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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ
第一章

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アシュレイ殿下はお怒りです



 そんな日々を過ごしていたある日、王宮の使用人曰く前の授業が長いているというアシュレイ殿下を先生と迎えに行った後の事だった。


「許しがたいです!」


「まあまあ、言われている当人があまり気にしていないわけだし…」


 温和なアシュレイ殿下がここまで怒るのは初めて見たな…と思いながら、私はいつもの庭園の端でユーリス先生がアシュレイ殿下を宥めているのを見ていた。


 いや、怒ったと言うよりは堪忍袋の尾が遂に切れてしまった…というのが正しい。


「先生はもっと怒って良いはずです!」


 宥める先生をアシュレイ殿下が「納得がいかない」という表情で見つめる。


 ちなみに、今回のようにアシュレイ殿下を迎えに行くことは度々ある。


 私も経験があるけれど、質問をしたり、その科目の授業を担当している講師が話に熱が入ってしまったりすると大体こうなる。

特にアシュレイ殿下がユーリス先生の授業の前に受けている王国史の講師の方は…一度話し出すと止まらない。


 だが、今アシュレイ殿下が怒っている問題はそれではなく…


「あんな、好き勝手にユーリス先生のこと馬鹿にして!」


 私も授業が長引いているアシュレイ殿下を先生と2人で度々迎えに行くなかで見聞きしていたことだ。

ユーリス先生と王宮内を歩いていると、そこかしこから聞こえる声がある。


その殆どがが先生への悪意に満ちた言葉だった。


 「化け物」から始まり「下賤の者」や「魔術師団長に相応しくない」「宰相とグルになって陛下を騙している」「次代の王妃をも手中に収めようというのか」などなど…思い付く限りの暴言を先生の方をチラチラ見ながら囁き合うのだ。


中には明らかに先生に聞こえるようにわざと声高に話す者までいる。

しかも、その殆どが王宮の警備に当たっている魔術師団や高位貴族出身の文官達だ。


「うーん。でもほら、今更って感じじゃない?」


「限度があります。それにあの人達、実際に魔物と相対したことすらないのに!」


 アシュレイ殿下は悔しげにそう言った後、手を握り締めて下を向く。

その様子に、何とかグッと怒りを抑え冷静さを保とうとしているのが見て取れる。


 自分が下手に動く事で先生の立場が悪くなる可能性があるのも分かっている…分かっているからこそ、気持ちのやり場が無い。その辛さは私もよく分かる。


 確かに、先程聞いたものは国や民を守る為、魔物の討伐に奔走してくださっている先生に対してあまりにも失礼だった。


「見ろあの目、気味が悪い。伝承にある瘴気の結晶にそっくりじゃないか」


「ああ、きっと魔物が出るというのもアレの自作自演だろう」


「親玉の可能性もあるぞ」


 王宮の警備をしているはずの魔術師団員が数人固まって、そう口々に言ったのだ。

それも馬鹿にするように笑いながら。


 職務態度については一旦置いておくとして…

まず、魔物は魔法で作り出せるものでは無いと言われている。

それに、伝承に記載されている瘴気の結晶の色は滅紫色、くすんだ暗い紫だ、先生の瞳のアメジストのような鮮やかで深い紫とは違う。

紫の瞳を持つ者は我が国に先生の他にも割と居るのでその方達にも失礼極まりない。


…第一に、ユーリス先生の目はとても綺麗だ。


「ユーリス先生が魔術師団長に任命したのは父上です。それに意を唱えるということは、父上…陛下のご判断に意を唱えるのと同じことです」


「まぁ、それはそうなんだけど…」


 先程より多少怒りを抑えた声でアシュレイ殿下が言う。


 廊下で聞いたことを思い出しながら、つい先生の神秘的な紫の目を眺めていると、助けを求めるような視線とかち合った。


 私も一緒にアシュレイ殿下を宥めて差し上げたいところだが…


正直なところ、私もアシュレイ殿下の考えに近い。

本当は前々から許しがたい暴言の数々だと思っている。

誰だって親しい人間を馬鹿にされれば悔しい。

もちろん私だってそうだ。


 でも、最初にそれらを耳にした時に先生が


「できるだけ問題にしたくない、聞き流して欲しいんだ」


そうおっしゃったから。


 きっと私が気にすれば先生は私の立場や心情を慮ってしまわれると思ったし、何よりそれが原因で今度こそ先生に「講師を代わってもらおう」と言われるのを恐れた。


 でも、今回のは私も流石に…


「その、本当に先生は平気なのですか…?先程の方々の制服は魔術師団のものですよね?」


「そうだね。あのローブの紀章は第二師団の方だけど…。うーんフィリリアもかー」


 うう。遂に言ってしまった。

どうか、私達の立場が悪くなるから講師を辞めるなんて言わないで…!



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