第8話 4月4週目
すっかり体調も良くなって、自転車屋さんに来てみた。
ママチャリとか、電動機付き自転車はなくて、ロードバイクしかないところ。
私以外のお客さんはロードバイクで乗りつけて来ていて、ピタッとしたウェアにサングラス、ごつめのヘルメット、蛍光カラーのナップサック、の方達がたくさんいらして……私だけ場違い感がすごくて、入り辛い。
店員さんは、そんな私にも声を掛けてくれた。
「初めてですか?」
「はい」
「どんなタイプをお探しですか?」
「街乗りできるやつを……」
夏生さんと同じメーカーを探す。
ここは譲れない、同じがいい。
「あった、これとか……」
「それは、上級者向けのモデルになりますので、最初の一台目には、他のがお勧めですよ」
「でも、これがカッコイイから」
「街乗りには、向いてませんよ?」
好きな人と同じ自転車が欲しいだけなんて、不純な動機をあっという間に見透かされた気がして、恥ずかしくなった。
「また来ます」
お金なら払うのに、売ってくれないんじゃしょうがない。
不貞腐れて帰った。
「もう、風邪治ったのか?」
「うん。ご心配おかけしました」
冬馬が窓拭きをしている私に話しかけてくれた。
「今日も自転車王子は出勤したのか?」
「まだ」
窓の外から目を放さず、そっぽを向いてしゃべる私を許してね。
「自転車買いに行くのか?」
「昨日、行ってみたんだけど、上手くいかなかった」
「上手くいかなかった?」
「初心者は欲しいのを買えないみたい」
「そっか」
なんか、ちょっと笑ってない?
冬馬の方は見てないけど、声で分かる。
「あ、来た」
窓にへばりつく。
やっぱ、カッコイイ。
「あれと同じのに乗りたいの?」
「正直言うと、乗りたいわけじゃない」
「乗ってる人と、話したいの?」
「そう。共通の話題が欲しいだけ」
「素直だな」
あーあ、行っちゃった。
「俺でよければ一緒に行ってやろうか?」
「冬馬が来ても同じだよ。でも、ありがとう」
「だよな」
冬馬がじっと私を見てる。
「一緒に室田さんに頼んでやろうっか?」
「え?」
「お前の自転車選んでくださいって、言ってやるよ」
「!」
そんなこんなで、我々は、またしても夏生さんの出待ちをしている。
「俺ら、完全にストーカーだな」
「付き合わせてごめん」
「いいよ。俺も好きでやってるんだ」
少しずつ日が延びてるとは言え、仕事終わりに1時間も立っていれば真っ暗だ。
「来た」
自転車のライトが近付いてくる。
冬馬が門の前に立ちはだかって、両腕を大きく振る。
キュッ
「危ないですよ」
夏生さんが止まってくれた。
「あの、俺たち、あなたの自転車に憧れてて、図々しいお願いなんですが、一緒に選んで欲しいんですけど」
一気にいったな。冬馬、すご。
「私がですか?」
「はい。初心者過ぎて、俺ら自分たちで選べなくて、アドバイスをいただけたらと。お願いできませんか?」
頭を下げる冬馬に合わせて、私も深くお辞儀をする。
「ははは。そんな風に頼まれたら、断り辛いな」
え、望みあり?顔を上げる。
夏生さんの過去一の笑顔ゲット。
「ゴールデンウイークなら付き合えるけど、君たちは仕事だろ?」
そう。住宅展示場は、一般の人が休みの日こそ稼ぎ時なのだ。
「ずっとってわけじゃないので、どこか一日休みを合わせます。よろしくお願いします」
「はい。では、水曜日でいいかな」
「はい!」
「駅前のロードバイクショップ分かる?」
「はい!」
「そこに15時にいます」
そう言って夏生さんは、颯爽と自転車にまたがり走って行った。
「冬馬!冬馬!ありがとう!冬馬!」
「今日は何でも好きなもの頼んでね!」
お礼がしたくて、いつもの居酒屋に連れてきた。
「じゃあ、遠慮なく」
そう言って、冬馬はてんぷらの盛り合わせとローストビーフのサラダを頼んだ。
「今夜はジャンケンはしません。好きなネタを先にどうぞ」
「そりゃ、どーも」
茄子から食べる冬馬。
「それにしても冬馬も自転車買うなんて、意外だな」
「俺は、行かないよ」
「え?」
「二人同時には休めないだろ。俺、あんな自転車要らないし」
「だって、俺たちって……」
「そう言わないと変だろ?」
サラダからローストビーフだけをかっさらう冬馬。
「お前、病欠して、ひとりで行けよ。どうせ、今からじゃ有給申請通るわけねーし」
「とうまぁ」
泣きたくなった。
「がんばれよ」
「ありがとう」
なんだか、すごく食べたくなって、てんぷらの盛り合わせとローストビーフサラダを、もう一セット追加した。
冬馬は、また、茄子のてんぷらを取った。




