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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
冬馬の告白

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46/48

第46話 2月2週目

 バレンタインデーにチョコレートを渡して歩いたのは初めてだ。

 そもそも男が渡すものなのか?と思わないでもなかったが、感謝の気持ちを伝えるのに男も女もないもんな。


「櫻田さん、喜んでたね」

「ああ」


 最後の紙袋を居酒屋に持って行く。

 バレンタインディナーは何がいいか春香に聞いたら、茄子のてんぷらがいいと言った。


「いらっしゃいませー」


 いつものバイト君が明るく声を掛けてくれる。


「テーブルとカウンターどっちにしますか?」

「カウンターにしようか」


 と、春香が言うので、そうした。


「これは春香から渡してくれないか?」


 紙袋を持たせる。


「オッケー」


 生中を2つ持ってきてくれた彼に、春香が言う。


「いつもありがとう、はい」

「え?!オレにっすか?いーんすか?」


 バイト君が俺を見た。


「いつもありがとう」


 なんと言っていいか分からなかったから、春香のセリフをパクった。


「あざーす!もらえると思ってなかったんで、マジで嬉しーっす!」


 俺らの注文をメモし、バイト君はスキップしてキッチンに向かった。


「喜んでもらえてよかったね」

「だな」

「好きな人からじゃなくても、チョコもらったらあんなに嬉しいもんなの?」

「さあ、知らない」

「去年、あげたよね?」

「好きじゃない人からもらったことがないから、分からない」

「……カウンター席にして良かった」

「なんで?」

「そんなこと、面と向かって言われたら耐えられない」

「なにを?」

「にやける顔を」


 春香の顔を覗き込む。


「ちょっとっ」


 叩かれた。痛くない。


「今年はくれないの?」

「なにを?」


 意地悪だな。


「チョコレート、俺にくれないの?」


 期待を込めて言ってみたけど、無いのは分かってる。

 荷物を持ってないからな。


「朝、自転車だったから……家に置いてきた」

「ふーん」

「取りに来てくれる?」

「へ?」

「この後、一緒に家に取りに来てくれる?」

「ああ、いいよ」


 本当だ。カウンター席にして良かった。


「お待たせしましたー」


 てんぷらの盛り合わせが運ばれてきた。


「今日は、いっこサービスしてます」


 そう言って、指さされた先には、茄子のてんぷらがあった。


「いつもジャンケンしてたの見てたんで、今日はふたつにしてもらいました!」

「ありがとう!嬉しい!わーい!」


 春香が喜んでいる。


「ありがとう」


 春香を喜ばせてくれて、本当にありがとう。




 春香の部屋は、なんと言うか……想像以上に、自転車自転車してた。


「女の子っぽくないって、思ってる?」

「思ってる」

「夏生さんと話したくて始めたんだけど、もう、夏生さんとは関係なしに、自転車にハマってしまって……こんなになっちゃったよ……」

「好きなことがあるって、いいよな」


 突っ立ってたら、「そこ座って」と言われて座る。


「なんか、選んでたら私も食べたくなっちゃって……」


 そう言って、チョコレートアイスが出てきた。


「美味しそう」

「でしょ?一緒に食べるなら、アイスでもいいかなって。っぽくなくて、ごめん」

「いーよ、こっちの方が嬉しい」


 春香とアイスを頬張る。

 冷たくて、甘くて、苦くて美味しい。


 食い終わった。

 俺の番だ。


「お茶でも飲む?」

「いや、いい」


 春香が皿をさげてる隙に、鞄から取り出す。

 小さな箱を手の平に包んで、隠す。

 いや……さすがに緊張するな……


「ちょっと、ここ座って」と、今度は俺が促す。

 春香を俺の前に座らせる。

 両手を前に差し出し、上の手をどける。


「これ、俺から」


 ころんとした白い箱を手渡す。


「春香、俺と結婚してくれるよな?」


 春香の両手が俺の手に触れる。すごく冷たい手だった。


「ありがとう、冬馬」


 泣かれてしまった。見たかったのは笑顔の方だけど、今日はこれでもいいや。

 春香が箱を受け取り、蓋を開ける。


「えっ!」


 指輪は2つ入っている。


「こっちが婚約指輪で、こっちが結婚指輪だって、あれ?逆だったかな、あれ?」


 あんなに店員さんに確認したのに、混乱してきた。


「高かったのに」

「いい自転車買えるよな」


 気に入ってくれたかな。

 この前、一緒に見に行った指輪を、俺は3つとも買っていた。

 大きな石が付いてるのと、小さなきらきらした石がいっぱいついてるプラチナの指輪を春香に、柔らかいオレンジ色に見える金の指輪は俺の結婚指輪にした。


「ありがとう……」


 春香が見つめる箱から、指輪を取り出し、春香の指に通す。


「こちらこそ、ありがとうな」


 春香が笑った。

 やっと、俺が春香を笑顔にできた。




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