第1章|イスラーム教の成立とムハンマ 拡張版
―泉のほとりの静かな午後、三人は旅の休憩中に世界史の話を始めた。
『はじまりの啓示 ― イスラーム誕生をめぐる対話』
セイル:「なあ、イスラーム教っていつ始まったんだ? なんか急に世界に広がったイメージあるけど。」
リィア:「7世紀。アラビア半島のメッカって都市で起こったの。預言者ムハンマドが“唯一神アッラー”から啓示を受けたのが始まり。」
エファ(ノートを取りながら):「預言者って……神の言葉を人間に伝える存在ですね。メッカが出発点か。」
セイル:「それって、どんな街だったんだ?」
リィア:「当時のメッカは多神教の聖地だったの。カアバ神殿にはさまざまな神像が祀られていて、クライシュ族がそれを管理していた。商業都市としても栄えていたわ。」
エファ:「そこに“一神教”を説いたら……そりゃ反発されますよね。」
リィア:「ええ。ムハンマドは迫害を受けて、622年、信者たちとともにメディナに移住したの。」
エファ:「それが“ヒジュラ”……聖遷ですね。イスラーム暦の元年になる重要な出来事。」
リィア:「その通り。622年がイスラーム暦元年。ここから宗教だけでなく、社会と政治の実験が始まるの。」
セイル:「宗教が歴史の転換点になるって……すげぇな。」
エファ:「しかもメディナでは、ムハンマドはただの預言者じゃなくて、政治と軍事のリーダーでもあったんですよね?」
リィア:「その通り。“ウンマ”って呼ばれる信徒共同体を築いて、部族を超えて“信仰”によって人々をつなげたの。」
セイル:「信仰が国をつくるって、なんか想像つかねぇな……でも、かっこいい。」
エファ:「じゃあ、ムハンマドが亡くなった後はどうなるんですか? 誰が次のリーダーに?」
リィア:「“カリフ”と呼ばれる後継者が選ばれたわ。最初のカリフはアブー=バクル。ムハンマドの親友で、最も信頼された人物だった。」
セイル:「でも、“預言者”ってのはムハンマドだけなんだろ?」
リィア:「そう。ムハンマドは“最後の預言者”。だから、カリフたちは宗教的には預言者じゃなく、政治・軍事の指導者だったの。」
エファ:「カリフたちはどんな法律で国を治めたんですか?」
リィア:「“シャリーア”と呼ばれるイスラーム法を用いたわ。『クルアーン(啓典)』と、ムハンマドの**“スンナ”――つまり言行録**を基盤にした法体系よ。」
セイル:「スンナ……すんなり覚えられねぇな……」
エファ(くすっと笑って):「でも“すんな”り覚えたら、すごく大事な言葉ですよ」
リィア(微笑しながら):「知識はね、笑って覚えた方が記憶に残るのよ」
(朝の光が差し始め、三人の前に広がる砂の地平)
セイル:「なあ……結局、最初にあったのは“言葉”なんだよな。誰かの声。そこから、国も、法も、生まれたんだな」
リィア:「ええ。“言葉”は、祈りのかたち。そして、祈りは未来を作るのよ」
補足:この会話で学べるイスラーム史の基礎知識
キーワード意味・背景
ムハンマドイスラームの開祖、最後の預言者(570年頃〜632年)
メッカ預言活動の開始地。多神教の中心地だった
ヒジュラ(聖遷)622年、迫害から逃れてメディナへ移住。イスラーム暦元年
ウンマ信仰によって結ばれた共同体。部族を超えた新しい社会形態
カリフ預言者の後継者(宗教ではなく政治的指導者)
クルアーンイスラームの聖典。アッラーの啓示を記録したもの
スンナ預言者ムハンマドの言行録。法の源泉
シャリーアイスラーム法。クルアーンとスンナに基づく行動規範
大学入試一問一答|第1章(10問)】
1.ムハンマドが啓示を受けた都市は?
→ メッカ
2.622年にムハンマドが移住した都市は?
→ メディナ
3.この移住を何という?
→ ヒジュラ(聖遷)
4.イスラーム暦の元年は何年?
→ 622年
5.ムハンマドの死後、指導者を務めた人物の称号は?
→ カリフ
6.最初のカリフは誰?
→ アブー=バクル
7.ムハンマドが築いた、信仰で結ばれる共同体は?
→ ウンマ
8.ムハンマドが説いた神の名は?
→ アッラー
9.イスラーム教の聖典は?
→ クルアーン
10.ムハンマドの言行の記録で、法の基盤となるものは?
→ スンナ