蒸気機関車での旅の始まり
「子供や老人が乗ってはる馬車ばっかやな。
皆、西南の自由都市から脱出しはってる人達なんやろか?」
ヨロズコちゃんが、外を見ながら話す。
僕達は二階の仮眠スペースに居る。
仮眠スペースは天井が低く、中腰でしか動けないのだが……ほぼスペースが馬車と馬(砂喰らい馬)で埋まっている一階部分よりかは遥かに居心地が良い。
「幌馬車でなく、木や鉄で覆われた箱馬車や、
馬車ではなく、1つの部屋に10個ぐらいの荷車を入れて貰っている人達は、十中八九、そうだとは思うが……
ギルドのカリーナ帝国の西南の自由都市支店の情報を見る限り、幌馬車に関しては、一概に、そうとは言い切れなさそうだ。」
「へ~。
じゃあ……どんな人が乗ってはるん?」
ヨロズコちゃんが、興味津々な顔でゼロヒト君に質問をする。
◇◇◇
「蒸気機関車と幌馬車を使った長距離輸送システムがあるみたいなんだが……
カリーナ帝国の西南の自由都市支店は、俺達が居た森が落ち着くまでは、その幌馬車の荷室の1/3のスペースに収められる場合に限り、
荷室のスペースが減った分の報酬を差し引きはするが、家族同伴で仕事をしてもオッケー。という案内を出しているんだよ。
だから、多分……幌馬車の中には家族同伴で仕事をしている運び屋も居ると思う。」
「蒸気機関車と幌馬車を使った長距離輸送システムのう……
確か……幌馬車のみで人外地を移動する区間もあったかと思うが……そんな危険な場所に、敢えて家族を連れて行くかのう……
しかも報酬まで減らされるのじゃ。
我なら家族同伴で仕事などせぬがのう……」
ゼロヒト君の回答にフミナリさんが不思議そうな顔をしている。
「ゼロヒト殿からの情報を頂いた我々と違い、
この町(カリーナ帝国の西南の自由都市)というか……
ミンボン山脈の樹海の周辺の町や村に住む多くの者達は、何時、モンスター氾濫が起きるか分からない。と、今も思っている筈です。
でっ。もし、実際にモンスター氾濫が起きれば、
自宅に居てもモンスターに襲われる可能性があります。
ですから、何処に居てもモンスターの驚異にさらされているのであれば、せめて家族と行動を共にしておきたい。と思う者が出てきたとしても不思議ではない気がします。」
「成る程のう。
確かにグンニの見解も一理あるのう。」
グンニさんの意見を聞いたフミナリさんが、尊敬の眼差しでグンニさんを見ている。
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【プォオオオオオ】・【 プォオオオオオ】
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時刻は15時半。
蒸気機関車が汽笛を鳴らすと、ゆっくりと動き始めた。
「30分前やけど出発しはるみたいやね。」
「乗車が終わったのは馬車運搬車だけだ。
駅にでも移動して、高級客車や、中・低級客車に乗る乗客達を乗せるつもりだと思うぞ。」
「成る程な。
確かに高級客車や、中・低級客車へ乗車する人を見かけてないわ。」
ヨロズコちゃんがゼロヒト君の言葉に頷く。
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時刻は16時。
ゼロヒト君の予想通り、駅に移動して、高級客車や、中・低級客車に乗る乗客達を乗せた後、蒸気機関車は汽笛を鳴らすと、再び、ゆっくりと動き始めた。
◇◇◇
「テイヒィ達、夜営の準備を始めたようだ。
聞いていた通り、今朝の9時の便で、これから1・2時間後に着く、隣の駅に降り、ツボツボ族(テチス山脈の少数民族)の村に向かってるようだ。
あの森(ミンボン山脈の樹海)から、約100キロ離れたところに居る。
怨霊の王が何時、仕掛けてくるかは分からんが……取り敢えず、あいつ達を含めて何とかなりそうだな。」
ゼロヒト君がホッとした顔をしながら報告をくれる。
「後は……罪悪感に駆られないよう、他の人達とは仲良くならない方が良さそうだね。」
「確かに。
この蒸気機関車にも怨霊の王とかいう奴が襲う場所に大事な人を残して来てる人も居るだろうからね。」
僕が濁しながら話した事を、嫁がスパッと言う。
「せやな。
ニンムシュや、その配下は別として……何の恨みも無い人達も犠牲になりはるんやもんな。
あの森(ミンボン山脈の樹海)の中で絡んできはった2つのアホの集団以外で、フミナリさんも含めて、今んとこ嫌な奴のカリーナ帝国人に会えてないんもな。
その辺も地味にメンタルを削られそうやね。」
ヨロズコちゃんが溜息をつきながら呟く。
「【空の目】の映像を見る限りでは、
腐肉を好む鳥系のモンスターが、あの森(ミンボン山脈の樹海)と、カリーナ帝国の町や村と接する辺りに集まり始めてるにゃ。
多分……今晩、辺りにでも怨霊王とやらは動きそうにゃね。」
ゼロヒト君のパソコンを見ながら、ミケコがボソッと呟く。
「フミナリ。そんにゃ顔をするにゃ。
旧フトバル公爵領とやらは、この辺にゃろ?
