表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アメリカが世界に向けて喧嘩を売ってはいけない理由~ トランプ政権が軽視した地政学上の問題点について

 ■はじめに

 

 2025年1月20日、第二次トランプ政権が始まりました。

 第一次トランプ政権時、トランプ大統領は過激な発言を繰り返してはいましたが、実際はそれほど常識外れな政権運営を行わなかったので、「今回もそうなるのではないか?」とする楽観的な予想をする向きが多かったようですが、その予想に反して、トランプ政権はまるで“全方向に対して喧嘩を売るかのような”過激な政策を展開し始めてしまいました。正直、「本当にやりやがったよ、こいつ」なんて印象です。

 が、それから直ぐにアメリカは方針を曲げ、一部の追加関税実施を90日間延期すると発表しました(日本の自動車など、そのままの関税もあります)。朝令暮改が常のトランプ政権であってもこれを予想していた人は少なく、いきなりの方針転換に様々な憶測(“取引を有利にする為”という予想が最も現実的でしょうか?)が飛び交いましたが、追加関税によってアメリカが受ける損失を考えるのなら当然でしょう。この一連の流れについて、一部トランプ政権を庇う論調もありますが、批判的な意見が多勢のようです。

 ――ただし、トランプ政権側の言い分ももちろんあり、「関税をかけたくなる」事情もあるのだという点には理解が必要でしょう。

 このエッセイでは、タイトル通り、主に地政学の観点からトランプ政権の問題を述べるつもりでいますが、その前にまずはその点から説明していこうと思います。

 

 ■フェアじゃないグローバリズム

 

 ある程度、経済に詳しい人ならば“自由貿易”についてはご存知でしょう。市場規模を大きくすればスケールメリットを活かせるようになるので、その分より経済は発展し易くなります。その効果を狙って、各国間で取引を行い易くするというのが、自由貿易の考え方の基本です。

 分かり易い事例を挙げましょう。

 中国に「ナタ2」というアニメ映画があるのですが、この映画、世界のアニメ映画史上で興行収入第1位の座を獲得しました。……でも、多分、「知らない」って人も多いのじゃないでしょうか? 

 それもそのはず、この映画、ほとんど中国でしかヒットしていないのです。

 実際に観たという日本人のレビュアーの意見を信じるのなら、面白かったことは面白かったらしいのですが、中国神話を知っていないと理解し難いという敷居の高さがあるので、他の文化圏を持つ国でのヒットは難しいのではないか? とのこと。

 つまり、この映画、“14億人以上という中国の莫大な市場規模”のお陰で1位になれているのですね。もし日本の人口が中国規模だったなら、「鬼滅の刃」がアニメ映画史上世界興行収入1位の座を獲得していたかもしれません。

 自由貿易を拡げて行けば、この中国と同じ様なメリットを様々な国が享受できるようになります(もちろん、ある程度は経済競争に勝たなくては、デメリットの方が大きくなってしまうのですが)。

 

 ――ただし、それは飽くまで“理想”に過ぎません。

 

 先ほど、“14億人以上という中国の莫大な市場規模”と説明しましたが、これ、実はデジタル経済でしか通用しません(だから、中国はゲームも売り上げで有利なのです)。実は中国は多中心主義であり、実体経済では決して“一つの市場”とは呼べないのです。従って、無理して中国に進出してもそれだけで“莫大な市場規模”の恩恵を受けられる訳ではありません。しかも、フェアな扱いも受けられません。デジタル経済では“中国の市場規模は本物”だと説明しましたが、外国企業にとって著しく不利な政治体制になっているのでそれほど魅力的な市場ではなくなっています。ゲーム会社の任天堂が新ハード“Switch2”を発表しましたが、中国市場は除外してしまいました。これは恐らくは中国共産党からの妨害を懸念しての事ではないかと思われます。

 このように中国は国内経済を保護しています。ところが中国が外国に売る場合は、フェアな扱いを求めます。しかも、日本も“安売志向”が強い文化を持った国ですが、中国はそれ以上で、クオリティを犠牲にしてでも安売りをし(一部にはクオリティの高い製品もあるのですが)、時にそれは“常識外れ”な金額になる事すらもあります(その所為で、商品に毒物が混入していたり、爆発事故が起こっていたりするので中国製品のブランドイメージが傷ついているという指摘もありますが)。その安売りを実現する為に中国は過酷な労働環境を強いている場合もあり、そうなると人権問題の観点からも問題が出て来ます。

