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自転車男に恋をした。  作者: あおあん
春香の片思い

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第11話 5月3週目

 夏生さんからメールが来た。


『原田さん、こんにちは。

 初めてのツーリングで箱根は厳しいと思いましたので、近くのヒルクライムにお連れしようと思います。土曜の9時に、添付の資料の集合場所に来られますでしょうか? 室田』


 ひゃー!私の為に、予定を変更していただいて……お連れしようと、って……優しい!


 添付の資料をサクッと見て、即レス。


『室田さん、ありがとうございます!時間通りに伺います。よろしくお願いします!原田』




 土曜は曇っていたけど、雨は降らなそうで、予定通り決行となった。


「おはようございます!室田さん!」


 うっきうっきー!


「おはようございます」

「今日は、予定を変更していただいて、ありがとうございます」

「いいえ。せっかく自転車に興味を持ってもらったのでね、楽しみ方を知って欲しいと思いまして」


 私はお尻にパッドの入ったサイクリング用のウェアを購入していた。

 サングラスも手袋も、ショップの店員さんに「あった方がいい」と言われるがままに購入していた。


「ちゃんと、準備もされてて、えらいですね」


 褒められた!わーい!


「まずは、一緒に走る際に必要なハンドサインを覚えてもらいます」

「はい」

「私が先に走ります。原田さんは私の後ろに付いて来てください」

「はい」


 それから、手をパーにしてこっち向けたら止まれのサインとか、右左の方向指示とかを教えてもらった。


 夏生さんが見放題だ。どうしたって浮かれてしまう。


「無理は禁物ですから、きつくなったら言ってください」

「はい」


 まずは住宅街を抜ける。

 通勤路しか走ったことが無いので、緊張する。

 夏生さんのハンドサインは思っていたよりも多く、ずっと夏生さんのお尻ばかり見ていた。


 お尻の形も最高だ!


 それから郊外に移り、山の入り口らへんで一旦止まった。


「ここまででも、よくついてきた方と思いますが、大丈夫ですか?」

「え?はい。全然」

「はは。なかなかやりますね」


 褒められた!わーい!わーい!


「ここからは勾配が少しきつくなりますが、きつかったら休憩しますので言ってください」

「はい」

「のぼりきったところに、カフェがあるので、そこでお昼にしましょう」

「はい!」


 サイクリングロードってわけではないのだろうけど、すれ違う車が少なくて、快適だった。

 夏生さんは私が走りやすいようにしてくれてるんだと思う、いくらでも走れそうなくらい楽々だった。


「何キロくらい走ったんですか?」


 山頂のカフェは、ウッド調で、とてもかわいい。


「ここまで30km無いくらいです」


 それがどれほどの距離なのか、実感はない。


「初心者にしては上出来ですよ」

「そうですか!」


 褒められた!わーい!わーい!わーい!


 カツカレーとヨーグルトアイスを食べた。


「降ってきそうだな。急ぎましょう」

「はい」


 下りの方が怖かった。


 ポツポツと雨があたってきた。

 山を降りきった時には、ザーザー降りで、夏生さんが言った。


「雨のサイクルは危険です。ここからは車が通る道ですし」

「はい。でも……」


 何もないところだ。


「もう少し行ったところにホテルがあります。自転車は引いて行きましょう」

「はい」


 ホテルって……そうだよね、こんな郊外にビジネスホテルがあるわけない。ラブホに入るんですか?


 聞くに聞けないまま、夏生さんはどんどん入って行く。


 ロードバイクにはスタンドがない。

 私たちは駐輪場に自転車を並べて、チェーンで繋いだ。


「盗難とかありますから、気を付けてくださいね。ここは、平気そうですけど」

「はい」


 無人の入り口でホテルの部屋を取った。休憩か宿泊か……


「雨が上がったら出ましょう」


 そうは言ったけど、夏生さんは宿泊を選んだ。


「心配しないでください。何もしません」

「はい……」


 202号室。


「お風呂に入ってください。湯船でゆっくり体をほぐした方がいい」


 でっかいお風呂で、バブル機能があった。

 思っていた以上に体はクタクタで、足元がおぼつかなくなっていた。

 のびのびと浸かって、バスローブを着て出た。


「ゆっくりできましたか?」

「はい。室田さんもどうぞ」

「いただいてきます」


 ビチョビチョのウェアをハンガーにかけて干した。


 夏生さんが言った「心配しないでください。何もしません」が、ずっと頭の中でリピートしてる。


 本当かな。


 夏生さんは出てきてから、スマホで天気情報を確認した。

 ここからでは外の様子がまるで分らない。


「駄目だ。雨雲がかかっちゃって、明け方まで降水確率は100%です」


 困ったように、こっちを見た、夏生さん、かっこいい。

 塗れた髪とバスローブ姿が、異様に素敵に見えてしまう。


「朝まで、一緒に居てもいいですか?」

「はい」


 いいに決まってる。何かあって欲しい。


「じゃ、こっち来て」


 ベッドに呼ばれる。


「足出して」

「はい」

「こうして」

「はい」


 ふくらはぎに手を当てて、優しく摩る、夏生さんの真似をする。


「念入りに、両方、やっておくといい」


 そう言って、夏生さんは冷蔵庫からビールを出した。


「飲みますか?」

「はい」

「帰れないのが確定したら、もう飲むしかないですね」


 そう言って、夏生さんは、私に缶ビールを渡してくれた。




 変な形だったけど、大きなベッドでよかった。

 ビールの酔いが回って、体はヘロヘロに疲れていて、ぐっすり眠れた。




「では、行きましょう」


 翌朝は快晴で、少し筋肉痛だったけど、夏生さんの後を走って、無事に帰ってきた。




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