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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
秋子の愛

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33/48

第33話 11月1週目

 車で夏生さんに、駅にいるステファンを迎えに行ってもらった。

 得意料理という程のものでもないけど、ローストビーフを焼いた。


「AKIKO!」


 ステファンが、花束を持ってきてくれた。


「ありがとう!素敵だわ!」


 抱きしめてハグ。ほっぺを合わせて、チークキス。


「NATSUKI、ボクにジェラシーを感じるなよ」

「もう過ぎたことだ。私は食べきれないほどの焼き餅を焼いたんだ。もうこりごりだよ」


 突然の夏生さんの告白に固まってしまう。

 焼き餅?私とステファンに?

 私たちは目を見合って、笑った。


「それだよ。君たちは私に入る隙を与えない世界を持っている。それが、ある意味、うらやま、しい、と、言う、か」


 そうなのね。


 サラダ、オリーブ、チーズ、ハム、クラッカー、パテ、思いつく限りのアペタイザーを用意して、ワインで乾杯をした。


「NATSUKI、ちょっといいか?AKIKOと話し合って決めたんだが、君に言わなきゃならない事があるんだ」


 ステファンが切り出してくれた。


「怖いな、何だ?」

「まずは、驚いてひっくり返らないように、そこに座ってくれ」


 夏生さんをソファに座らせた。


「最初に、約束をして欲しい。一つ、これから聞くことで俺たちを警察に通報しないで欲しい。もう一つ、ボクともAKIKOともこれまで通り付き合ってくれると有難い」

「ますます、怖いな。でも、約束するよ」


 そう言って、夏生さんは手にしていたグラスのワインを飲み干した。


 ステファンは私が、夏生さんを昔から知っていたこと、その縁で私たちが知り合ったことなどを話した。夏生さんは、静かに頷いて聞いていた。


「ここからが、ちょっと、問題なんだ。ボクはNATSUKIに当時、奥さんがいたこと、彼女が日本にいる事を話した」

「部外者に選手のプライベートを話したのか?」

「ああ。約束、忘れないでくれよ」


 ステファンが夏生さんにウィンクした。


「それから、NATSUKIが引退して、帰国が決まった時、それを真っ先にAKIKOに話した」

「なんで?」

「ここからはAKIKOの番だ」


 私は口から飛び出しそうな心臓を、ワインとともに飲み下した。


「父に、ロードバイクの実業団チームを作って欲しいとお願いしたの。それからステファンにさりげなく、求人情報をあなたにチラつかせるように頼んだの」

「なんだって?」


 夏生さんは何度も瞬きをしていた。


「あなたが日本に居るなら、近くに居たかったの。ごめんなさい」

「なぜ謝る?」

「図ったみたいで後ろめたかったの」


 夏生さんは腕を組んで、俯いてしまった。


「それから……」

「まだあるのか?」

「夏生さん、あの約束、私も守って欲しいです。特に二つ目のを……」

「ああ。約束するよ」

「祖父にあなたに縁談を持ちかけて欲しいと頼んだのも私なの」


 もう、思い切って一息で一気に言った。


「なんだ、って?」

「断れなかったでしょう?嫌々だったと思うんですけど、それでも、結婚できたのはとても嬉しかったの。ずっと傍に居られればそれでいいって、本当にそう思っていたのだけど、原田さんが私の立場を危うくするから、冷静で居られなくなってしまって……」


 夏生さんは立ち上がって、自分と私のグラスにワインを注いでくれた。


「断れたよ」

「え?」

「少しも押しつけがましくはなかった。相談役に秋子の話をもらって、断るつもりで会ったんだ」

「断るつもりで……」

「だけど、会ってみたら気が変わったんだ」


 夏生さんは恥ずかしそうに私に笑いかけた。


「惚れて、しまった、ん、だ」

「やっぱり、そうだと思ったんだ!AKIKO、やったなぁ……」

「ステファン、なんであなたが泣くの」


 そう言いながら、私も涙が止まらなかった。


 怖かった。


 ズルイ、ヒドイ女だと思われたらどうしようって。


「ああ、今、ようやく君たちの事が分かってきた。お友達か……本当に仲良しのお友達なんだな」


 私とステファンはお互いの涙を拭きながら、向かい合ったまま顔を横に傾けて微笑み合った。


 私の愛する二人の男性は、私の料理をこれ以上ないくらい褒めてくれ、一人一本以上のワインを空け、朝まで語り合った。




「ステファン、本当にありがとう」

「大好きなAKIKOの為だから、これくらいお安い御用だよ」


 空港で別れを告げた。

 次は、来春、パートナーを連れて日本に来る。

 そうなったら、滞在期間を気にすることなく、いつでも会える。


「いいお家を探しておくからね」

「出来ればAKIKOとNATSUKIの家の近くがいいな」

「そうしましょう!」


 ああ、春が待ち遠しい。

 こんなに季節が過ぎるのを待った事ってあるかしら。


「私からも礼を言うよ。ステファン、手間をかけさせたな」

「本当だよ。ずっと互いを想い合っているのに気が付くのに、こんなに時間をかける必要があったのか?」

「本当に、君の言う通りだよ。いい歳して、恥ずかしい、限り、だ」


 ステファンは、夏生さんにウィンクをした。




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