 そして、この体制は中国経済に以下のような根本的な問題をもたらしています。

 経済は生産と消費で成り立っていますが、十分な労働賃金を支払わければ、“消費”は増えません。中国は一部には富裕層やエリートがいますが、大部分は真っ当に労働賃金を貰えてはいないのです。その為、国内の“消費”が少ない。これはつまりは内需が弱い事を意味しています。この弱い内需を外国へ商品を売ることで…… つまりは外需で補おうとしているのが今の中国経済の実態で、その為に行っている“安売り”が世界の労働市場に悪影響を与えてしまってもいるのです。

 これを放置すれば、世界中の“富”が中国の富裕層に吸い上げられてしまいます。問題なのは言うまでもありません。

 顕著で分かり易いので、中国の事例ばかりを述べて来ましたが、このような“不公平”があるのは何も中国ばかりではありません。例えば、近年になって日本のアニメ産業が国際的に注目を集めていますが、同時にアニメ業界の過酷な労働環境が批判の的になっています(一応断っておくと、近年では随分とマシになっていて、過去の話が誇張されてニュース記事になっていたりもするのでそこは注意してください)。

 更に追記しておくと、アメリカは労働賃金が極めて高い国ですから、それだけ不利な立場なのです(ただ、そのような自国有利な政策をアメリカが全く行っていないなどといった事もないのですが)。

 仮に自由貿易状態にした場合、このように相手国に自国企業有利な体制を作られてしまったなら、競争に敗けてしまいます。

 これを是正する事は、アメリカだけじゃなく、世界各国の過酷な労働を強いられている労働者達にとっても有益ですし、そもそも経済社会を成り立たせる上でも正当性があります。

 ですから、トランプ政権の主張にも一理はあるのです。

 

 が、しかし、今回のように全方向に対して喧嘩を売るような方法が、アメリカにとってメリットがあるとは思えません。

 

 次にトランプ政権関税政策の経済的な問題点について軽く触れます。

 

 ■トランプ政権関税政策の経済上のデメリット

 

 世界の基軸通貨は言うまでもなくアメリカ・ドルです。そして、そのドルの発行権を持っているのは言うまでもなくアメリカで、それがアメリカという国の国際的な強みとなってもいます。

 その一例が“アメリカ国債の価値”です。取引手段として最も価値があるドルの債権だからこそアメリカ国債は高い価値を保っていられるのですね。

 がしかし、アメリカが関税を上げればドルでの取引需要が低下します。これはドルの通貨価値が下がる事であり、同時にアメリカ国債の価値が下がる事も意味します。

 ――そして、債権は価値が下がれば金利が上昇します。

 “需要が低くなる”ので、金利を上げなければ買ってもらえない。その為に金利を上げなくてはならなくなるのですね。

 当然ながら、この状態に陥ると、アメリカの借金は増える事になります。

 そして実際にアメリカ国債は売られました。意外な事に日本でも売られ、一部では“アメリカに対する静かな抵抗”などと言われていますが、単なる“債権価値の低下を懸念しての売り”という見方が正しいのではないかと個人的には考えています。

 (実はトランプ大統領は、アメリカの借金が増える事を嫌がっており、今回の一部の追加関税の一時停止もこのアメリカ国債の金利上昇を受けて行われたと言われています)

 また、高い関税を設定し、アメリカだけで完結させようとすれば、スケールメリットの恩恵を得られなくなり、現在でも高い水準にあるアメリカの物価は更に上がり、アメリカの景気は冷え込むでしょう。

 ……ただし、関税とはアメリカ企業に対する増税ですので、アメリカの税収は増えます。その増えた税収を使って、景気刺激策を行えばアメリカ経済を盛り返せると予想している人もいるようです。当たるかどうかは分かりませんが。

 この程度で悪影響が済めばまだ良いのですが、この先、アメリカにとって最悪の事態に発展する可能性もあります。

 もし仮に世界各国が「アメリカに売れないのなら」とアメリカを除外した経済圏を形成してしまったなら果たしてどうなるでしょう?

