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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
夏生の後悔

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第21話 8月1週目

 林田君はああ言ったが、私は原田さんの好意を嬉しく思わなかったわけではない。他に取るべき策のあてもないので、まぁ、やれることをやってみよう、と考える。


 秋子の好きなもの……赤ワイン、アイス、肉、って食べ物ばっかりだな。買い物、は好きそうだ。よし。


「買い物に行くか?」

「何か必要なものがあるんですか?」

「いや、その……」

「あ、そうですね」


 秋子が急いで部屋に入った。

 これは、彼女が出掛ける支度を始めますよ、というサインで、だいたい30分かかる。

 私も、秋子の事が少しずつ分かってきているようだ。


 スマホで、夕飯のレストランを探す。

 肉料理がいいだろう。


 エイジングビーフ


 良さそうだ。


 電話をして予約を取る。ついでに、勧められるがままに料理もオーダーしてしまう。よし。


 そうこうしているうちに30分が経ち、秋子が出てきた。

 紫と黒のスカーフみたいなワンピース、飛び切り似合っている。


「す、っごく、すて、き、だ、よ」


 ステファンがやるようにスムーズにとは行かなかったが、私なりに頑張った。

 林田君なら、きっとこの努力を認めてくれるだろう。


「ありがとう」


 今、秋子の笑顔が、ステファンに向けられてたものと……近くなかったか?




 来週お盆で帰省する際に持参する土産を買った。

 秋子は、例えばそんな洋服とか、いつ買っているんだろうか。

 聞いてみてもいいのだろうか……


「君の買い物に付き合う気で来たんだが、結局、土産を選ぶだけになってしまって、すまない」

「あなたが私の買い物に、付き合う……?」

「ああ」

「どうしたんですか?」


 どうしたんだろうな、自分でもよく分からない。

 恥ずかしくなって、下を向いた。


「どうしたんですか?」


 下から私の顔を覗き込まれた。


「いや、別に」

「なにかやましいことでもあるんじゃないですか?」

「あるわけないだろ」


 ムッとなって、口が尖ってしまった。

 これじゃ、まるで秋子じゃないか。


 だが……秋子が、笑ってる……くすくすと……フランスで見た、あの笑顔に近い。


「大丈夫です。私はもう買いたい物はないので」

「そうか」


 エイジングビーフの店は、雰囲気が良くて、気に入った。

 何より、秋子が気に入ったみたいで嬉しい。


「赤ワインは君にお任せしていいかな」

「喜んで」


 とても楽しそうだ。

 大きな肉の塊が出てきた。

 あまり慣れないが、ここは私が切ってみよう。


 こんなところでいいのかな……

 ナイフを肉に当てて、秋子の顔を見る。

 秋子は、指で「もうちょっと大きく」という合図を送ってきた。


「君は生で食べたがるから、どうかと思っていたけど……気に入ったか?」

「ええ、とても。生も好きだけど、火を入れても好きです」


 よし。また一つデータが手に入ったぞ。


 この時、少し調子に乗ってしまった。

 秋子の事が分かって来たような気になっていて、秋子の好きな物を自分も好きになれると思ってしまったのか、つい、余計な事を言った。


「ステファンの話しはどうなったんだ?」

「え?」


 秋子の笑顔がふわっと消えた。


「日本に呼ぶことになったのか?」

「まだ」


 失言に気付いた時には、もう遅かった。


「私に何か出来ることはあるか?」

「いえ」


 今のは、完全にミスった。

 どうやら、怒っているように見える。


 秋子の気持ちがまた分からなくなってきた。

 好きな人の話を持ち出して、思い出させてしまったのだろうか。そうだよな。


 また怒らせたらと思うと、怖くてたまらない。

 だが、転ぶことを恐れていては自転車は乗れない。


「ステファンが日本に来たら、君も嬉しいんじゃないか?」

「でも、ステファンにはパートナーがいるし……」


 しまった!

 そうだった!

 私としたことが!


「そうだな、やっぱり、彼にはフランスにいてもらおう」


 どう繕ったらいいか分からず、手の平返しの事を言ってしまった。


「夏生さん、何かありましたか?」

「へ?」


 夏生さんと呼ばれたのはいつぶりだろう。


「様子が変です」

「そんなこと無いと思うけど」

「急に買い物に行こうとか、こんなお店予約してくれたり……」


 それは、秋子に喜んでもらいたくて。


「何を隠してるんですか?」


 林田君との計画までも見透かされていると言うのか?


「変です」


 動けない。


 そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。


「ステファンのことは私に一任してください」

「分かった」


 それから、秋子は気を取り直したように話題は切り替わったが、私は自身の気持ちを切り替えることは出来ず、何をしゃべったのか全く覚えていない。


 食事の終わり際に秋子が言った。


「夏生さん、お誕生日おめでとう」


 あ……その、笑顔は、私が一番欲しかったやつだ。


「ありがとう」


 思いがけず、最高のプレゼントをもらった。




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