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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
冬馬の告白

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37/48

第37話 12月1週目

 ああ、筋肉痛が取れない。脚、痛ぇ……だけどペダル踏む、夏生さんみたいにはなれなくても、俺なりの成長を春香に分かって欲しい。


 俺たちは戸建ての住宅展示場で働いている。生活感があるようで無い家がずらっと並んでいる、ここが職場だ。

 会社に着いたら、俺は手前の一軒家、春香は奥の一軒家に自転車を置く。

 会社からは、基本、電車通勤を推奨されているが、どうしても自転車で来るなら、ディスプレイ代わりにそこに停めろと指示された。わざわざ自転車留めを設置してくれたところを見ると、それなりに認めてもらっているんだろうな。


 事務所に入って、着替える。

 スーツで乗ってきたことも何度かあるが、乗り辛いし、汗かくし、皺になるし、引っ掛けて一着駄目にしてから、俺はリュックに入れて背負ってくることにした。


「おはよう」


 制服を着た春香が、窓拭きをしている。


「おはよう、筋肉痛平気?」

「全然平気じゃない」

「山頂まで行ってないくせにー」

「秋子さん、一人に出来ないだろ」


 ぶっちゃけ秋子さんが居てくれて助かったと思ったことは言わないでおく。


「何話してたの?」

「別に」


 そう言ってから思い直す。


「春香が俺のこと好きみたいだって言ってた」

「え?信じたの?」

「まさか」


 露骨にホッとした顔をされて、少なからず傷つく。

 ゴミなんて入ってない、ディスプレイ用のゴミ箱を、一応チェックして回る。


「お前は夏生さんと何話したんだよ」

「別に。自転車漕いでて、話しなんか出来ないし」

「そっか」

「せっかく山頂着いても、下で待ってる二人が気になって、すぐ降りてきちゃったし」

「悪かったな」

「いいよ、別に」


 やることが無くなったので、箒と塵取りを持って、外に出る。

 踏まれてこなごなになる前に、枯葉を集める。


「さむっ」

「あ。そう言えば、今日、クリスマス仕様に内装を変えるらしいぞ」

「おお、ツリーの季節か」


 春香と一緒の戸建ての飾り付けをやれたらいいな、と思う。


「おはようございまぁす、林田さぁーん」


 げっ、来た。


「おはようございます、櫻田さん」


 そう言って、春香がすたすたと奥の通路に行ってしまう。

 箒も塵取りも持って行くなよ!俺のやることが無くなるだろ!


「あのぉ、今日なんですけどぉ」


 こいつの話し方、べたべたして嫌い。


「先日ぅ、教えていただいたの分かんなくなっちゃったんでぇ……」

「はい、はい。もう一度な、後でな」


 話を切り上げて、春香を追う。

 おっきなゴミ袋は俺が持っている。


「春香、ごめん、はい」


 袋の口を開いて、春香に差し出す。

 どさどさと枯葉が入ってくる。


「ここは一人で出来るから、冬馬はあっち行ってもいいよ」


 そんなこと言うなよ。


「こっち手伝ったっていいだろ、それとも、俺と一緒に作業はしたくないって言ってるのか?」

「そんなこと言ってない」


 ここんとこ、ずっとこの調子だ。

 自転車通勤を始めてから、仕事帰りに飲みに行く回数もメッキリ減ってしまったし、夏生さんの会話をしなくなってから、無駄話って言ったら春香に怒られるけど……会話のネタ切れだ。


「終わったよ、ありがとう」

「じゃ、飾り付け、よろしくな」

「うん」


 仕事の事しか、話が浮かばない。


「林田さぁーん」

「あー、はいはい、さっきのね」


 うっとおしい櫻田の相手をする。

 さっさと好きって言ってくれねーかな、付き合ってくださいって告白してくれたら、お前のことなんて好きじゃないって言ってやるのに。


 なんか異様にべたべた触られる。

 これもセクハラじゃないかと、本気で思う。


「あのさ、いい加減覚えてくんない?」

「林田さん、冷たぁーい」


 イラッ!


「触んなっ」


 櫻田を振りほどいて春香を探す。

 ツリーの飾りを持って、廊下を歩いてた。

 急いで駆けつける。


「持つよ」


 息が切れているのがバレないように言った。

 箱を持ってやろうと手を伸ばしたが、ふいっと避けられた。


「これくらい一人で持てます」

「声かけてくれたっていいじゃないか」

「誰かさんは彼女といちゃいちゃしてたから」

「彼女じゃないし、いちゃいちゃなんかしてないし!」

「林田さん、冷たぁーい」

「おまえー!」


 櫻田の真似をした春香と笑いながら、隣の家へ行く。

 リビングにあるツリーにオーナメントを付けてゆく。

 今年のクリスマスは誘ったら、来てくれるだろうか。

 春香はきっと一人だし、去年は一緒にフライドチキンの食べ放題に行ったけど……


「クリスマス、なんか予定あるの?」

「うん」

「予定あんの?」

「なんで聞き返した?うんって言ってるでしょ」

「そっか」


 なんだよ。薄情者。


「林田さーん、見ぃつけたっ」

「櫻田は別の家を飾れよ!」


 そう言って春香を見た瞬間、もうあっちに歩いて行ってしまう。

 いつもこうだ。

 櫻田が近くに来ると、春香は姿を消す。

 俺と櫻田を二人にしようとする。

 やめろよ、そういうの。

 余計なお世話なんだよ。


「ここは今、終わったんだ」


 春香の後を追う。


「はぁーい」


 付いて来んな。




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