2人の関係性
「兄上は…国王になるにあたっての必要な勉強が始まってから自由な時間が無いとか、色々と鬱憤が溜まっているみたいで」
確かに学ぶことは多いので、そう思ってしまう気持ちも分かる。
分かるのだけど…だからといって、やらなければいけないことを放り出して良いかというとそうではないような…。
「…アシュレイも同じ内容を学んでいるよね?」
「はい、同じものだと聞いています。ですが、その…「第二王子のお前には分からない」とおっしゃっていたので、次期国王として抱えているお悩みや思いがあるのかもしれません」
アシュレイ殿下が悲しそうなお顔で答える。
ロジェット殿下なら言いそうだけど…アシュレイ殿下にはアシュレイ殿下の悩みや大変さがあると、私は思う。
アシュレイ殿下は我が国で「第一王子のスペア」という扱いで、今後何事も無ければ自分が王位を継ぐ事が無い。
それを分かった上でロジェット殿下と同じことを学んでいらっしゃるから…。
そう思いながらアシュレイ殿下を見ていると、お隣に座って何か考えこんでいた先生が口を開く。
「それはそれとして、2人に責任はないと私は思うかな」
「「…へ?」」
ユーリス先生の唐突な発言に私もアシュレイ殿下もぽかんとしてしまう。どういう意味だろう?
「対話を拒否されては分かるものも分からない。理解する努力は双方にあって初めて分かり合うことができる。片方だけでは難しいよ」
先生が諭すような語調で、でも…諦めの混じった少し寂しそうな顔をして言う。
…私は、ロジェット殿下を理解する努力ができているだろうか?
婚約者同士の交流の為に用意されたお茶会ですら、ロジェット殿下が来れば話を聞いて困って耐えて、ただ曖昧に相槌を打つだけ。
それだけしか出来ていないのに。
「君達は努力してる。よく頑張ってると思うよ」
労わるように穏やかに続けられた言葉に、じわっと目が潤むのを感じる。
できてないって思ってた。私が足りないから、ただ聞くだけでロジェット殿下の求める反応を返せないから、だから仲良くできないんだって。
でも、それが私のできる精一杯だった。
まずい、このままじゃ泣いちゃう。そう思った時、隣から啜り泣く声が聞こえる。
…え?
ハッとして声のした方を見ると、アシュレイ殿下が……号泣していた。
「あ、アシュレイ殿下…!」
「す、すみません、ぐすっ。すぐ泣き止みまず」
びっくりして私の涙が引っ込む。
まさか、いつも私よりしっかりされているアシュレイ殿下が泣かれるとは思っていなかった。
「大丈夫だよ、泣いても。ここだけの秘密にしておくから」
「ありがどうございまず」
穏やかな口調でそう述べた先生が、そっとアシュレイ殿下にローブから出したハンカチを手渡す。
「あにうえ、ひっく、前はおれだち仲間だって、でも、ざいきんは、お前どはぢがうって、ぐす…うぅ」
一生懸命話していたアシュレイ殿下の声が嗚咽と混じって聞き取れなくなってくる。
そうか…。
私が王宮に行き出した頃の、ロジェット殿下の後ろを子分のようについて回っていたアシュレイ殿下を覚えている。
ぐいぐい引っ張って行くロジェット殿下に振り回されていたとも言えるけど…。
いつも侍従の陰に隠れていたアシュレイ殿下にとって、ロジェット殿下は憧れだったのだろう。
そんな相手に突然突き放されれば堪える。
いくら立派になって頼もしくなっても、あの時のアシュレイ殿下が消えたわけじゃない。
見れば、ユーリス先生がわしゃわしゃとアシュレイ殿下の頭を撫でている。
ちょっと羨ましく思う…のは今日のところは置いておくとして。
私にできることは少ないけれど、せめてアシュレイ殿下が泣き止むまで側にいよう。




