救世主ロアナ
罪悪感に襲われ、扉の前で逡巡していると廊下の角からワゴンを押したロアナが顔を出す。
ワゴンに乗っているのは恐らく私の朝食だ。
「あれ?お嬢様?」
「えっと、こ、これはその…」
声をかけられどう答えて良いものか…と、もじもじしていると、何を察知したのかロアナの手が優しく背中に触れる。
「大丈夫ですよ。このロアナにお任せください」
ロアナが自分の胸を軽く叩いて小声でそう言い、私の前に出て扉をノックする。
「旦那様、エーリク様、お嬢様の身支度が整いましたのでお連れいたしました!お入りいただいてもよろしいでしょうか?」
どうするつもりなのかと一瞬アワアワしてしまったが、ロアナの堂々とした様子に内心ほっとする。これなら私もついさっきロアナと一緒に来たように思うだろう。
「構わん。入りなさい」
扉の向こうからお父様の声で短い了承の返答が返ってくる。
ロアナが扉を開けるのを見て、まだ少し気まずさが拭えない私はロアナの後ろにサッと隠れる。
「フィリリア!ただいま!元気にしていたかい?」
「わっ…!」
お兄様のいつも通りの声を聞いて、ロアナの後ろからひょっこりと顔を出すと、待ちきれずにもう扉の近くまで来ていたらしいお兄様の手がすぐに伸びてきて両脇の下から抱き上げられる。
「おや、ちょっと見ない間にまた少し重くなった?」
顔の近くに抱えられるとお兄様のハネっけのある麻色の髪が少しくすぐったい。
「エーリク様!レディーにそれは…!」
「ふ、ふふふ」
抱き抱えられた直後のお兄様の言葉にロアナがすかさず苦言を呈する。
そのやり取りに、先程迄の緊張感の漂う空気が霧散したようで思わず笑みが溢れる。
私としては、お兄様のこういったうっかり発言はいつものことなので全く構わないのだが、そう遠くない未来にできるであろう義姉様にやらかしてしまわないか…多少心配ではある。
「ごめん、ごめん。もちろん身長が伸びたってことだよ?」
そう言いながらお兄様はチラリとロアナの方に視線を移す。私も釣られてロアナを見ると…半眼で疑いの眼差しをお兄様に向けていた。
ロアナ曰く、お兄様は「デリカシー無し男」なのだそうだ…。
「そうだ!フィリリアにお土産があるんだ。ここで会えると思ってなかったから今は手元にないんだけど、後で部屋に届けてもらうからね」
「わ!本当ですか?ありがとうございます。楽しみです!」
私が感謝を口にすると、お兄様の暖かな黄色の瞳も嬉しそうな色を浮かべて輝く。
お兄様の見目やお色はお父様に良く似ているのだが、性格が正反対なせいか受ける印象も大分違う。
上機嫌なお兄様に抱っこされたままテーブルの近くまで運ばれていく。
「さぁフィリリア、お兄様と朝食を食べよう!」
お兄様のお隣の席へ座った私の前にロアナが静かに朝食を並べていく。
その間に先程から密かに気になっていたお父様の様子を窺ってみるも、黙々と朝食を食べ進めているだけでこちらも先程までの厳しい雰囲気は感じられない。
お父様は元々必要以上のお話はあまりされない方だし…。
その後は、お兄様の領地でのお土産話に花が咲き、和やかな朝食の時間が過ぎていったのだった。