 いくら巨大な国と言っても、アメリカ一国では流石に世界の市場規模には対抗できません。すると、長期的にアメリカは衰退し続ける事になってしまうのではないでしょうか?

 政権発足当初の時点では「メキシコなどに関税をかけるのは中国包囲網の一環ではないか?」などといった推論をしていた人もいました。中国に対して関税をかけたとしても、第三国を経由してアメリカへの輸出が可能なので、それを封じる意味があったと考えている人がいるのですね。ですが、現在はそんな状態では既になくなってしまいました。

 ……もっとも、“追加関税の延期”で“アメリカを除外した経済圏”ができてしまう可能性は随分と後退したように思えますが(もちろん、まだまだ未知数ですが)。

 

 経済についても、このような問題点がある訳ですが、“全方向に対して喧嘩を売る”態度は当然ながら軍事上も大きな問題があります。

 例えば、トランプ政権はアメリカにとっての隣人で友好国でもあったカナダに対し、「カナダは51番目の州」といった言葉で挑発したり、パナマに対しても「パナマ運河獲得の為に軍事力の行使も辞さない」とまるで脅迫のような発言をしたり(なのに、何故かロシアに対しては態度が柔らかい…… なんて指摘もあります)していますが、この言葉通りに実行すれば、間違いなく安全保障、軍事上の問題に発展します。

 次は地政学をベースに、その点を語っていきたいと思います。

 

 その前に断っておきます。

 正直に告白すると、地政学についてはまだまだ自分は勉強不足です。何しろ、地政学の本は『戦略の地政学 ランドパワーVSシーパワー 秋元千明 ウェッジ』、『あの国の本当の思惑を見抜く地政学 社會部部長 サンマーク出版』の2冊しか読んではいませんし、内容も充分には理解できていないかもしれません。なので、至らない点も多々あるかと思います。

 ですから、今回のエッセイを読んで興味を惹かれた人がもしいたなら、実際に地政学を扱った書籍を当たってもらう方がより確実ではないかと思われます。

 

 ――では、地政学を理解する上で最も重要な地形“海”の性質についての説明から始めたいと思います。

 

 ■“海”という結界

 

 日本人ならば、ほとんどの人は元寇について知っているでしょう。モンゴル帝国が日本に対して行った侵攻をこう呼びます。日本は国力差をものともせずに撃退に成功した訳ですが、これは実はそれほど驚くべき出来事ではありません。何故なら、一般的に海洋を隔てた国への侵攻は非常に難しいからです。

 その証拠にイギリスは歴史上、一度だけしか征服された事がありませんし、アメリカに関しては本土が攻撃を受けたのはたった一度だけです(『参考文献 あの国の本当の思惑を見抜く地政学 86ページから』)。

 つまり、それほど海というのは防御面で有利に働くのです。その為、海洋国家は他国からの侵略に対し、それほど神経質にならずに済み、同盟関係も結び易いのです。

 また、海は同時に“便利な交通ルート”でもあります。船はエネルギー効率に最も優れた運搬方法なのですが、海で繋がってさえいれば、その船によりどんな国へも輸送が可能になります。

 その為、海の支配権を持っていると広範囲の国との交流が可能になるのです。従って、“海洋国家”は、世界各国に対して影響力を持ち易くなります。

 それに対して主な支配権が大陸にある大陸国家はこのような特性を持ちません。地続きである為、防御面に弱く、常に隣接した国々から攻め込められる緊張状態を強いられる事が多くなります。結果として同盟関係を結び辛く、また結べたとしても“安心”は得られません。今は関係が良好でもいつ何時それが翻るか分からないからです。その為、外国に対して強い警戒感を持つ場合が少なくありません。また、海がないので遠く離れた国々と繋がる事も難しくなります。

 ただし、大陸国家は地下資源には恵まれる事が多く、広大な土地を活かせれば、農業の大規模化も可能になります。

 

 このような大きな違いがある為、地政学では国を大きく海洋国家と大陸国家に分類します。

 

 ■アメリカは海洋国家

 

