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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ


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フィリリア記者



「何か授業の前に聞いておきたいことはあるかな?何でもいいよ」


 先程までマナーの先生のお手本のような所作で紅茶を飲んでいたアクベンス様が静かにティーカップを置いて問いかける。


 よ、よかった。未だ固まったままでいた私は、このまま沈黙が続いてしまったらどうしようかと内心焦っていたところだった。

 何でも良いとのことだし、とりあえず1番気になっていたところから聞かせていただこう。


「あの、アクベンス様は宰相閣下とご親類でいらっしゃるのでしょうか?」


「宰相閣下は義父(ちち)だよ。養子に入ったのは13か4の頃かな」


 サクッと返された返答にサッと血の気が引く。

 もしかしなくても1番聞いちゃダメなところを初手で切り込んでしまったのではないだろうか。


 いや、貴族の家では継承者が居ないなどの理由で遠縁の子どもを養子に迎えることは少なくないと聞いたけど。

 宰相閣下のご子息は数年前、兄が貴族学院でお世話になった先輩だと我が家に……ダメだ話題を変えよう。

何か深いご事情がおありかもしれないし!


「ありがとうございます。では、次に…その、王立魔術師団とは普段はどのようなお仕事をされているのでしょう」


 聞きたいことは山のようにある。だがこれ以上、初対面の場で繊細なお話に踏み込むことは避けたい。そう思い、なんとか無難な質問を捻り出す。


「基本は騎士団と一緒だよ。有事に備えて訓練をして、王族の警護をしたり、王宮の警備をしたり。後は魔法が関わる事件の捜査とか…まぁでも、私は魔物の調査討伐が多いかな」


 最近は魔物らしきものを目撃したという話が増えて来ているとお父様と執事が話しているのを聞いたことがある。

 アクベンス様は事も無げに仰ったが、魔物は街や街道に現れては人を襲うとても凶暴で恐ろしい存在だと聞いている。数100年置きに発生が記録されており、いずれ出現する瘴気の結晶を探して浄化しなくては魔物が無限に増え続けるとか…。


「なるほど。お答えいただきありがとうございます」


「私が何でも質問に答えると言ったのだから、お礼は不用だよ」


 なんというか、新聞記者にでもなった気分だ…。

 いや、アクベンス様が先程から笑いを堪えていらっしゃるのは気付いているし、私が緊張と動揺でおかしな応答をしているのは分かっている。

分かっているのだけども…!!


「他には、何かある?」


 いけない、思わず取り乱してしまっていた。

他、他には…


「ご年齢をお伺いしても…?」


「もちろん良いよ。17になったところだよ。魔術師団長になったのは去年だから16の時かな」


 ほぼほぼ予想は当たっていたが、16歳で王立魔術師団の師団長…歴代最年少での就任ではないだろうか。驚きを隠せそうにない。


「お誕生日おめでとうございます…?」


「あははは、ありがとう」


 色々と情報量が多すぎて、先程からずっと完全に頭が回っていない受け答えをしてしまっている気がする。


「えっと、学院は…?」


「家と学院の意向で試験と論文で飛び級して1年で卒業することになってね。私としてはもう少し学生でいたかったんだけど」


「なる…ほど」


 普通、我が国の貴族の子どもは15で貴族学院に入学し3年間学院で魔法から社交まで様々なことを学び経験を積む。

積むのだが、それを1年で…。


「フィリリア様が学院に入学するのは3年後だっけ?」


「はい。あとあの、フィリリアで大丈夫です。これからアクベンス様には教えを乞うわけですし…」


 話し方と様付けがあまりにミスマッチだったので恐る恐る提案してみたのだが、アクベンス様が一瞬きょとんとした顔になる。


 最初の挨拶から今まで、洗練された所作と余裕のある言動をされていたから…こういう表情は少し親近感が湧いた。

 私も頑張って礼儀作法の授業を思い返しながら必死に振る舞ってはいるけれど、アクベンス様のような流れるように自然な所作には程遠い。


「じゃあ、私のこともユーリスと呼んでくれる?」


「え、ええ?あの、魔法を教えていただくわけですし、流石にそれは」


「そこをなんとか」


 そこをなんとか、ではない。しょんぼりした顔も親近感が…罪悪感も…ぐ…


「ユーリス先生なら…」


「うーん。ま、しょうがないか」


 そう言ってユーリス先生は一瞬でしょんぼり顔を引っ込める。まさかさっきの演技ですか…!?


「よし、そろそろ緊張はとけたかな?」


「あ、はい」


 その言葉で、私があまりに緊張と動揺でガチガチだったのを気遣ってのお茶会だったのか。と気づく。


 マイペースで自由に振る舞っているように見えていたが、良く相手を見ていらっしゃるのだろう。


 私の場合、緊張がとけたというより公爵令嬢として必死に被っていた猫が逃げてしまった気がしなくもないけど…。


「それじゃあ、ついて来て。授業を始めよう」


 いよいよ、初めての魔法の授業が始まる。



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