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3・僕の運命

 ──うん?もしかしてだけどさ、僕のお尻見えちゃって嫌だったかな。見たくないものを見せられた…って?


 急に心配になった僕は、自分のお尻を背中越しに覗き込み、ヒップラインを指でスルッとなぞってみる。

 うーん…プリッと上がってるし、見た目は悪くないよね?

 肌だってツルツルで綺麗だと思う…見苦しいほどでもないんだけどなぁ〜そうじゃないとすれば…胸かな?

 そう気付いて、今着たばかりのパジャマの襟元を手前に引っ張り、隙間から覗こうとすると…


 「お、おい!先ほどから何をやってるんだ?それにまずは他にやる事があると思わないか?特に私に対してだが…」


 ──えっ、何だろう…やる事だって?


 僕は暫し考えてみたけど特に何も思い当たらない。

 この臭い身体を何とかする他に、何があるってーんだ?

 そう途方に暮れていると、ミシェルはよりイライラとしだして…


 「まずは私に謝るべきだと思わないか?あの時は本当に大変だった。君は…もう少し助けるのが遅かったなら死ぬところだったんだ!分かってるのか?」

 

 いつまでもぼうっとした僕に痺れを切らしたミシェルが、堪らず大声を出す。それからギロリと僕を睨んでいる。


 ──確かになぁ…この公爵邸で僕が死んだなら、責任を問われるのは間違いなくミシェルだ。ミシェルの父であるグランバード公爵は領地の方に行っていて不在だし、となると全てのことは当主代理であるミシェルの責任になるよね。

 もしかして、賠償問題とかになるんだろうか?まだ婚約者なだけで結婚していないから、グランバード公爵家の一員だとは言い難い立場。そうなるとあの父が…ロテシュ伯爵が黙っている筈はない。悲しんでもないくせに、賠償金を寄越せ!とか言っちゃいそう…うわーん!


 ──うーん、そうなったら物凄く迷惑掛けるところだった。紛うことなき謝るべき案件だよね、それは…


 「すみませんでした!とんだご迷惑をお掛けするところでした。僕の不注意で…あれっ?でもどうして池に落ちたんだったっけな…」


 そう言えば、池に落ちた前後の記憶がない…

 と言うか、前世を思い出してからは今世の記憶が曖昧になってしまっているようだ。

 もちろん記憶喪失じゃあるまいし、全く分からない訳じゃない。だけど…意識の主導権は前世である宮崎海人なんだと思う。考え方も行動も海人になっているよう。

 そう改めて気付いて、目の前で憮然とした表情をしているミシェルを見つめる。


 あ〜ぁ、少し前までの僕に教えたかったな。無駄な努力はするな!って。だってさ、もっと早くに前世を思い出していたとしたら、また違う行動が出来たはずだよ。

 そうどこかガッカリしながら、この公爵家に来てからの…って言うか、あの諸悪の根源のロテシュ伯爵家に引き取られるまでの経緯を思い出していた。



 +++++



 僕は十四歳まで、自分は平民で貴族とは縁もゆかりも無いと思っていた。家族は僕と母親…いわゆる母子家庭で、国の首都から馬車で半日くらいの所にある、のどかなルンダ村で慎ましく生活していたんだ。そんな僕達の貧しくても幸せな生活が、流行り病によって突然崩れることになる。母が突然亡くなったんだ…


 僕はこれからどうしたら…って途方に暮れたけど、周りの人達に助けられながら何とか自分一人の()扶持(ぶち)を稼ぎながら生活していた。そんな僕の元に、ロテシュ伯爵家の執事だと名乗る人物が現れる。突然の貴族家の使用人の訪問に驚きながらも、聞けば僕はロテシュ伯爵の隠し子だと言う事で…


 母は元々、ロテシュ家のメイドで伯爵に見初(みそ)められて妾になったらしい。

 だけど本妻から目の敵にされ、僅かばかりの手切れ金を渡されて伯爵家から出されたらしい。そしてその後妊娠に気付いて僕を産む…というお決まりのパターンだったようで…


 最近になって僕の存在を知った伯爵は、引き取りたいと執事を僕のところに(つか)わした。僕は母を亡くしたばかりのまだまだ子供で、寂しくてこれからのことが不安になっていた。だからそんな言葉にまんまと乗せられて…

 よく考えたらさ、母を追い出したことを後悔していたとしたら、執事に任せずに本人が来るべきだよね?

 そんなことにも気付いていなかった僕が、喜んで伯爵家に行ったら…父も兄も、使用人達からも歓迎などされていなかった。

 所詮妾の子…そう思われているのは誰の目からも明らかで、対応は冷たく必要最小限しか会おうともしない。それでも僕は、僕を認めて欲しい!そのうちにきっと家族としての愛を…って、言われるがまま貴族としての身につけるべきことを学ぶことになる。その間、何とたった一年!

 

 僕は元々、頭は良かったらしい。今思えば、無意識だけど前世の記憶が役に立ったのかも知れないね?高校生だった僕は、勉強するといった環境に慣れていたし、基礎的なものは既に頭の中に入っていたから。

 こうして貴族の令息としておかしくない程度になった僕は、ある日父から呼ばれ嬉々として行ってみれば…


 「マリン、お前は公爵家嫡男であるミシェル・グランバードの婚約者となった。まあ、その為だけに引き取ったんだが…そうでなければどうしてお前などを。平民あがりが有り難くも公爵家に入るんだぞ?生きている間はこの私に感謝して、言う事を聞くのが筋だろう。まずは確実にミシェルを自分のものにしろ!容姿しか取り柄がないくせに…上手くやるようにな。分かったか?」


 僕はあまりのことに、父が言っている事が理解出来なかった。婚約者…その為だけに引き取った?おまけに耳を疑うことを聞いたような気が…


 ──公爵家の嫡男と結婚するだって?

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