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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
秋子の愛

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25/48

第25話 9月1週目

 ふぅ。


 小さなため息が出る。


 考え事をしていたから、ずいぶんと分厚く切ってしまった。

 ローストビーフにマッシュポテト、人参のグラッセ、茹でたブロッコリーを添える。


 喜んでくれるかしら?

 これは愚問だわね。

 夏生さんはいつだって喜んでくれる。


「おお!とても美味しそうだ。この前買ったチーズも出そうか」

「そうしましょう」

「このワインも美味しい」


 そういつだって。

 同じように。

 優しい。


「来週は、一緒にサイクリングに行かないか?」

「今日行かれたところですか?」

「ああ、ちょっとキツイが、頑張ってみないか?」

「考えておきます」


 私でいいのかしら。


「晴れるといいな」


 また、原田さんに会ってしまったらどうしましょう。


「この前買ったウェアは着てみた?」

「いえ、まだ」


 せっかく選んでいただいたのに、すみません。


「着てみたら?」

「今ですか?」

「ああ」


 唐突ですね。


「夕食が……」

「別にいいじゃないか、二人しか居ないんだから」

「えっと」


「ほら」と手をドアに向けて、取りに行って来いと促される。

 黙って二階に上がる。


 袋に入れたままクローゼットに置いておいたのを、掴んでリビングに戻る。


「結構、買ったよなぁ。どれから着る?」


 先週の買い物を思い出す。

 夏生さんは、原田さんに会うと、饒舌になる気がする。


「これとこれだな」


 エプロンを外して、隣の部屋で着替えた。


「あのぉ」


 出て行けなくて、声だけかけた。


「どうした?」


 どうしよう。


「全然、似合っていません」

「……」


 やせっぽっちで、真っ白な私には、不釣り合いだった。


「そんなはずないだろ」


 扉が開いた。


「ほら。大丈夫じゃないか」


 勝手に入ってくるなんて、らしくない。


「似合ってるよ、とても」

「そうですか?」


 恥ずかしい。

 嘘だと分かっていても嬉しい。


「それを着て、明日から、特訓だ」

「特訓ですか?」

「ああ、ビシバシいくからな」


 フランス出張の頃から、夏生さんはよくこんな目で私を見る。


「困ります……」

「お嬢様だもんな」

「もう!からかわないで」


 原田さんの影響ですか?

 言えない。


 笑いながら、テーブルに手をつき、立ったままワインを飲む夏生さん、本当に素敵。


「車道を走る練習から始めよう。明日は早起きしてもらうぞ」

「はい」




 低血圧だからか、朝は苦手なのに、夏生さんが待っているかと思うと、すんなり起きれた。

 顔を洗って、日焼け止めを塗って、ウェアを着てリビングで待つ。


「秋子!早いじゃないか!」

「だって……」


 あなたが、そう言ったんでしょう?


「やる気満々だな!よし、水飲んで出発だ」


 自転車を引いて、家の前まで、そこで自転車にまたがる。

 足が付かないから斜めに立つ。


「今度、ハンドサインを教えるけど、とりあえず今日は乗ることだけに集中して」

「はい」

「出発!」


 夏生さんに付いて行く。

 近くの車道に出る。


「ひゃぁ~」


 車が隣を過ぎると、怖くて鳥肌が立つ。

 夏生さんが曲がって、歩道に入ったところで止まった。


「怖いよね」

「はい」

「徐々に慣れていこう。今日はここまで」

「え、もうですか?」


 家を出てから10分も経ってないけど、引き返した。


 朝食と支度を済ませて、車で出社した。

 車は好き。私が堂々と、夏生さんの隣に座っていいって思えるから。


「朝、お時間を割いてくださってありがとう」

「サイクリングのこと?」

「はい」

「明日から、毎日やろう。雨でなければ」

「毎日ですか」


 嬉しい。


「晴れるといいな」

「はい」




 仕事中は夏生さんと会うことはほとんどない。

 化学調味料の会社を営む我が社で、夏生さんは製造のチームと新製品の開発や、製造工程の見直しなどを行い、プロダクトラインのスケジュール管理なんかも担当している。一方、私は、主に契約書の取り交わしや、特許などの権利関係、法務にまつわる業務に携わる。


「秋子、この書類に目を通しておくように」

「はい」


 社長である父は、その双方の長として、全体を把握している。


「ステファンのエクスパッドの件、どうするか決めたか?」


 フランスで現地採用をした彼に、日本に滞在してもらい、ここで働いてもらうという話が出ている。


「もう少し考えさせてください」

「何を悩んでいるんだ?」

「彼にもプライベートがありますので」

「そうだな」


 ステファンのことは昔から知っている。

 気の良い人で、話が合う。

 私には特別な存在だ。


 夏生さんはどう思うかしら。

 聞いてみたい気もするけど、私が決めなければ、と思い直す。


 私の部屋から見える、向かいの住宅展示場に目をやる。


 原田さんはあそこにいる。




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