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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
秋子の愛

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第26話 9月2週目

 雨が降り、がっかりする。


「ま、こればかりは仕方が無い」


 窓から外を眺めている私に、夏生さんが声を掛けてくれた。


「そうですね」

「秋子、こういう日の過ごし方を教えるよ」

「え?」


 夏生さんは私の手を引っ張って、玄関に連れて行った。


「メンテナンスだ」


 嬉しそうに言う、この笑顔、本当に好き。


「さ、ここに座って。そこに入ってる工具箱出してくれるか?」


 開けたことが無かったけど、玄関に作らせた大きな棚には、たくさんの機器が入っていた。


「これですか?」

「重いから気を付けて」


 夏生さんは、自分と私の自転車を並べて置いた。


「すこし狭いが、一緒にやってみるか?」

「はい」


 L字の金属を渡され、言われた通りにする。


「逆だ」

「え?」

「回す方が逆だよ、それじゃ、締めるんじゃなくて緩んでしまう」

「え!」

「走っている時に、自転車がばらばらになったら大変だろう?」

「えぇ!」


 笑い事じゃありませんよ、夏生さん。

 命がかかっている大事な整備をミスした私を、笑って許しては駄目ではないですか?


「今日は、見ているだけにします。お手間をかけますが、私のもお願いできますか?私は磨きますので」


 そう言って、もふもふの布で、フレームを拭いた。


「よろ、しく、……くっくっ」

「もう!なにが可笑しいんですか!」


 背中をぶった。


「そう言えば、あの子たちにもメンテナンスを教えてやらないとな」


 嫌な予感がする。


「林田さんと、原田さんですか?」

「ああ。買ったきりだとすると、原田さんの方はそろそろちゃんと見ておかないといけない時期だ」


 聞きたくない、今は、原田さんの話しはしたくない、話題を変えたい……


「リフォームしましょう」

「へ?」

「こ、ここを、少し広くしましょう」


 なんでそんな顔をしてますの?


「で、自転車留めを延ばして、もっと置けるようにしましょう、今、2階にあるのも全部置けるように」


 なにか言っていただけませんか?


「それから、この棚も大きくして、1階はもう、玄関と自転車置き場がほとんどを占めて構いませんね?部屋は余っていますし……」


 もう、言うことが尽きました。


「秋子、君って、時々、大胆なことを言うね」

「そ、う、ですか?」

「ああ。本気で言ってるのか?」

「大まじめです」


 思い付きですけど、言いながら、いいアイディアと思っていました。


「じゃ、住宅展示場に行ってみるか」


 やっぱり、原田さんに戻ってきてしまう……もう。




 車を会社に停めて、住宅展示場へ歩く。

 雨は上がっていて、むわっとした空気がまとわりつく。


 手を繋いでくれないかしら。

 そしたら、少しは勇気が持てるのに。

 大きな夏生さんの後ろを歩きながら念じてみたけど、通じなかった。


「林田君」

「室田さん、奥様も、いらっしゃいませ」

「こんにちは」


 先客をお見送りに来ていた林田さんを見付けた。


「どうされたんですか?」

「リフォームを検討しようと思って」

「こちらへどうぞ」


 いろんな一軒家が並んでいる。その奥にある、コンクリート建てのオフィスに入る。


「こちらにおかけになってください。アンケートにご記入いただき、少しお待ちいただけますか?」


 林田さんは行ってしまわれた。

 ペンを取り、アンケートに記入する。


「お待たせしました」


 顔を上げると、林田さんと原田さんがいた。

 お二人から名刺をいただく。


 林田 冬馬

 原田 春香


 はるか……さん……いけません。聞きたくない、この名前。


「アポも取らずに申し訳ない。今朝、玄関の改装を思いついたもので、つい、来てしまった」

「玄関ですか?」


 林田さんが、タブレットを見ながら話す。


「以前、5、6年前に改装されたばかりのようですが」

「ああ。もともと、彼女の祖父母の家だったんだが、譲り受けて、改装して住んでるんだ。その時は全面的にやってもらったんだが、今回は1階の一部を自転車置き場にしようかと」

「なる程です」


 書き終わったアンケートを原田さんに手渡す。


「当時の図面を元に、一度プランを提出させていただきます。その後、ご自宅に下見に伺うかもしれませんが、よろしいでしょうか」

「ああ、急ぎではないので、林田君の準備が整ったら連絡をくれ」

「あの……」


 原田さんが口を開けた。


「その際、私も一緒に伺ってもよろしいでしょうか」


 あなた、断ってください。

 嫌です。私は反対です。


「構いませんよ」


 ……もう。




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