お転婆なお母様?
「そういえば、魔法の授業はどう?」
「え…」
久しぶりにお母様とお兄様、私の3人で夕食を共にできた日、恐れていた問いがついに来てしまった。
社交界の華であるお母様は各所の夜会に呼ばれているらしく、夕食をご一緒できる機会が少ない。
それ故に今まで聞かれることはなかったのだが…。
も、もしかして、もしかしなくても授業中の居眠りどころか寝落ちした挙句、先生に邸まで送っていただいていた私の醜態がお耳に入っていたりするのだろうか…!?
恐々と様子を窺い見るものの…普段からコミュニケーションが取れているとは言い難い為、お母様が何をお考えなのかさっぱり分からない。
「と、特に問題なく進んでいるかと…!」
大嘘である。
「そう。アクベンス魔術師団長はあなたに良い影響を与えてくれているようね」
ど、どういう意味だろう。これは遠回しなお叱りだろうか…!?
私を見て微笑みを浮かべるお母様の真意を邪推してしまい恐怖に駆られる。
「は、はい」
「母上、フィリリアが怯えています。含みのある言い方はよしてください」
蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまっていた私を、庇うようにそう言ったお兄様がお母様を半眼で見る。
「あら、含みなんて何も無いわよ」
「そもそも母上は微笑みが怖いです」
お兄様ー!!
大丈夫なのですか!?という顔でお兄様を見つめるが、お兄様は意に介さず続ける。
「最近のフィリリアは今までに増して愛らしいと、分かりやすく仰ればいいんです」
お兄様、今のそんなお話でしたか!?
お兄様が私を可愛がってくださるのは大変ありがたい。ありがたいのだが今じゃ無い。
今じゃ無い気がします!
「はぁ。本当に言外の意味なんてないわ。ただ最近のフィリリアの子どもらしい姿に少し安心したっていうか」
「子どもらしい…ですか?」
お母様の予想外の発言に驚いて尋ねる。
「ええ、以前までの貴女はまるでお人形さんみたいだったもの。いつも青白い顔で、何を言っても妙に大人びた対応しかしなくて、泣きも怒りもしないし」
后教育では貴族たる者、感情を表に出すのは相手に弱みを見せるのと同じだと。
みだりに感情的になってはならないと教わったのだが違うのだろうか…?
「私が貴女ぐらいの頃はもっとお転婆だったから、自分の娘なのに自分の娘じゃないみたいで。正直どう接して良いか分からなかったくらいよ」
お転婆なお母様がなかなか想像できなくて戸惑う。
私の知っているお母様は、いつも堂々としていて品があって淑女の鏡、といった印象だったから。
「でも、最近の貴女は侍女達と楽しそうに談笑したり、今も百面相していたり…。その方がよっぽど愛らしくて取っ付きやすいわ」
ひゃ、百面相してるの、私!?
それにしても…まさか、お母様にそんな風に思われていたとは。
確かに今までお会いした中で、お母様が私に対してここまで饒舌にお喋りをしてくださった事は無かったように思う。
夕食をご一緒できた時でも二言三言言葉を交わした後は私も何を話して良いか分からず、お互い黙々と食事をしていた記憶しかない。
薄々、私はお母様に嫌われているのでは…?と思っていたくらいだ。
「しかし、貴族の…公爵家の者としてはいけないことなのではないのですか?表情が読まれやすかったり感情を表に出すのは、はしたないことだと習いました」
これは聞いても大丈夫なのでは?と思い、普段はお母様に対してすることのない自分の疑問を口にしてみる。
「家の中では構わないわ。必要なのは気取られてはまずい相手、侮られてはいけない相手に醜態を晒さないこと。要は使い分ける技術よ。親しい者に対しても同じようにして、四六時中気を張っていたら…いつか心が壊れてしまうわ」
使い分ける技術…確かに私は今までどんな状況でも誰に対しても貴族らしく次期王妃として恥ずかしくない言動を!と、そう振る舞おうと必死だった。
そうしてお母様のおっしゃる通り、余裕を失っていたのかもしれない。
「それに、振り回されずある程度制御することができれば表情や感情も私達の武器の一つになるの。ただ隠せば良いってものじゃないのよ。心の中や手の内を全く晒さないまま、誰かと信頼関係を築くのは難しいわ」
「なるほど…」
お母様のお話は私にとって目から鱗だった。表情も感情も武器の一つ、そんな考え方もあるんだ。