【空の目】の映像を見る限りでは、旧フトバル公爵領の町や村の周辺に腐肉を好む鳥系のモンスターが集まってにゃい。
どうやら、怨霊王とやらは、一方的に妾達にしてきおった約定を守るつもりのようじゃ。」
「そうか。それは有難い。」
ミケコの話を聞いたフミナリさんがホッとした顔をしている。
「さてと。
後は……犠牲になる一般人には申し訳ないが、
俺達に出来る事は、事の成り行きを見届けるぐらいしかなさそうだな。」
ゼロヒト君が、そう言いながら苦笑いしていた。
■■■
『当機関車は、後30分程でギリセ駅に到着致します。
ギリセ駅からの出発時刻は20時を予定しております。
お降りにならない、お客様も、ギリセ駅構内への立ち入りは許可しますが、出発時刻までに、お戻りになられない場合、ギリセ駅に置いていかせて頂きます。
ご理解の程、よろしくお願いします。』
蒸気機関車の館内放送が聞こえてくる。
時刻は18時00分。
蒸気機関車は無事に着いてくれたようだ。
「後、2~3時間もすれば、山岳地帯に入る。
暗くなれば風からの風も入って来なさそうだし……そろそろ1階の鉄板を下げとくか。
兄さん。悪いが手伝ってくれ。」
「了解。」
僕はゼロヒト君の提案に頷く。
「マジで。
夜やとなんも見えんやん。
草原の景色は飽き飽きしてきた。
もっと早う山岳地帯に入って欲しかったわ。」
「おいおい。
地平線まで続く草原。最高!
この景色を見ながら、飯が何杯でも食えそうや!
って言てたのは、何処の誰だよ。」
ヨロズコちゃんの言葉を聞いたゼロヒト君が大笑いしている。
「うっさいなぁ。
飽きたもんは飽きたんや。」
ヨロズコちゃんが頬を膨らませながらゼロヒト君に抗議している。
「逆だったら良かったのに……
昼間の草原は直ぐに飽きたけど……
満天の星空の下。遮るものが何もないという幻想的な景色なら、朝まで飽きずに楽しめた気がする。」
嫁が溜息をつきながら窓の外を見てる。
「ホンマやな。
それこそ、飯が何杯でも食える車窓やん。
せやけど、 これから、山の中に行くんやろ?
木々が邪魔して、お月さんも、お星さんも見えへん。
はぁ……むかついてきたわ。
どうせ、明日も暇なんやし、今晩は……甘いもん祭りがしたいわ。」
「ごめん。
わたし……生クリームが苦手だから……思ってるよりもレパートリーが少ないと思う。」
そんなヨロズコちゃんを見ながら、嫁は申し訳なさそうな顔をしている。
「和菓子は、それなりにあるんか?
それと……カスタードクリームが入ってる洋菓子とか、生クリームが使ってはらへん洋菓子は、それなりにあるんか?」
「その辺は、大丈夫だと思う。」
「ほな。問題あらへん。」
「じゃあ……甘いもの祭りを始めますか。」
「せやな。」
嫁とヨロズコちゃんの話し合いが終わったようだ。
「サモナブ。
甘いもの祭りは、後にするにゃ。」
ミケコが、そう言いながら、ゼロヒト君のノートパソコンをジッと見つめていた。
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