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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
春香の片思い

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第5話 4月1週目

「「「おはようございます!」」」


 ひゃー、初々しいっ!ねっ?冬馬もそう思うでしょ?!

 新卒の5人の為に、入社式が行われた。


「あのさ、言いたいこと分かるけど、いちいちこっち見ないでくんない?」

「そんなつれないこと言わないで?とーまさん」


 5人の内訳は、男子3人、女子2人、で、女子1人を除く、4人が営業職だった。


「営業、多いね」

「売ってなんぼだからな」


 4月に入ると、営業よりも、私たちバックオフィスが忙しくなる。

 具体的には納期の調整で、全てがお客さんの希望に合わせて工事や納品を出来るわけではない。だけど、それを理由に注文を取り消されるなんてことはあってはならないのだ。


「冬馬が頑張った受注かもしれないもんね、これからは私たちに任せて」


 小さな声で、決意表明。


「頼むな」

「おう!」


 任せとけ、親友よ。

 胸をトンと、グーで叩いて見せる。




「今日は絶対に残業なしだから!」


 一番必死な山本先輩。笑って申し訳ないけど、面白過ぎる。笑いを堪えつつ、一生懸命本日の業務を終えてゆく。


「終わりました!」


 本当の事を言うと、もうちょっとやった方がいい気もするけど、今日は冬馬が企画した新入社員歓迎会だもの、遅れはとれない。


 制服から私服に着替える。

 一応、一番のお気に入りのワンピースを着てきた。


「原田さん、私服、可愛いですね」

「そう?」


 なんて、5つも年下の子におだてられて、上機嫌になってしまう。


 場所は冬馬と決めた中華のレストラン。

 部屋の下見もしたし、コース料理の味見もした。もちろん、冬馬の自腹で。


「君たちには、おおいに期待していますので、遠慮なく活躍していただいて……」


 部長のウザめの挨拶をやり過ごし、ようやく「乾杯」、ふぅ、長いんだよな。

 今日は、冬馬のサポートに徹底すると決めているから、幹事No,2として動く。


 はい、飲み物お代わりね。はい、次の料理ね。はい、お皿もっとね。はい、はい、はい。

 新入社員が会社のみんなと打ち解けてゆく様子を見られるのは幸せ。


「よかったね、大成功なんじゃない?」

「春香のおかげだ、ありがと」


 冬馬が珍しく、素直にお礼を言った気がした。


「どういたしまして」

「飲めてる?」

「そこそこね」


 なんて……嘘。ちっとも飲めてない。でも、冬馬のせいじゃないから、そう言って、お手洗いに失礼した。

 迷路のようなデザイン。もともと方向音痴で、どこにいるのか分からなくなってしまった。


 ふっ、と。


 あっ、れ?


 夏生さん。


 どうして?


 思いがけない出来事に、足が勝手に追っかけてしまう。

 ある一室に入ってしまった。


 正真正銘の迷子なので、会計カウンターに行って、戻るべき部屋を確認する。


「お客様は『蓮の間』ですので、このまま、真っ直ぐ進んでいただいて、突き当りを右に……」

「ありがとうございます。ちなみに、『菊の間』の宴会は何時までですか?」

「21時までとなっております」

「ありがとうございました」


 ニヤニヤしながら、蓮の間に向かう。

 菊の間と同じ時間に、お開きになる。


「とーま、とーま」

「なんだよ、迷ったのか?まさか、酔ってないよな?」


 ほとんど飲んでないんだ、迷ったことは認めるけど、酔ってるわけないでしょ。


「あのね、夏生さんがいた」

「は?」

「菊の間で、ここと同じ時間でお開きになる」




 ほぼへべれけの皆を見送る。

「二次会のカラオケは僕たちで!」そう言ってくれた、入社3年目の後輩君たちにお任せする。


 私は、レストランの入り口に立っている。

「お気を付けて」と笑顔で手を振り、絶対に動く気はない。


「春香……まさか、待ってる?」

「まさか、じゃない。当然、待つ」

「はぁ」

「なんで、冬馬が溜め息つくの?」

「いや、ごめん、そういうつもりじゃ」


 どやどやと、黒っぽいスーツを着た集団が出てきた。


 室田一族か?


 自分の靴を見て、うつむく。


「あ、の」


 声がして、顔を上げる。


 夏生さん……話しかけられた……


「まさかですね」


 苦しくて、声が出ない。私……そんな……


「あの、こんばんは」


 冬馬?


「こいつの同僚の林田と申します。このあと、って、ご予定はありますか?」

「いいえ。私たちはこれで解散なので、特には……」


 夏生さんの目線の先には、散り散りになってゆく、スーツ姿の男性たち。


「もし、よろしければですけど、私たちと一杯如何でしょうか?」

「なぜ?」


 ガンバレ、冬馬!


「原田がお世話になったと伺ってまして……」


 テンションが下がってゆく冬馬、もっとガンバるんだ!


「では、せっかくお誘いいただいたので……」


 ハ、ニ、カ、ン、ダ、え、が、お!!!!


 夏生さん、最高!

 冬馬も、最高!!




 私たちは静かなバーに入った。

 本当のことを言うと、もう少し、お酒が入ってたらって思った。

 しらふで、夏生さんと、何を話していいのやら……


 こんな私を、一生懸命盛り上げようとしてくれる親友に、金輪際、足を向けて眠れない。


「会社の者から、以前、見学に来ていただいたと伺いました」

「はい。5、6年前になります。リフォームの相談に伺いました」

「ご自宅ですか?」

「はい」


 飲み物が出てきて、私はオレンジジュースみたいなお酒に口をつけた。

 半分、パニックで使い物にならない私に代わって、冬馬がいい仕事をしていた。


「改装は……家族構成が変わったとかですか?お子さんが生まれたとか……」

「いいえ、違います。子どもはいません」


 ホッとして、グラスを傾けた。


「妻と二人暮らしです」




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