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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
夏生の後悔

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第17話 7月1週目

 秋子がパリの空港に着くので、レンタカーを借りて迎えに来た。

 私と同じく、乗り継ぎの飛行機が遅延し、到着は真夜中近くになってしまっていた。


「お疲れさま。散々な目にあったな」

「いいえ。よくあることですから」


 疲れた様子なので、すぐにホテルに向かった。

 ホテルは今日から、大きめのツインベッドの部屋に変更していた。


「明日の朝食の時、ステファンを紹介するよ」

「現地採用された方ね。お会いできるのを楽しみにしています」


 秋子はオシャレで、荷物が多い。

 今回も長いと言えば長いが、3週間の滞在とは思えない。


「引っ越してきたのかと思うほどの量だな」

「すみません、つい……」


 首まで真っ赤になっている。


「冗談、からかっただけだよ、ごめん」


 楽しみにしてたんだよな。

 見た目はクールだが、楽しそうに準備している姿は小学生のようだった。


「なんか、これじゃ、観光に来ただけみたいで申し訳ないわ」

「あっちでは総会の準備があったんだろ?仕方がないよ」

「明日は、ちゃんとお仕事しますので」

「お堅いな」




 秋子は学生時代にパリに留学をしてたという。

 今日は、赤いワンピースに、水色のサンダルを履いている。

 日本では浮いてしまう、その派手な装いが、ここでは馴染んで見えて不思議だ。


 ステファンとの挨拶をすませる。

 ホテルに併設されているカフェに向かおうとした時、秋子が言った。


「あなたは、自転車でセーヌ川走って来てもいいわよ」

「いいのか?」


 違和感が残る。


「ええ。ステファンが私と二人で構わないのであれば」

「AKIKO、断る理由がないよ」


 人見知りな秋子が、初対面の男性に、こんなことを言うはずがない。

 それとも、陽気なフランス人相手であれば、こんなにすぐ打ち解けるものなのだろうか。


「ホテルではなく、行きたいカフェがあるの」


 ウィンクをするステファンに秋子をお任せして、ロードバイクを取りに行った。


 いつも通り、朝食は自転車に乗りながら、ゼリーで済ます。

 先ほど感じた違和感の検証をしつつ、ペダルを漕ぐ。


 秋子はステファンと知り合いなのか?

 その方がしっくりくる。


 ステファンも秋子のことを「若くて、綺麗だ」と言っていた。

 面識があるのだろう。


 過ぎ去る景色が目に入らなくなり、世界が自分の呼吸で満たされる。

 ステファンには男性のパートナーがいる。

 先日「まだ付き合っているのか?」と聞いたら、「もちろん」と言ってウィンクをしてきた。


 恋人だった……という線はなさそうだ。

 セーヌ川のサイクリングロードを途中で折り返す。


 でも、秋子がステファンを好きだという可能性は残る。

 ふっと、セーヌ川沿いに並んでいるカフェに目が行く。

 赤いワンピース、水色のサンダル、テラス席で足を組んでいる、女性、秋子。


 ステファンと並んで座り、じっとこちらを観察している。

「私が見てることに気が付いてる?」と言わんばかりの、しつこい視線を感じる。


 見せつけているのか?

「ステファンの元に行ってしまうわよ、あなたの元を去るかもよ」と、言われているようで、背筋が凍る。




 ホテルに戻ったら二人はロビーで話をしていた。


「NATSUKIが走っているところを見たよ」

「ああ、気が付いたよ」

「AKIKOがどうしてもあそこに行きたいって言ったんだ」

「そうか」


 ステファンと行けて満足か?

「二人は知り合いなのか?」と喉まで出かけているが、声にならない。




 それから、ステファンの運転で仕事に向かった。

 今日は午前中に、業者と内装の打ち合わせをし、その後、ヴァロワールという南東部へ移動する。ここでツールドフランス第4ステージを観戦する。


 実は、ここでのオフィス立ち上げに際し、必要な仕事は先週のうちに、私とステファンでほぼ済ませている。

 秋子はああ言ったが、この時期のフランス出張は、義父からの娘への休暇のプレゼントみたいなものだ。会社のクラブチームの勉強にもなるだろうと、私にもお声がけをいただいた。配慮のある、心優しいオファーを有り難くお受けした。


「AKIKOも運転するのか?」

「できるけど……あまり得意ではないわ。特に海外だと余計に……」

「NATSUKI、僕も運転代わるから連れて行ってくれないか?」


 7~8時間かかる運転を一人では厳しいので、その申し出はありがたいが、一抹の不安がよぎる。


「そうしましょうよ!」


 嬉しそうな秋子の顔を見て、断れなくなった。


「そうと決まれば、今日の打ち合わせはちゃちゃっと済ませて、出発だ!」


 ノリノリのステファンは鼻歌を歌いながらアクセルを踏んだ。




 一度、ホテルに戻り、荷物をまとめ、チェックアウトを済ませた。

 私の運転でステファンの家に向かう。

 借りていた自転車を返さねばならない。


 チャイムを鳴らすと、ステファンのパートナーが出迎えてくれた。


 シンプルだけど可愛らしい小物が並んでいる。


「お久しぶりです、NATSUKI」と握手を交わした。十数年前に一度会ったことがあったが、さっぱり顔を覚えていなかった。だが今、こうして顔を見ると、その日の事を鮮明に思い出した。


「初めまして、AKIKO」と、軽いハグをしている。本当に留学していたのか?と思えるほど、ガチガチでよそよそしい態度。やはり、こちらがいつもの秋子だ。


 フランス人なら、誰でも打ち解けやすいわけではないことが判明した。




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