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【短編小説】彫像

掲載日:2025/12/18

 俺は困惑した。

 俺の目の前には俺と言う彫像が置かれていたが、目の前にある彫像はどうみても俺では無かったからだ。

 だがその彫像には俺の名前が書かれた札が貼られているし、見ている人たちもこれは俺なのだと言って頷きあったり、その彫像を見ている俺と見比べて感嘆を漏らしていたりする。


 俺とは誰で何者なのか。

 毎朝、俺が鏡の中で見ている俺と言うのが日々少なからず変化しているのは理解しているつもりだ。

 太ったり痩せたり、クマが浮き出ていたり肌が荒れていたりと色々な変化がある。



 だが目の前の彫像はそういった変化とは違う、まるで俺自身とは似ても似つかないものだ。

 それは俺ではない。

 人間に似せて作られたもの特有の、不気味の谷などと言うものでは無い。

 それは俺からすれば明確に俺では無いのだ。



 俺はその彫像が俺であると言う事を拒否したいが、その彫像を作ったのは俺では無いから俺自身にその拒否権は無い。

 俺だと言われて置かれたその彫像は、紛れもなく俺なのだろう。



 一体、誰がその彫像を作ったのか。

 俺と言う人間に関わった多くの存在を対象にしたアンケートをもとに、俺のイメージを構築して作ったのだと彫像傍に設置された説明のプレートには書かれている。

 つまり、俺を知っている人間の中に存在している俺のイメージを具現化したものが、いま目の前にある俺なのだろう。

 だから身長や体型、髪質や目つき、歯並びだとか耳の形、手足の短さだとか太さ、そういった外見的なものから声質や動き、表情なども再現していると言う。



 そこまでは納得できる。



 それなりの人数からアンケートした結果だから、外見的なものは凡そ曖昧な感じであり、それこそ今の俺には似ていないはずだが周囲の人間たちは納得している風だ。

 到底、俺は納得できないが。

 しかしアンケートしたと言うその周囲の人間たちがイメージする俺と言うのが目の前の彫像であり、つまり外から見た俺なのだが、その本人である俺は目の前のそれに納得がいかない。

 それは俺ではない。


 何ももっと背がどうだの、体形がどうだの、姿勢だとか顔がとか言った話ではない。

 それは俺では無いからだ。



 みんなから俺はこんな風に見えてみたのだろうか、と思うと厭な気持になる。

 俺は俺自身が眉目秀麗だとか容姿端麗と言う訳では無いのは承知している。

 煩悩の塊と言わないまでも、だが明鏡止水だとかそう言った感じでもない自覚はある。


 だが目の前の俺ときたら!

 こんなに卑屈な卑しい貌をして周囲を伺いつつ、死んだ猿の様な目で愛想笑いをしているものなのだろうか!



 確かに、確かに人間は鏡を見る時に表情を作ってしまうから、自分の自然な表情を知らないと言うが、俺はこうも厭な人間なのだろうか。



 あまりの厭らしさに顔を背けたくなる。

 しかし俺はその俺と言う彫像から目を反らす事が出来ないでいる。

 その俺と言う彫像はやはり俺から目を離さない。

 だから俺はこれが俺なのだと言う事実から逃れる事ができずにいる。


 これは俺なのだ。

 俺自身が納得していようといまいと、それは結局のところ俺が周囲の人間たちに対して俺自身の行いがもたらした結果なのだ。

 そうやって俺が他人の中に作り上げた俺のイメージが目の前にある俺と言う彫像なのだ。


 そうなると、やはりそれは俺であり、その彫像と言う事になるのだから、俺の目の前にある彫像を俺は受け入れざるを得ないと言う事になる。


 結局は俺が作り上げた俺が目の前の俺なのであり、だから見ている人間たちは納得をする。



 厭なものを見た。



 俺は俺と言う彫像が置かれた部屋を後にして外に出た。

 外には何もなく、振り向いた部屋の中にも何もなかった。

 その時になって俺は初めて納得がいった。

「それは誰だって納得がいくさ」


 その日に初めて出した声は独り言だった。

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