第41話 1月1週目
年末に連絡をしてみたところ、室田さんご夫妻は早めに年末休暇に入られたというので、お礼を言うことができず、仕事始めの今日、向かいの会社の前で入り待ちをしている。
寒いけど、今日も自転車で来られるのだろうか。
日持ちのする羊羹にしたので、車の日に持ち帰っていただければいい。
「冬馬君!」
「おはようございます、秋子さんも自転車で通われてるんですね」
「ええ、最近、やっと会社まで来られるようになったの」
照れくさそうに笑って、愛らしい人だと思う。
「イタリアンレストラン、譲っていただいて、ありがとうございました」
頭を下げた。
「あら、ばらしちゃったの?」
「私じゃないよ」
「お店の方に聞いて……キャンセルの代わりに僕を紹介してくれてありがとうと、お伝えくださいって……」
「そういうことね。詰めが甘いわね、私も」
「これ……つまらない物ですが」
羊羹の入った紙袋を渡す。
「あらあら、気を遣わせてしまってごめんなさい」
「いえ。こちらこそ、お気遣いいただき本当にありがとうございました。ちゃんと、断ることが出来ました」
「それはよかったわ!」
「では……」
失礼しようとしたら、夏生さんに話しかけられた。
「今日は、自転車か?」
「はい」
「春香さんも自転車かな?」
「はい。たぶん」
「今夜、うちに来ないか?君と春香さんに、完成した玄関を見せたい」
「いいんですか?」
秋子さんが、うんうんと頷いている。
「仕事が終わったら、連絡をくれないか?一緒に自転車で向かおう」
「よろしくお願いします!」
春香が磨くいつもの窓の前で待つ。
「おはよう、冬馬、なんでここに居るの?」
「おはよう。春香を待ってたんだ」
「なんで?」
「今日、室田さんちに招待された」
「マジで?」
「ああ、帰りに4人で自転車で行こうって」
「ひゃー!マジでー?!」
春香が飛び上がって喜んだ。久しぶりに見るな、こんな春香。
櫻田はもう俺に話しかけることは無くなり、職場での平穏が戻って来たことにホッとした。
「待ったか?」
「いいえ、僕たちも今来たところです」
「今日はお招きいただき、ありがとうございます!」
「リフォームね、なかなかいい感じに仕上がったのよ。是非、お二人にも見ていただきたいわ」
夏生さん、秋子さん、春香、俺の順で走る。
電車でしか行ったことが無かったけど、自転車でも結構な距離があるな。
たっぷり40分走ったところで、室田家に着いた。
「行くわよぉ~」
ノリノリの秋子さんが、玄関のドアをもったいぶって空ける。
「じゃじゃ~ん!」
「「おお~っ!」」
「すっごい素敵です!マジで、めっちゃカッコイイ!」
「本当!こんな風に自転車を並べられる家なんて、すげー憧れます!」
「秋子……二人に気を遣わせてるぞ」
「いいじゃない。あなただって、気に入ってるくせに」
急な来客にも関わらず、家はとてもきれいに片付いている。
「夕飯をね、どうしようか迷ったんだけど」
「いえ、お気遣いなく。もう見せていただいたので、失礼させていただきます」
「なぜだ。せっかく来たのに、上がって行けよ」
「でも……」
春香を見る。自転車しか見てない。
「おい、どうするよ?」
小さな声で聞いた。
「お邪魔しまーす」
「おいっ、お、お邪魔します」
春香に続いて、慌てて靴を脱ぐ。秋子さんは冷蔵庫からレタスを出して、春香を呼んだ。
「サラダだけ作ろうと思ってるの、手伝ってくださる?」
「はい」
「もう少ししたら、お寿司が届くから、ちょっと待っててね」
「すみません」
そんな、何から何まで……
「気にすんな。秋子はお節介を焼いてるときが一番生き生きしてるんだ、好きにさせてやってくれないか?」
「夏生さん……」
キッチンからお呼びがかかった。
「冬馬さん、帰りは夏生さんが車で送って行くので、安心して飲んでいいわよ」
「そんなの、さすがに悪いです!って、春香!」
「もう、いただいちゃった、てへっ」
秋子さんと赤ワインを飲んでいる。
参ったな。
「冬馬君は何がいい?赤ワインにするか?」
「はい……いただきます」
「お寿司に赤ワインは変ね、後で白を開けましょう」
お寿司が届いて、大きな桶をテーブルに置いた。
それぞれの小皿に食べたいものを取って、秋子さんと俺はテーブルの椅子に、夏生さんと春香はリビングのソファに座った。離れてはいるが、4人で談笑するのに、問題はない。
「春香さん、聞いた?冬馬さん、後輩さんにきちんとお断りしたみたいよ」
秋子さん、いきなりじゃないですか?それとも、これは自然な流れなのでしょうか。
「そうなんだ?」
春香が不思議そうに俺を見ているが、喜んでいるようには……到底見えない。
「私は、君たち二人はお似合いだと思うけどな」
夏生さんが後押しをしてくれている。
「春香、俺さ……」
「私たちは、このままでいいよね」
先に言われてしまった。
なんでだよ。俺、なんかした?