 多くの海を持つアメリカは地政学では海洋国家に分類されます。隣接するカナダとメキシコとは国力で大きな差があり、また特にカナダとは良好な関係を築いていた為、陸の脅威を気にする必要がなかったからです。

 書籍によっては、アメリカを“典型的な海洋国家”と評している場合もありますが、個人的には“一部大陸国家のメリットを持った海洋国家”ではないかと考えています。広大な土地を持ち、地下資源もありますからね。

 アメリカは海洋国家としてのメリットを存分に活かした国家運営を行っている国です。世界の広範囲と繋がれる“便利な交通ルート”である海を利用して多くの国々に軍事基地を置き、世界全体に対して多大な影響力を持っているのですね。この軍事展開は180国以上にもなり、間違いなく世界一位です。

 これを可能にしているのは、海を隔てている為“互いに攻め込まれるリスクが低い”という安心感を産む海洋国家の地政学的な条件です。だからこそ同盟関係を結び易いのです。アメリカ軍を受け入れる国々にとってアメリカは、頼りになる“用心棒”で、隣接する国の脅威から護ってくれます。そしてアメリカにとっては“アメリカの脅威となる国が大きく育つ前に抑制できる”というメリットがあります。

 海は“防御面に優れた結界”だと説明しましたが、それにはデメリットもあり、遠く離れた外国への影響力は限定的になってしまいます。その為、同盟関係を結んだ国々との協力が必要になるのです。

 アメリカが圧倒的に軍事力で劣るベトナムに戦争で敗けた事は有名ですが、これはこのような地政学的な条件に因るものです(まぁ、ベトナムは中国にも勝っていますし、これだけが原因ではないのですが)。

 実はアメリカの戦争での勝率はそれほど高くはなく、6割ほどしかないそうです。しかも勝った戦争も、ほとんどが多くの国々と協力できたからなのだそうです(参考文献『あの国の本当の思惑を見抜く地政学 社會部部長 サンマーク出版 99ページ』)。

 

 つまり、アメリカが世界に影響力を持てるのは、“様々な国と同盟関係を結び易い”という海洋国家の特性のお陰であり、単独の力ではないのです。

 

 ■アメリカにとって最大の脅威“中国”は海洋進出しようとしている大陸国家

 

 ロシアは軍事力に優れた国で、特に核兵器の保有量は驚異的です(核兵器の維持管理ができているのかは疑問を持たれていたりもしますが)。

 ですが、一方で経済力はそれほど高くはなく、“アメリカにとっての最大の脅威”とまでは言えないようです。

 今現在、アメリカにとっての最大の脅威は間違いなく中国で、そしてその中国は海洋進出をしようとしています。

 近年の中国は貿易に有利な沿岸部の都市が発達しているので、国防を考えても“海”が重要になっている上、アメリカのように世界中の国々に対して強い影響力を持ちたいと思ったのならば“海洋国家”となる必要があるからではないかと考えられます。

 地政学においては、「海洋国家と大陸国家に同時になる事はできない」とされているようですが、それは恐らくは陸で他国と相対している為に絶えず緊張状態にある大陸国家は陸軍を疎かにはできず、海軍に注力できないからなのでしょう。この考えを当て嵌めると、中国の場合は、海洋国家になりたいと思ったのなら、ロシアやインドなどの隣接する強力な国々と強固な同盟関係を結ぶ必要があります。これはかなり難しいかもしれませんが、不可能ではありません。また、著しい経済発展を遂げれば、強力な陸軍と海軍を同時に持つ事は不可能ではないかもしれません。

 がしかし、仮に海軍を強化しても中国は今のままでは海洋国家にはなれません。何故なら、日本や台湾などの島国が中国の海洋進出を阻んでいるからです。

 

 ■アメリカ側の緩衝国家 日本

 

 大国と大国が直に接すると高い緊張状態に陥ります。これを防ぐ為には、大国と大国の間に緩衝地帯としての別の国家が必要となる訳ですが、この国家がどちら側に属するかで大きく事情が異なります。そして、それが原因で戦争が起こってしまうケースもあるのです。近年での、その最も有名な事例はロシアによるウクライナ侵攻でしょう。

