7・この世界の僕の人生
「どうでしょうか?僕の知り合いの人が作った品なんですが…。このお店の一角に置いて、売ってみていただけないでしょうか?」
あれから応接室に通されて、テーブルに僕の作品を広げて見せた。
定番のハンカチに刺繍した物と、大きめのテーブルクロスに華やかに葉と鳥を形どった図柄を入れて、所々に僕のブランドの特色である文字を入れてある。図柄にちなんで『花鳥風月』にしてみました!
その他に、布のコースターとか花瓶の敷物とか色々作ってみたんだけど?
懲りだすと止まらない性格な僕は、品質には拘って高級感溢れる品にしたつもりだ。一切手を抜いてません!
目の前のリンダさんは、一つ一つ手に取ってじっと見て、やがてフーッっと大きな溜息を吐きながら僕をじっと見た。ど、どういう意味の溜息?
「素晴らしいです!一体どなたがこんな素晴らしい作品を?このクオリティなら直ぐにでもお店に置けます。そしてあっという間に売れるんじゃないかと思いますよ?」
真剣な表情でそう言うリンダさんに、僕は猛烈に感動していた。やったー!認めて貰えたんだ…僕の作品を。ああ、感無量です!
これでやっと、この世界で生き抜く第一歩を踏み出せたような気がする。これからもっと沢山の作品を作って売らなければならないけれど、道筋が出来ただけでも安堵するよね。すっごく緊張したわぁ~
「それでいくらくらいなら売れると思われますか?僕には相場が分からないものですから。そして一番肝心なことですが、手数料は如何ほどで…」
ちょっと安心した僕は、冷静に突き詰めた話しをしにかかる。この世界の常識にまだ疎い立場だし、このオリヴァーの旧知の仲のリンダさんなら信用できるだろう。よほど損にならない限り、お願いするより他にないしね。
それにリンダさんはサラサラと軽快にペンを走らせ、作品の上にそれら置いていく。
「このくらいから始めませんか?人気が出たらもう少し上げても良いかと。良い材料をお使いですね?恐らく材料費も安くはないでしょうし、これで損にはならないかと。そしてこちらは売り上げの三割頂戴致します。もちろん売り場スペースと売れた場合のラッピング込みです。それでいかがですか?」
──めちゃくちゃ良心的じゃん!半々って言われるかも?ってヒヤヒヤしてたよ…
こんな得体の知れない人物に対して、凄く有り難いよね!
もちろん二つ返事でお願いして、今後の連絡はオリヴァーを通してしてする事に。
「売れましたらまた連絡致しますね。それまでに新作を何点か作っておいていただければ…またお持ちくださいませ。カイト様、ごきげんよう!」
僕は感謝と感動で深々とお辞儀を返す。そして店を出た途端、秋風に吹かれてブルッと身体が震えたけど、心の中はポッカポカだ。
──や、やったぞー!!
だけど、やってみるもんだなぁ~思い付きで始めた事だったけど、思いの外上手くいきそうだ。これからは出来るだけ作って売って、ある程度のお金を手に入れなくては。そして出来ればこの商売、継続出来るといいよね?
公爵家を出たとして、暫くは蓄えで生活できるかもしれないけど、いずれは尽てしまうだろう。それから新しい職を探そうとしても、僕って手芸以外で得意なこともないし…
だから人気が出るように、よりレベルアップが必要かもね?
僕はレース編みも得意だし、普通の編み物も…あっ!ぬいぐるみなんか作ってもいいよね?編みぐるみでクマちゃんとか…色々チャレンジしてみようっと!
そう決めて足取り軽い帰り道、オリヴァーと屋台で美味しい食べ物を買ったりして、ついでに楽しく過ごす。
そう言えば、村を出てこの城下町っての?賑やかな街に来てから初めてだ…こんなに自由で楽しいの!
ロテシュ伯爵家では、家に閉じ籠もってずっと勉強だったし、公爵家に来てからは出掛ける気力もなくってさ…
これから僕どうなるのかな?って漠然と思うけど、結局は自分でどうにかするしかない。頼れる唯一はオリヴァーしか居ないし、それを念頭に入れてこの先行動していくしかない。
そして出来ることなら、ミシェルに愛する人が現れたタイミングで去る。そうなったら四の五の言わず、さっと去って行こう!
ロテシュもギルフォードも、その先の僕の人生に関係なんてない!そう気付いて初めて、この世界で僕の本当の人生が始まるのかも知れないって、少しだけワクワクした。