ロアナの主張
その日の帰り、私は馬車の中で歓喜していた。
奇跡が!奇跡が起きた…!!
なんと、今日の訓練は最後まで寝ることなく耐え切ったのである。
喜びのあまり小さくガッツポーズをする。
途中、ちょっとうとうとした時間はあったが、それは…そっと無かったことにしたい。
授業終わりまで起きていた、それが重要だ。
そうだ!今のうちに今日聞いたお話をまとめておかないと!
先生は訓練中、雑談だけでなく魔法についての話や方則なんかも織り交ぜて話してくれる。その場でメモを取りたいところだが訓練の性質上それはできないので、今までは翌朝に何とか思い出してノートにまとめていたのだ。
それが今日はまだしっかり覚えている状態でまとめられる!
手元のカバンからノートと万年筆を引っ張り出す。
魔法の授業が始まってからというもの、行きの馬車の中で急いで予習復習をしていたので馬車内での読み書きにも慣れたものである。
妃教育の送り迎えの為、手配してくださっている揺れが少なく乗り心地の良い馬車に感謝である。
あと、馬車酔いしづらい体質に産んでくださったお父様とお母様にも!
先生のお話をまとた後にも今日1日の授業て習った内容を確認していると家に着くまであっという間だった。
「お嬢様!?アクベンス様はどうされたんですか!?」
ご機嫌で帰宅した私を邸のエントランスでロアナが驚きの表情とともに出迎えてくれる。
「今日は最後まで起きていたから送っていただく必要がなかったの!」
「そ、そんな…」
なぜロアナはこんなに残念そうなのだろう。転移魔法が見られなかったから…?
「お嬢様をお送りくださるアクベンス様を眺めるのが、私やメイド達の楽しみになっておりましたのに!」
なるほど、どうやら先生の来訪は彼女達の日々の潤いになっていたらしい。
確かに私も先生は貴族男性の中でもかなり端正なお顔立ちをされているとは思う。
よく当たりを見回すと周囲で働いている使用人にメイド達が異様に多い…。
恐らくエントランス周りの仕事をこの時間帯に調整していたか、なにか用事を作って来ているのだろう。
「もう。ロアナは私が授業を最後まで受けられたことを喜んではくれないの?」
「それは喜ばしいことですが、そもそもお嬢様は根を詰めすぎなんです。お嬢様は適切な睡眠を取れる!私達は目の保養ができる!とっても素晴らしい日々でしたのに…」
私が拗ねたように言うと、ロアナが熱の籠った声で主張する。
睡眠時間が伸びたのは確かだけれど。
「ロアナの冗談はさておき、お嬢様の顔色が良くなって私も安心していたところですから、今日から以前の習慣には戻さず早めにご就寝されてくださいね」
ロアナの少し後に出迎えに来てくれたバーバラまでそんなことを言う。
今までの私、そんなに顔色が悪かったのね…。
「そうするわ。それにしても、ロアナは年下の男性が好みだったのね」
ロアナは確か今年で19歳だったはず、先生は数歳年下になる。ロアナはしっかりしているけれど愛嬌があって、バーバラを含め目上の人に可愛がられているので、なんとなく年上が好きなのだろうと思っていたので少し意外だ。
「まさか!流石にロアナも弁えております。アクベンス様の恋人の座を得ようとは夢にも思ってもいません。あと、私のタイプは年上です!」
「そ、そうなの…?じゃあどうして」
やっぱり年上が好みだった…ロアナの勢いに気圧されつつ問いかける。
「見目麗しいことに年齢は関係無いのです!今のお姿に癒されるのはもちろん、成長した姿を想像して楽しむこともできます!」
「そういうものなの…?」
「そういうものです!」
ロアナが拳を握り熱弁する。
恋もしたことが無く、自分の好みさえもよく分からない私は、まだそういった楽しみ方を理解するのは難しいけれど…ロアナが楽しそうでなによりだ。
「それに、貴族男性は私達を見下した態度の方が多いですが、使用人に対してもアクベンス様はとても丁寧に接してくださって!」
な、なるほど。
確かにユーリス先生は誰に対しても気さくで人当たりが良く、その上、礼儀と感謝の言葉を欠かさない。そのような場面に出くわす度「私も見習わなければ!」と何度も思った記憶がある。
「はいはい。お喋りはその辺にして、お嬢様はお疲れでしょうから、まずはお夕食にいたしましょう」
バーバラが呆れたようにパンパンと手を2回叩き、その後もまだまだ続きそうなロアナの熱弁を静止してくれたのだった。