 ロシアにとってウクライナはEUとの緩衝国家です。ところがそのウクライナとEUは近年になりどんどんと接近して来てしまったのです。ウクライナが完全にEU側の緩衝国家となってしまったのなら、EUにとっては安心かもしれませんが、ロシアにとっては大きな脅威となってしまいます。

 理由はそれだけではありませんが、ロシアがウクライナ侵攻を開始した背景にはそのような事情があるのです。

 

 さて。

 中国は“反日教育”を行っているとされています。

 「中国はイギリスにアヘン戦争で酷い目に遭わされたのに、反英教育は行わないのか?!」

 などと怒っている人がいますが、中国が反日教育を行っているのは、日本が“アメリカ側の緩衝国家”だからで、つまりは戦略的な理由によるものだと考えるべきでしょう。

 ロシアにとってウクライナが、“EU側”になる事で脅威となってしまったように、日本は“アメリカ側の緩衝国家”として中国にとっての脅威なのです。

 ただ、防御面で有利な海洋国家である日本の感覚と、防御面で不利な大陸国家である中国の感覚は大きく異なっているのかもしれませんが。

 2012年に中国で大規模な反日デモが起こりました。こういった場合、相手国もやり返すのが普通ですが、多少の事件は起こったものの、日本はほぼ無反応で、ただただ中国が一方的に反日デモを行って終わりました(こういう面では、本当に日本は良い国だと思います)。

 これは或いは、ほとんど外国から攻め込まれた経験のない、海洋国家である日本だからこその反応なのかもしれませんが、日本が中国をそれほど敵視していないという要因もあるのかもしれません。

 ですが、アメリカの“対中国政策”にとって日本が要なのはほぼ確かなのです。

 仮に台湾有事…… つまり、中国による台湾侵攻が本当に起こってしまったのなら、日本が参戦しなければアメリカは中国には勝てないというシミュレーション結果を、アメリカの研究機関が出したそうです(参考文献『あの国の本当の思惑を見抜く地政学 社會部部長 サンマーク出版 248ページから』)。

 ですから、もし仮に日本が“中国側の緩衝国家”となってしまったのなら、アメリカは中国を抑えられなくなってしまうのです。

 前述しましたが、アメリカが世界に大きな影響を与えられるのは、“他の国々との協力”が大前提なのです。

 

 ■地政学軽視のトランプ政権 ~アメリカとは関係のない遠くの異国ではない

 

 トランプ大統領は、「アメリカが日本を中国の脅威から護っている」という発言をしています。これは確かに事実でしょう。しかし同時に一方的な見方に過ぎません。何故なら、「日本も中国の脅威からアメリカを護っている」からです。

 つまり、アメリカにとって日本は自らを護る“盾”なのです。

 世界地図を改めて見てみるまでもなく、もし日本が“アメリカ側の緩衝国家”として立ち塞がらなければ、広い太平洋に他の国家は存在せず、アメリカは中国と直接対峙しなくてはならなくなります。

 更に言うと台湾は戦略上、とても大きな価値があります。重要な二つの航路に面している上に、半導体技術でも最先端を行きます。もし中国に台湾を手中に収められてしまったなら、アメリカにとって大ダメージです。台湾を護る要である日本と同盟関係を結ぶことがアメリカにとってどれだけ重要かが分かるでしょう。

 アメリカがアメリカ軍を日本に置いたのは日本を“アメリカ側の緩衝国家”する為で、もちろん、それにはこのようなメリットがあるからです。アメリカがボランティアで日本の為に軍事基地を置くはずはないので、冷静に考えれば分かり切った話ではあるのですが。

 地政学に基づいたこのような計画を、アメリカは日本と敵対していた大戦時から立てていたそうです。ですから日本とアメリカが同盟関係を結ぶことは“地政学的な運命”とまで評価している人もいるのです。

 ――しかしトランプ大統領は、この“地政学的な戦略”を軽視しているようにしか思えません。

 「アメリカのような大国が、この程度の事を理解していないはずがない」

 そのように訴える人もいますが、アメリカ以外の大国でも、地政学を全く理解していない提案をした例があります。それは中国です。かつて中国はアメリカに対して「太平洋を大きく二分して統治しよう」と提案した事があるのです(今もその構想は持っているのかもしれません)。

