第40話 12月4週目
クリスマスイブ……どうにも気が重い。
いつものスーツで出社する。
今日はイタリアンレストランに行かなくてはならないから、自転車では行けない。
「とぉーまさぁーん、おはよー」
「だからっ」
名前で呼ぶな、って言おうとして思い直す。
今日は、こいつから告白してもらわなきゃならない。
「好きです、付き合ってください」って言ってもらって、初めて「ごめんなさい、他に好きな人がいます」って言えるもんな。
「おはよ」
いけそうだと、こいつに勘違いをさせないとな。
気持ちをもて遊ぶつもりはサラサラないんだ。これは仕方がない事なんだ、ごめんな。
「おはよう、冬馬」
春香!今のやり取り、聞かれたかな。最悪のタイミングだ。
「おはよう、春香」
「えー、とぉーまぁー、私も、おはよー、モモって言ってぇ」
うるさい、黙れ。
「おはよう、モモ」
春香、違うんだ、分かってくれ。どうか誤解しないでくれ。
こいつを切り離す為に、仕方なくやっていることなんだ。
聞いてたかどうか分からないが、春香は行ってしまった。
「今日はぁ、どこに連れてってくれるんですかぁ?」
「イタリアン」
「えー、ちょー楽しみぃ」
「終業時間にここで待ち合わせな。1分たりとも遅れないよう、集中して仕事しろよ」
「はぁーい」
櫻田を行かせて、ふぅっと溜め息をつく。
「へぇ、どこのイタリアン?」
ビックリして跳び上がる。
「な、なんだよ!」
あっちに行ったはずの春香が、なんで後ろから現れるんだよ!
「ビックリさせんなよ……」
「で、どこのイタリアン?」
「室田さんちの近く。紹介してもらったんだ」
「ふぅ~ん」
「今度、一緒に行くか?」
「やめとく」
あ……俺のハート、パンクした。
今日、走り切れっかな。
「お待たせ」
「ちょっとぉ、モモには遅れんなって言っといて、とぉーまが遅刻なんてぇ」
「悪い悪い」
重っ!急に腕に櫻田が絡みついてきた。
「やめろって、マジで、そうゆうの勘弁して、な?」
春香に見られてないか、見回す。
大丈夫そうだ。
「照れてるぅ」
「違うわっ!」
お店はとてもいい雰囲気で、一緒に来るのがこいつで無ければ、と思わず溜め息が出る。
「すてきぃ、とーまぁ、ありがとぉ」
「どういたしまして」
いつでもお前からの告白を待っているぞ。
「今日はお越しいただき、ありがとうございました」
シェフがご挨拶に来てくれて、コース料理が始まった。
どれもこれも、美味しいのだが、ちっとも楽しくない。
春香と食べたフライドチキンの方が、良かったな、なんて言ったら、お店の人にも秋子さんにも失礼過ぎだよな。
「とぉーまぁ、もうお腹いっぱいで食べれなぁい」
「そうか」
春香のなら代わりに食ってやるけど。ま、あいつはそもそもお腹いっぱいなんて言ったことないけど、お前のは食えない。
「デザートをお持ちしてもよろしいでしょうか?」
「はい」
と言いつつ、焦る。
早く告白してくれよ。
好きだって言ってくれないと、今朝のあれ、意味ないだろ?
デザートプレートを持ってきてくれたボウイに声を掛けられた。
「本日は、誠にありがとうございました。室田様ご夫妻にお会いすることがありましたら、くれぐれもよろしくお伝えください」
「はい」
「まさか、昨日の今日でキャンセルされますと、さすがにお店も空席が出来てしまうところでしたので……」
「どういう事ですか?」
「室田様には毎年ご利用いただいているのですが、今年は海外におられるとのことで、キャンセルを失念されていたそうで……林田様をご紹介いただきまして、助かりました」
「そうだったんですね」
まさか、ご自分たちの予約分を譲っていただいてたなんて夢にも思わなかった。しかも毎年恒例のレストランを……罪悪感で胸が締め付けられる。
「とぉーまぁー、この後、どうするのぉ?」
「櫻田さん、話があるんだ」
もう駄目だ。待っていても告白はしてもらえないかもしれない。
「櫻田さんが俺の事を気に入ってくれてるのは分かってるつもりなんだけど……」
「えぇー、なにぃ?きゅーにぃ」
秋子さんと夏生さんの親切に、俺は勇気でお返しをしなくてはならない。
「俺、春香の事が好きなんだ」
「えっ!」
「ごめん。だから、もう……」
「別に、私、とーまの事とか好きじゃないし!」
そう言って、櫻田は席を立ってしまった。
ふぅ
なんだ、結構あっけなかったな。
もっと早くに言えればよかったけど……今さら言っても仕方ないか……櫻田には申し訳ないことしたな……
ようやく終わった。
逆告白は、こうして終止符を打った。
室田さん夫妻にお礼を言わなくては。
そして春香に気持ちを伝えなくては。




