帰宅後
そうして森での訓練が終わると、ユーリス先生が転移魔法で我が家まで送ってくるくれる。
先生の転移魔法で移動することには大分慣れたものの、まだ少しソワソワする。
一瞬だけフワッと地面が無くなる感覚がするのだ。なんとも言えない不安感に襲われて、毎回ついつい先生のローブを握ってしまう。
寝ている間には複数回経験していたようだが…それはノーカウントにしたい。
「はい、着いた」
「いつも、ありがとうございます」
地面を踏み締めつつお礼を申し上げていると、私が帰って来るのを待っていたロアナがすぐに駆け付けてエントランスへ続く扉を開けてくれる。
「おかえりなさいませお嬢様!」
「ただいまロアナ」
ロアナの声に邸の方へ振り向くと、邸の窓という窓にチラチラとメイド服の端が見え隠れしているのが分かる。
恐らくユーリス先生を目の保養にしているメイドや侍女達だと思う。
再び先生に送っていただくことになってから、この現象もすっかり復活しているのだ。
これにも、もう大分慣れたけど…ん?
扉の直ぐ近くの窓を拭く素振りをしながらこちらを見つめるメイドとばっちり目が合う。
流石にそれはバレるのでは…!?
そう思い先生の方を見ると、いつも通り何も気づいていない様子で私の顔を見て小首を傾げる。
「どうしたの?」
「い、いいえ、なにも」
「そう?」
だだだ大丈夫です。何でもありません!
私が首を横にぶんぶん振りながら誤魔化すと、ロアナが助け舟を出してくれる。
「お、お嬢様こちらへ、アクベンス様も今後のご予定がおありでしょうし!」
「じゃあ、お言葉に甘えて私は退散しようかな」
そう言ったロアナも先程の私の目線で気付いていたようで若干笑顔が引き攣っている。
「じゃあ、また明日」
「はい!また明日!」
「アクベンス様、本日もお嬢様をお送りいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、明日もよろしくね」
ロアナが丁重にお礼を述べ、再び転移魔法を使い一瞬で消えていく先生を見送った後、2人で邸の中へ入るのがいつもの流れだ。
今日も同じように邸の扉を再び開け、中へ入る。
入るのだが…
「ちょっとクラリア!」
「うぇ、は、はい」
「流石にさっきのガン見はまっずいわ!」
そうロアナに呼びかけられたのは先程窓に張り付いていたメイド…まだ我が家で働き出してそう経っていないクラリアだ。
「えぇ、見えてました!?」
ばっちり見えてたよ…目が合ったよね。
すっとぼけるクラリアを半眼で見つめる。
「いやー、それにしても噂通りフィリリア様の魔法の先生、めちゃくちゃ素敵っすね!アタシらにもあんな態度の良い高位貴族初めて見ましたよ」
「クラリア…口調」
私の視線を知ってか知らずか、興奮気味に語るクラリアをロアナが低めの声で諌める。
「う、すみません」
流石にしょんぼりとするクラリアを更に叱っていいものか逡巡していると、エントランスに続く階段の上から凛とした声が響く。
「そうね、我が家のメイドとして、覗き見るならもうちょっとエレガントにできるよう心掛けなさい」
「は、はい奥様!精進します!」
「お母様…」
お母様がこういった方針なので、我が家で私が帰る度に起こる、世にも珍しい最年少魔術師団長(貴公子)を眺める会は継続開催されている。
「おかえりなさいフィリリア」
「ただいま帰りました!」
そう言えば、お母様に嫌われている訳では無いと判明して以降、私とお母様の関係性はかなり改善した。
夕食をご一緒できる時は魔法の授業であった事を中心に日々の色々な話題に花を咲かせ、朝はたまに頑張って起きて来られて一緒に朝食を食べていただけるようになったのだ。
「今日は夕食をご一緒できるのですか?」
「ええ、招待されていた夜会が急に中止になったのよ。なんでも隣の領に魔物が出たとか…物騒になってきたわねぇ」
先生曰く「大幅な増加は無い」とのことなのだが、以前は噂程度だった魔物の出現が、最近は身近なところでも話題に上がることが増えた気がする。
「さぁ、お嬢様も着替えてお夕食にいたしましょう」
「食堂で待っているわ」
お母様がそう言いながら手を振って食堂の方へ消えていく。
理由はどうあれ、お母様と夕食を取れることに喜びつつ私も自室へと着替えに向かうのだった。




