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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
春香の片思い

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第9話 5月1週目

 水曜日の3時、私はロードバイクショップにいる。


 夏生さんと!


「あの子は?」


 冬馬の姿を探す夏生さん。騙してごめんなさい。嘘ついてごめんなさい。


「どうしても休めなくて、冬馬は来れませんでした」

「そっか。じゃ、今日はあなたに選び方を教えますので、あなたから彼に伝えてあげて」

「春香です。原田春香です」

「原田さん」


 ちぇ。


「夏生さんじゃないですか!」


 この前、私を門前払いした店員が駆け寄ってきた。


「ご無沙汰してます」

「夏生さん、今日は何を?」

「この子、原田さんに、初心者用のロードバイクを」


 夏生さんは有名人なんだな。

 うっとり。


「あれ?この前の……」

「はい。その節は……」


 一応、覚えててくれたんだ。


「知り合い?」

「前に一度、ご来店いただいたんですが、上手くご説明できなくて、すみませんでした」

「いえ。私の方こそ、何も知らずに来てしまって、すみませんでした」


 ペコペコしあう。


「ロードバイクが欲しかったって本当だったんだね」


 夏生さんが笑って話しかけてくれた。


「疑ってたわけじゃないんだけど、もしかして、からかわれてるのかな、と」


 からかってなんかないけど、その疑いは半分当たってて、どう反応したらいいのやら。


「夏生さんのお知り合いだったんですね。だから、これが欲しかったのか」


 店員が余計な事を言い出した。


「これ?」


 夏生さんがビックリしてる。


「いーなって……」

「お目が高いなぁ!」


 夏生さんが笑ってくれた。


「初心者にはこれは、ハードル高いと思うけど、うーん」


 腕を組んでる、夏生さん、かっこいい。

 ロードバイクようのウェアは、体にピッタリとしていて、鍛え上げられた筋肉が浮き出ていい。肘から下、膝から下は、引き締まった素肌が見えて尚いい!


「気持ちって大事だしなぁ」

「はい」


 私は気持ちを重視するタイプです。


「一応、またがってみる?」

「はい!」


 店員さんはいい感じに私たちを放っておいてくれて、夏生さんが勝手に自転車を持ってきて、私の試乗を見守ってくれた。


「お尻、固いです」

「全部そうなんだ」


 知らなかった。


「どこで乗りたいの?」

「通勤で」


 えっ?って顔して、二度見された。


「スカートとか履けないよ?」

「いいです」

「そう」


 他のメーカーのも、夏生さんに勧められるままにまたがってみた。


「どう?」

「はい」


 やっぱり、最初のがいいって思うけど、私には相応しくないんだろうな。


「そんな顔、しないで」

「?」

「第一印象は大事にしよう」

「えっと」

「最初のでいいと思うよ」


 わーい!嬉しかった。


 細かなサイズ調整があるみたいで、そこからは店員さんと夏生さんが、あーでもない、こーでもない的にガシャガシャとやってくれた。


 必要な装備も合わせて、23万くらいになったけど、夏生さんの紹介ってことで、20万にしてくれた。


「どうもありがとうございました」


 買った自転車をひいて、ショップから出る。


「なかなか、いい感じだ」


 夏生さんが褒めてくれた。


「じゃ、私はこれで」

「あ、の!お礼を!」


 自転車にまたがったと思った瞬間、もう夏生さんは十数メートル先にいた。


「早っ!」


 私は、固いサドルに四苦八苦しながら、家まで自転車で帰るしかなかった。


「ああ、自転車だと飲みに行けないって、こういう事ね」と、妙に納得。


 会社の最寄駅から家までは二駅だけだけど、線路じゃない道なんて知りっこないから、見覚えある道に出た頃には、もう真っ暗だった。




 病欠で休んだ(サボった)翌日に、不謹慎かと思ったけど、ロードバイクで出社した。


 想像以上に大変で、これは私の知識と言うか、常識が足りてないからなんだろうけど……車道を走らなきゃならないのか、歩道を走っていいのか、信号はどっちを守ればいいのか、いろいろ迷う事ばかりで、疲れた。


 しかも、私は、自他ともに認める、かなりの方向音痴だからね。予習はしたけど、迷子になりながら余計な道をいっぱい走った。出社時間ギリギリに滑り込む。汗だく。


 既に出勤してた冬馬が、出迎えてくれる。


「おお!すげぇ!本当に買ったんだな」

「ありがとう、冬馬!昨日、夏生さんと一緒に選んだ!」

「思ってたより、違和感ない」

「そう?」


 今日からはパンツスタイルでしか会社に来れない。あ、雨が降ればスカートだけど。どうせ、制服に着替えるし、通勤服なんてどうでもいいんだった。


 スタンドが付いていないこのタイプの自転車は自立ができなくて、好きなところに止められない。冬馬に協力してもらって、人目につかないモデルハウスの裏手に立てかけた。


 「駐輪場作ってくれって、部長に頼んでやろうか?」

 「いや、冬馬が目付けられると悪いから、それは自分で言うよ」




 制服に着替え、いつもの場所にスタンバイする。

 ボーっと窓拭きをしている時間は最高だ。


 夏生さんが通る。


「はっ」


 一瞬、こっちを見た、気がする。


 だよね?今、こっち、ちらっと、見たよね。


 ドキドキが止まらなくなった。




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