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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
冬馬の告白

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39/48

第39話 12月3週目

 はぁ……もう、なんもやる気しねぇ……あぁ、だりぃ……


 自転車を漕ぐ脚は勝手に動いてくれるから、俺はなんにも頑張んなくても会社にはいずれ着く。


 そっか。今日は、休みか。

 自転車がないのを見て、春香が有休を取ってた事を思い出す。


「とおーまさぁーん」

「はあ?!なに、名前で呼んでんだよ、やめろよ!」


 俺の悩みの種、櫻田が走ってきた。


「えー、だってぇ、原田さんだって、そぉ呼んでるじゃないですかぁ」

「春香はいいんだよ」

「私のことも、モモって呼んでくださぁい」

「断る!」


 くっそ、苛つく。


「とおーまさぁーん、どこのお店に連れてってくれるんですかぁ?」

「林田さん、だ!」

「ねぇ、お店、どぉーしますか?」


 うるさい、うるさい、うるさい。


「決まったら知らせるから!」




 櫻田を追いやって、スマホを手に取る。

 春香にメッセージを送る。


『クリスマスの店、一緒に選んでくれないか?』


 夏生さんの時は、俺が相談に乗ったんだ。

 これくらいしてくれるよな?


 ピコン


『エイジングビーフでいいんじゃない?』


 なんだよ、それ。

 俺が櫻田に取られちゃっていいのか?

 秋子さんは立場が危うくなって、心を入れ替えたって言ってたぞ?




 公私混同が甚だしいのは分かっていたけど、秋子さんに電話した。もうどうしたらいいのか、本気で分からない。


「お仕事中にすみません、林田です」

「冬馬さん、どうされたの?工事なら無事に完了したので、書類はお返ししたつもりなのだけど」

「はい。あの……」

「春香さんのことね?」

「はい」

「今夜、居酒屋さんで会いましょう。夏生さんも連れて行っていいかしら?」

「申し訳ありません。お手数をおかけします」


 櫻田に捕まらないように過ごし、終業後、急いで居酒屋に行った。


「冬馬さん」

「冬馬君」


 手招きをしてくれる室田夫妻を見て、泣きそうになってしまった。

 何をやってるんだ、俺は。

 こんなこと話せる友人がいない。

 向かいの会社のお偉いさんだぞ?うちの会社のお客さんだぞ?春香の好きな人で不倫を応援してしまった男性とその奥さんだぞ?


「どうもすみません」

「気にするな。私が先に君に世話になったんだ」

「いえ。そんな……」


 このご夫婦は、どこまでも良い人たちなんだな。


「ごめんなさいね。きっと私が余計なことを言ったせいよね?」

「秋子は何を言ったんだ?」


 夏生さんは生ビール、秋子さんは赤ワインを飲んでいた。

 俺も生中を頼む。


「押して駄目なら引いてみろって、けしかけてしまったの」

「そうか……で、冬馬君、どうしたんだ?」

「俺を狙ってくる後輩にクリスマスに誘われて、春香には予定があるって断られてたから、その後輩の誘いに応じたんです」

「まぁ」

「それで、春香に店はどこがいいかな、って相談したら、エイジングビーフの……二人の思い出の店を提案されて」

「あちゃ」

「なんか、全くもって脈無しです、俺」


 ビールが届いた瞬間、次のビールを頼んだ。

 もう、ほぼ一気だ。


「そんなはずはないんだ。春香さんは冬馬君のことが気になってるって、私に言ったんだ」

「夏生さんにですか?」

「ああ、夏に山で会って」


 夏生さんは秋子さんを見た。

 秋子さんは「大丈夫です。続けてください」と言った。


「だけど、冬馬君には別に好きな人がいると、春香さんはそう言ってたんだ」

「その誤解と言うか、勘違いされてて……春香も俺の気持ちに気付いててもおかしくないと思うんですけど、知らんぷりされちゃってて……」

「辛いわね」


 夏生さんがてんぷらの盛り合わせを俺の前に押し出した。


「好きなのを取ってくれ」


 そう言われて、お辞儀をして、茄子のてんぷらをいただいた。


「春香さんの気持ちはおいおい対処を考えるとして、まずは来週、その後輩さんにきちんと冬馬さんの気持ちをお伝えしなくてはね」

「そうだな、彼女もきっとそれなりに頑張っているのだろうから」

「はい……」


 気が重い。


「秋子さん……その……どこかいいお店知りませんか?」

「そうね、気を持たせ過ぎず、クリスマスっぽいところよね……」


 秋子さんと夏生さんは目配せをしてから、俺にイタリアンのお店を紹介してくれた。


「たまに行くのよ。この時期はクリスマスディナーというコース料理があるから、それがいいと思うわ」

「ありがとうございます」

「24日でいいのよね?」

「はい」

「私が予約をしておいてあげるわ」

「いえ、そこまでは……」

「たぶん、もういっぱいで予約が出来ないの。私から頼んでおくから」

「恐れ入ります。秋子さん……ありがとうございます」


 軽く酔って、一人でふらふらと歩く。

 春香は夏生さんに、俺の事が気になるって言ったんだよな?

 だったらなんで、俺に冷たいんだよ。本当なのか?嘘なのか?

 もう、夏生さんに心配かけさせないためのカモフラージュだったのか?


「それなら納得がいくな」


 いつもなら、もうこれ以上飲みたいとは思わないが、今夜は少し足りない。

 コンビニで缶ビールとチータラを買って帰った。




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