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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ
第一章

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20/76

お兄様の婚約者…



「だから貴女も自分の家でくらい肩の力を抜いていいのよ。私だってこの邸では大分気を抜いているもの」


「そういうものなのですか…?」


「そういうものよ」


 お母様が気を抜いている…?


 あまりに接点が少なく、そのようなお姿を拝見したことはないが、気を抜いたお母様はどんな感じなのだろう。


「そうですよね。母上なんか夜会の翌日はいつも朝寝坊して昼過ぎまで」


「エーリク!!」


 口を挟んだお兄様を遮り、ビシッと扇で指すようにお母様がお兄様にフォークを向け、睨みつける。


 お、お母様!?


 それはどう見てもマナー違反…

 家だから!?家だから良いの?ほんとに!?


「…貴方は旦那様やフィリリアを見習って、もう少し思慮深い発言を心がけた方がいいのではなくて?」


 動揺する私をよそに、お兄様に鋭い視線を向けたままお母様が普段より幾分低い声を出す。


 そ、それにしても、いつも朝食をご一緒できない理由が、まさか寝坊だったとは…!

 それとなく避けられているのではないかと疑ってしまっていてごめんなさい。


「す、すみません。その、女性相手でなければ大丈夫なのですが」


「そうね、でもその癖は明日までになんとかなさい。その調子ではいつまで経っても結婚どころか婚約者も決まりませんよ」


 そう言って、お母様がようやくフォークを下ろされる。

 強張ったお顔で両手を上げていたお兄様は、みるみるうちにシュン…となってしまっていた。


 明日、お兄様はもう何度目かのご令嬢とのお見合いが予定されている。

 いつもはいらっしゃらない夕飯時にお兄様がご一緒なのはその為で、今日は明日に備え早めに帰りなさいとお父様に帰されたそうだ。


「…善処します」  


 あぁぁ。お兄様が完全にしょんぼりして小さくなってしまった!


 そう言えば、お兄様がお父様の補佐をされ始めてから今まで失言で相手を怒らせたり失敗したという話は聞いていない。


 むしろ学園在学中はご友人が邸に遊びに来られたりということも多々あったので、男性のご友人はかなり多いように思う。

 どしうて女性にだけ怒らせてしまう発言をしてしまうのか…謎である。


「その、お母様、お兄様も悪気がある訳では…」


「それが1番問題なのよ…気をつけるにしても何に気を付けて良いか分からないでしょう?どこかにこの子のデリカシーゼロ発言を許容してくれる心の広いご令嬢が居れば良いのだけど」


 何とかお兄様をフォローしようとしたものの、返ってお母様に頭を抱えさせてしまった…。


 お母様に嫌われていない、と分かったのは暁光だったけれど、私はまだまだお母様とのコミュニケーションが足りないようだ。


「フィリリアはロジェット殿下の婚約者だし、エーリクにはなんとしても我が公爵家を継いでもらわなければならないのだから。そろそろ本当にまずいわよ。あぁ、インギリア公爵家との婚約が続いてくれてさえすれば…」


「母上、それはもう終わったことですよ…」


 あぁ…。お母様とお兄様の間にお葬式のような空気が流れてしまっている。


 我が国は近年の改革により、女性が家督を継ぐことが可能になっている。

 だけど…残念ながら我が家には私とお兄様しか居ない。


 公爵家の男児とあってお兄様にも幼い頃から決まっていた婚約者がいたのだが、お相手のご令嬢の「もう、わたくし耐えられません…!!」という決死の訴えにより破談になってしまったのだ。


 公爵家への嫁入りという好条件なので縁談は絶えないが、顔合わせの段階でお相手を怒らせてしまったり、泣きながら飛び出されてしまったり…と今の今までお兄様は婚約すら成立していない。


 「エーリク様は黙ってさえいれば好条件の貴公子ですのに」というのはロアナの言だ。


「とにかく!明日こそは、ご令嬢を射止めて見せなさい」


「…善処します」


 お兄様、先程からそのお答えしかしておりませんよ…。


 そのままこの日の夕食は、お葬式の空気のままお開きとなった。


 早めにお兄様のご婚約が纏まるのを祈るばかりである。



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