 “海”のメリットの一つは、海に面してさえいればどんな国とでも繋がれる“便利な交通ルート”である点です。二分してしまっては、何の意味もありません。アメリカはその提案を突っぱねたのですが、それを考えるのならば当然の話でしょう。

 中国のこの提案は、大陸国家の発想であり、海洋国家のメリットを理解しているようには思えません。つまりは、地政学を理解していないのです。

 嘘か本当かは分かりませんが、第一次トランプ政権時は、周囲がトランプ大統領を抑えていたと言われています。しかし、第二次トランプ政権ではイエスマンばかりを起用しているのだそうです。

 

 ――その所為で、第二次トランプ政権は地政学を軽視してしまっているのではないでしょうか?

 

 トランプ大統領が、地政学を軽視している証拠はまだあります。

 アメリカが海洋国家になれているのは、陸で隣接している国々と緊張状態にないからです。特にカナダとの友好関係が重要であるのは言うまでもないでしょう。ですが、前述したようにトランプ大統領はカナダに対し、「カナダは51番目の州」といった言葉で挑発し、高関税もかけています。当然ながら、カナダの反米感情は高まってしまっています。

 「カナダはアメリカに比べて国力で大きく劣るから問題はない」

 と、考える人もいるかもしれませんが、そう物事は単純ではありません。北朝鮮を思い浮かべてください。国力は非常に小さいですが、非常に厄介な国です。

 “敵対している”

 ただそれだけで、十分にその国にとって問題になり得るのです。実際、軍事力で劣る国が戦争で勝利した事例は世界には数多く存在します。

 更に、アメリカと敵対するのがカナダ単独であるとは限りません。アメリカがカナダからの原油や天然ガスに対して関税をかけた事もあって、カナダは中国向けの輸出を増やしているのです。つまり中国との結びつきが強くなってしまっているのです。

 仮にアメリカと敵対したカナダが、対抗する為に中国と手を結んでしまったなら一気に状況は悪化します。アメリカはメキシコなどにも圧力をかけていますから、恐らくはアメリカ包囲網に南米の国々からも加わる国が出て来るでしょう。

 ――そうなれば、アメリカは海洋国家としてのメリットを活かせなくなります。当然ながら世界への影響力は弱まり、更にそれで前述したような“アメリカを除外した巨大経済圏”が出来上がってしまったのなら、アメリカは大ピンチに陥ってしまいます(もちろん、最悪のシナリオではありますが)。

 

 トランプ大統領は、日本との安全保障条約だけでなく、世界中に展開している軍事力に対しても不満を口にしています。

 これは“アメリカにとって関係のない遠い異国のこと”と捉えているからなのでしょう。

 実はこのように考えているのはトランプ大統領だけでなく、一般のアメリカ人の中にもいるのだそうです。

 或いは、“防御面で有利な海洋国家”だからこその感覚なのかもしれません。

 ですが、もし仮にユーラシア大陸で巨大国家が育ち、アメリカでも対抗できなくなってしまったのなら、もう「関係ない」とは言えなくなります。

 アメリカと同盟を結んでいる日本という国の立場から考えても、このような事態になられては困ります。アメリカも多くの問題を抱えた国ではありますが、それでも中国よりは随分とマシでしょう。

 どうかせめて“喧嘩を売る”のは中国だけに留めておいて欲しいと思います。

 

 ■トランプ大統領には高度な戦略がある…… という反対意見も

 

 最後に断っておきます。

 危機感から、トランプ政権に対して批判的なエッセイを書きましたが、これは飽くまで“表面に出て来ている現段階の情報に基づいて”のものでしかありません。トランプ政権は直ぐに政策内容を変えてしまうので、今後どうなるのかは予断を許しません(調べながらこのエッセイを書いたのですが、どれが最新の情報なのか混乱してしまったほどです)。

 また「表面上は暴走しているように見えても、裏に高度な戦略がある」という意見もあります。

 もしかしたら、トランプ政権はの政策には、僕などには予想もできないような何かがあるのかもしれません。

 

 以上(2025年4月27日現在)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