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紫水晶と星の花  作者: 星見七つ


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12/15

先生とお喋り



「可愛いブローチだね」


「あ、はい!領地に行っていたお兄様からお土産にいただいたんです」


 あの朝食の後、部屋に届けられたのは小さな箱に入った葡萄の実と蔓を模したブローチだった。葡萄の実の部分には紫色の美しい石があしらわれている。


 お兄様はあの朝食の後、すぐお父様と王宮へ向かわれたようで、箱に添えられたカードには


「僕の愛する妹フィリリアへ

普段使い用に良いんじゃないかと思って選んだんだ。使ってくれると嬉しいな」


と書いてあったので早速ロアナに頼んで今日のドレスに着けてきていたのだ。


「そういえば、ヴィンデミア公爵家の領地はワインが有名だったよね」


「ご存知なんですか?」


 このブローチが葡萄のモチーフなのはその為だ。

 我が家の領地は古くから葡萄の栽培が盛んで、貴族向けの高価なものから庶民向けの安価なものまで幅広く生産している。

 お兄様曰く、ヴィンデミア領のワインと言えば、誰もが「一度は飲んでみたいお酒」というくらいには我が国では有名なのだそうだ。


「うん。義父が好きでね、よく飲んでいるから。私はまだ飲めないんだけど」


 そう言えば、この国の成人年齢は18歳とされているので…先生はまだギリギリ未成年ということになる。

 分かってはいたものの、「まだ飲めない」と聞くと、なにかこう…不思議な感じだ。


「あ、でもこの間、ヴィンデミア領産の葡萄ジュースをいただく機会があってね。あれは香り豊かでとても美味しかったな」


「美味しいですよね!我が家ではよく朝食に出してくれるんですが、いつも楽しみで!」


 先生もジュース飲むんだ!?

 私は物心つく頃からもうロジェット殿下の婚約者で、妃教育が始まるのも早かったので領地に居た頃の記憶は無い。だけど、我が家の名産品を褒められるとやっぱり嬉しい。


 領地から届けられる葡萄ジュースは我が家の定番で、私のような子どもでも楽しめる自慢の逸品だ。



 今日も草原に寝転がりながら先生との話が弾む。

 私が起きていられる時間が長くなってきたからか、授業中にこうして会話を交わすことが多くなった。


 なんでも、他のことに意識を向けながら周囲の魔力を感じ続けるのが大事なのだそうだ。


「お土産かぁ…私もフィリリアにお土産を買って来たら貰ってくれる?」


「えぇ!?」


 突然の申し出に、つい今が訓練中だということを忘れて飛び起きそうになる。


「何処かに遠出されるご予定があるのですか…?」


「あはは。転移魔法で一瞬だけど遠出と言えば遠出かな」


 遠出されるなら、しばらく授業がお休みになってしまうのかな…?と思ったけれど。

よく考えればユーリス先生の場合その心配は要らなかったようだ。


 密かに毎日の楽しみになってきているこの授業が、この先も変わらずあることに内心ほっとする。


「私は魔物の調査や討伐で遠方に赴くことが多いから」


「魔物…」


 ふと何でもないことのように先生の口から不穏な言葉が飛び出す。初めてお会いした時も「魔物の調査討伐に行く事が多い」とおっしゃっていたっけ。


 我が家でもこの間、お母様が「他家の領地で魔物が出たと社交界で聞いたから用心するように」とお兄様にお声を掛けているのを見かけた。


「ああ、ごめんね不安にさせちゃったよね。心配要らないよ。魔物が出たと報告を受けて行ってみたら、実はただの魔獣でした。とか、畑を荒らす害獣でしたっていうのが殆どだし」


「でも本当に魔物だったり、危険もありますよね…」


 魔獣や動物が瘴気に支配されると錯乱し凶暴化して魔物となるのだそうだ。それ故に本物を見た事が無い人が勘違いで調査を要請することもあるのだろう。でも…。


 先生は悪戯に不安を煽らないように、こう言ってくださっているのだろうけれど「違う場合が多い」ということは本当に魔物だった場合もあったということだ。


「うーん。確かに魔物の案件も混じってるから今後増えてくるようなら対策を講じておかないといけないけど…。たとえ魔物相手でも引けは取らないし、私達がいる限り人は襲わせない。大丈夫だよ」


 先生の声色は優しいままなのに、力強い言葉が混じったことに少し驚く。


 そうか、普段マイペースでにこにこしていて揺蕩う水面のように穏やかな人だから忘れがちだけれど、国王陛下や前魔術師団長から直々に魔術師団長を任されるような方なのだ。


 それだけの実力を持ち、責任を担っている。



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