第47話 2月3週目
もう何度目の挑戦か忘れた。
春香とヒルクライムに挑む。
夏生さんと秋子さんもいる。
「今日は山頂まで行きましょうね、冬馬さん」
気合十分の秋子さん。
「はい!絶対付いて行きます!」
俺の気合いもみなぎっている。
「君か!HARUKA!」
と言って、ステファンさんが春香に抱き付いた。
「っ!ちょっと!」
引きはがす。
ステファンさんが俺にウィンクをしてきたので、乱暴に片目を閉じて返す。
「冬馬がウィンクした!」
春香がゲラゲラ笑っている。
「いいんだよ。フランス人にはこれが正しいリアクションなんですよね?秋子さん?」
秋子さんはしゃがみ込んで笑っている。
「こら、秋子っ」
夏生さんも笑いを堪えてるようで、顔が変だ。
「騙したんですか?」
「まさか!間違ってはいないでしょう?夏生さん」
「間違ってはいないが……私はやらない」
「ええっ!」
驚いてステファンさんを見たら、またウィンクをしてきた。
つい、条件反射でウィンクを返してしまう。
みんなが大爆笑している。
「はぁ……」
ま、春香の笑った顔が見れたからいいや。
夏生さん、春香、秋子さん、俺、ステファンさんで走る。
「ステファンさんもロードバイクに乗るんですね」
「もともとは、私とフランスの同じチームに所属してたんだ」
「ボクは怪我して、NATSUKIのサポートに回ったんだけどね。今でも好きでよく走ってるよ」
空気は冷たいが、たっぷりの日差しが気持ちいい。
ペダルを漕ぎ始めると、体の内側から熱が発してくる。冷たいと熱いの感覚があらゆる箇所で同時に発動している。息が切れてきて、自分の呼吸と風の音しか聞こえなくなってくる。
「あ」
パン屋の看板を見て、前回リタイヤした半分の地点と気付く。
まだまだ行ける。余裕ではないけど、山頂まで行ける気がしてくる。
前を走る秋子さんの脚もしっかりとペダルに付いてて、大丈夫そうだ。
ステファンさんが隣に来た。
「TOMA、休憩挟むか?」
俺は首を横に振った。
ステファンさんは俺を追い抜き、秋子さんにも同じことを聞いた。
秋子さんも首を横に振っていた。
そのまま春香と、夏生さんのところに行って、また最後尾に戻って来てくれた。
無心でペダルを踏んでいたら、いつの間にか山頂にたどり着いていた。
「やりましたね、冬馬さん!」
「はい!お陰様で!」
一人だったらリタイヤしていたかもしれない。
「春香は最初からここまで来れたのか?」
「うん」
「すげぇな」
色違いの揃いの自転車を並べて停めて、山頂のカフェに入った。
屋外のテーブル席を囲む。思い思いの注文をして、テーブルが埋められていく。
「嬉しいわ」
秋子さんが言った。
「ずっと憧れてたの。だけどまさか私が夏生さんとロードバイクで走ることができるなんて、夢にも思ってなかったわ」
「ボクはAKIKOはいつかやるだろうって思ってたけど……想像以上に時間がかかったね」
ステファンさんが秋子さんの肩を抱いた。夏生さんはこれを見ても平気なんだろうか。俺なら絶対引きはがす。
「春香さんのお陰よ、ありがとう」
「私ですか?」
「ずっとお礼を言わなきゃって思ってたの」
「そんな、お礼されることなんて別に……」
口いっぱいにロールケーキを頬張っている。生クリームがほっぺに付いてるぞ。
咄嗟に、俺の手で拭う。まさかとは思うが、ステファンさんが舐めたりしたら大変だ。
「NATSUKIに惚れてたんだって?」
「おい、ステファン」
夏生さんが気まずそうだ。
「……はい。ロードバイクで出勤する夏生さんに心を奪われてしまって……」
「TOMA、言わせておいていいのか?」
「知ってましたし。夏生さんを見ている春香が嬉しそうで、可愛くって、どんどん好きになったんです」
「まぁ!素敵」
「私も、春香さんに感謝している」
夏生さんが春香をじっと見て話し始めた。
「秋子にロードバイクを買おうと思ったのも、こうしてツーリングを楽しめているのも、君のお陰だよ。ありがとう」
「い、いえ、どういたしまして……」
「レディース、NATSUKIのどこがいいんだよ。自転車に乗ってなければただのオジサンだろ?」
「それは違います」
「それは違うわ」
「それは違うと思います」
春香、秋子さん、俺は同時に答えた。
「TOMAはいつから、レディースに加わったんだい?」
ウィンクの往復発生。
「夏生さんとお話して、見た目のカッコ良さだけじゃないものを感じました。春香がどうして夏生さんを好きになったか、分かってしまいました」
「恥ずかしいな」
「本当です。春香の好みに寄せようと必死でしたが、どんなに俺が頑張っても夏生さんのようには到底なれません」
「今は、冬馬が好みだよ」
春香が言った。僕だけをじっと見て。
「今は、冬馬が本当に好きな人」




