢先、ロジェット殿下に遮られる。
ご説明してくださったのだろうけれど…答えになっていないし、なんとなくお礼、言いたくないな…。
「王立騎士団は魔物対策部隊500名から選抜した者達を1戦目の赤青組、2戦目の赤青組と計4部隊に分け編成しているそうです。1部隊30名前後ですね。王立魔術師団の方は兄上が仰った通り第二師団は215名ですので1戦2戦で半分に分けると聞いています。第一師団は…現在35名でその内、30名が参加するそうです。配分は聞いていなくて、すみません」
「いえ、ありがとうございます」
アシュレイ殿下が私の疑問にかなり詳細に答えてくれた。
とてもありがたい…!
騎士団はかなり人数が多いので選抜者のみの参加のようだ。
気になっていた魔術師団は…やはりそうなのか。
青の紀章が明らかに少ないとは思っていたから予想はしていたけれど。
配置についた第一師団の人数はおよそ30名前後なので1戦2戦とも同じメンバーで行くということだろう。
でも…今のところ、先生の姿は見当たらない。
「始まりますね」
アシュレイ殿下が真剣な眼差しで言った。
先生の姿を発見できないまま、演習開始の合図が鳴る。




