決裂
確かにユーリス先生はアクベンス侯爵家の養子だと聞いてはいるが、今は侯爵家の一員で類稀なる魔法の技術を評価されて王立魔術師団の師団長に就任された方だ。
決して、どこの馬の骨とも分からない方ではない。
「そもそも、何故俺のような高貴な身分の者があんな下賤の者に教えを請わなくてはならんのだ。俺は王族だぞ?宰相とグルになってどんな虚言で父上を騙したのか知らないが、そもそもロスティンを差し置いてアイツが魔術師団長というのがおかしいのだ。俺が王になった暁には真っ先に引き摺り下ろしてやる!」
正直なところ、私としては同調し難い発言になんと返していいものかと逡巡していると、ロジェット殿下が矢継ぎ早に捲し立てる。
ロスティンとは王立魔術師団の副師団長をされている方で、古くから続くエッダシーク侯爵家の現当主だと聞いている。前々からロジェット殿下は血統至上主義ではあったが、正直ここまでとは…。
「その、確かにアクベンス魔術師団長の魔法の教え方は斬新なものでしょうし、予想していた授業と違って最初は戸惑うことも多いです。でも、生徒の興味を大切にしてくださいますし、とても為にな…」
「は!知ったことか!あんな奴の授業など一度たりとも受けてはおらん」
ロジェット殿下にユーリス先生の授業の良さをお伝えしようと精一杯言葉を紡ぐも、容赦なく途中で遮られてしまった。
それに、受けたことが無い?1度も…?
殿下は私より誕生日が半年ほど早い。
その為、半年前から魔法の授業が開始されているはずだ。
その半年間、一度も?
「同じ空気を吸うのも汚らわしい。初日に現れた瞬間、茶を投げつけて立ち去ってやったわ!」
殿下はそう言い放って飲んでいたティーカップをソーサーの上に叩きつけるように置く。
…マナーも何もあったものでは無い。
「父上に直談判を重ねて半年、今日ようやくロスティンへの変更を勝ち取ったのだ。上機嫌にもなるだろう?」
あまりの話に呆然としている間にも、次々と話が進む。
たまにしかない殿下との会話はいつもこの調子だ。
気が付いたら殿下が一方的に話し続けていて、私は曖昧に相槌を打つことしかできない。
でも、今日は、この話は…
「なんならお前も講師を変えてもらえるよう、俺が直々に父上に頼んでやろうか?あんなヤツに教わった魔法なぞ何の役にも立たんだろう。そうだ、それが良い!そうしよう!」
この話だけは…!
「結構です!私は今の、アクベンス魔術師団長のままで…!」
言ってしまった…!
先程まで上機嫌だったロジェット殿下のお顔がみるみるうちに顰めっ面へと変わる。
でも、ユーリス先生のお陰でせっかく毎日が楽しくなったのに、先生の授業が受けられなくなるのは…それだけは嫌だった。
バン!
殿下がテーブルを叩く音が響く。
「俺が好意で言ってやったのに、何だその態度は!!もう知らん!勝手にしろ!」
そう言って立ち上がり、ダンダンと足音を立てて殿下が去って行ってしまう。
直ぐに後を追った侍従がチラチラとこちらを気遣わしげに見ていた。
やらかした…。
お断りするにしても、もっと言い方があったはずだ。
今更後悔しても遅いけれど、多分私も自分が気付かぬうちに頭に血が上っていたんだと思う。
私は殿下が来る前とは正反対の気分で、椅子に座ったまま、ただ青い空を仰いだ。




