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06

お久しぶりです、どうもすみません

え、何で日本語?


言葉が通じないんじゃなかったっけ??


!、もしかして今まで食べてた果物や野草の中にそういう翻訳効果のあるものが?!


いやいや、……まっさかぁ


ないない、ないよね

いやでも、怪しい魔法で、とか翻訳アイテムで、とかいうよりそっちの方がよっぽどいいんじゃない?!

ただでさえ、ファンタジーなこの状況で少しでも科学的…?な方面で考えてた方が

精神的にもありがたいというか、現実逃避といえばそれまでだけど……


よし、何かを食べたという方向でいこう、うん、それがいい



「では都子さん、一先ずどこか宿を借りましょう

 色々仕度も必要でしょうし」


「え、あ、え、な、なに?」



すぐ傍に立っていた彼が、腰を屈めて太腿の裏側に腕を差し込んでくる

慌ててひょこひょこと、よろけながらその腕を避けると、彼は苦笑いをしながら



「そのまま歩いては足を怪我してしまいます」



と、あたしが裸足であることを思い出させてくれた



「あ、だ、大丈夫っ靴ならそこに…あ、あれっ?」


「この靴のことですか?」


「あ、うん、それ、それです」



ちょうだい、と手を出すと、彼は靴を小川の傍に置いた



「まず足を洗ってからですね

 それに、この靴では山道は辛いです、特に貴女の足ではもっと」


「あ…うん」



確かに、何日も掛けて一日ちょっとずつ移動したわけだから、

いっぺんにその距離を…と思ったら結構な重労働だよね

いや、だからって抱っこはないよ、抱っこは!



「ここからだと…、そうですね、南に抜けてしまった方が大きな街があるので

 まずそこで宿をとって、それから必要なものを購入しましょう

 大きな街の方が品揃えも豊富でしょうから」



小川でよろよろと水に足を取られつつ泥を落としていると、

彼が手を差し出してきてしっかりと掴まらせてくれた


必要なもの…そうだよね、旅だもん必要なもの……

だめだ、普通に洗顔セットとか使いきりのシャンプーとかしか思いつかない

旅行じゃなくて旅ってくらいだからもっと何か…あーうー……



「衣類と、義肢と、旅行用の日用品も要りますね」



衣類…そうだよね、サイズが…特に下着とか……

あれ? もしかして子供服を着るハメに?

ぎし? ぎしってなんだろう……

日用品…ポケットティッシュとか綿棒とか絆創膏とか……



「そういえばもうじき昼食の時間ですね

 このあたりの特産品は、イェイェル豚の香草焼きと、」



え、だから、服と、ぎし?と、日用品でええるぶた……

え、え、ちょ、



「ま、待ってっ

 あたしお金ないから!」


「大丈夫です、お金ならちゃんとありますから」


「ちがっ、そ、そうじゃなくてっ

 あたしお金ないから、」


「大丈夫です、分かっています、

 今まで都子さんは違う文化圏にいたわけですから」



え、文化圏?

そりゃ買い物に行こうとしてたんだから日本のお金なら少しだけあるけど!

だからって初対面の人に奢って貰うわけには……あれ?!


あたしこのままじゃただの厄介者じゃない?!


えー! ダメダメダメダメダメ!!

それはよくないっ、え、お金、ど、どうしよう、どうやって稼ごう…!


…みせものごや……ダメだってば!

えーうーあー…あ!、そうだ、物々交換の時みたいに果物とかを集めて

今度は物じゃなくてお金にしよう!


服と交換してもらえるんだから、洋服代くらいは稼げるはず!!

洋服代相当ならきっと食費にだってなるよね!


……宿泊費はちょっと想像つかないけど



「りんごっぽいのと、みかんみたいなのと……

 そうそう、あそこに確か山菜らしきものが……

 とにかく手当りしだいに、」


「お腹が空いているんですか?

 先に食事にしますか?」


「え、ち、違うのっ

 そうじゃなくて、果物を集めて売ってお金にしようと思って!」


「遠慮の必要はありませんよ?」


「遠慮じゃなくて、あの、」


「はい」



そりゃ彼に比べたらあたしはかなり小さくて

正直な話、彼には子供に見えているのかもしれないけど



「曲がりなりにも、あたしは大人だし!」


「はい、自立した女性に見えます」



え……



「ど、どうも」


「では、微力ながら果物を集めるのをお手伝いします

 遠慮なく何でも言いつけて下さい、貴女の力になります」


「あ、ありがとう

 …え?、な、な、なにっ、なにっ、ひゃぁう?!」



思いのほか、あっさりと主張が認められ

しばし呆けていると、ざっと片腕に座らされるように持ち上げられた

いつの間に取り出したのか、タオルのようにふかふかの布で

そっと丁寧に水気をとるように拭いてくれるんだけど……!!



「っや! やぁう!!

 く、くすぐった! ゃん?!、や、ぃやぁっ!!」


「ッ!!」



すみませんごめんなさいかんべんしてください!

ひぃぃホラーとくすぐったいのだけはどうにもこうにも!!……あれ?


彼はよろよろとあたしをさっきまで洗った下着を置いておいた石の上に下ろすと

そのまま膝をざぶりと川につき、頭をばしゃんと土下座するように川の中に突っ込んで


暫くぶくぶくと顔を上げなかった……



「…ど…どうしたの?」



え、だ、大丈夫?

何かの病気なの??


どうしよう、誰か人を呼んでくるべき?

え、っていうか息っ息大丈夫っ?!



「ね、ねぇっ、ちょ、だ、大丈夫?

 しっかりして!」



ぶくぶく言ってるけど、気絶してるの?!

どうしよどうしよ、そ、そうだ、とにかく水から引き上げなきゃ……っ


引き上げようとは思うけど、彼の体格はとにかく大きい

せめて頭だけでもっ、と両手を伸ばした瞬間……



ザパァッ!



「ひゃっ?!」



突然彼が川から顔を上げて、

びくっとなったあたしは思わずバランスを崩して後ろにひっくり返りそうになった



「すみません、ご心配をお掛けしました

 驚かせてしまいましたね、大丈夫ですか?」


「だ、だいじょうぶです、うん」



あわや倒れそうなところを、ぐっと腰を抱き寄せられてちゃんと立たされる



「あ…あの…ありがとう」


「はい」




時々、発作のように蹲る彼に若干の……

いや、そこはかとない?

さもなくば多少…? の不安を感じつつ、あたしたちは果物や山菜を採ることにした


……彼、脳の病気じゃないよね?


あー…アレかも、美人薄命とか

いや、用法が間違ってるかもしれないけど!




 *** *** ***




彼に籠を持ってもらい、あっちへこっちへ移動する

前までは手の届かないところは動物たちに採ってもらってたんだけど

今は背の高い彼がいるから彼に採ってもらえる


それにやっぱり言葉が通じるっていうのが一番のメリットだよね

動物たちが付き添ってくれてた時よりも孤独感は和らぐし!



「あ、そうだ、あの硬いのも もしかしたらちゃんと食べる方法があるのかも……」


「硬いの…ですか?」


「うん、そうなの…えっと……」



どこかにどこかに……あ! あれあれっ



「あれなのっ あれあれっ」


「ああ、あれですか、市場に出回るものよりも大きいですね」


「市場に出てるの?」


「はい、高級食材ですよ

 食べたことはありませんか?」


「うん、硬くって……

 でも高級なら高く買ってもらえるかな」


「勿論です」



樹の高い場所に絡み付いている蔓からぶらんと下がっている大きな瓜状の実

蔓と実の繋がっている部分はレモンみたいな黄色い色だけど、実のおしりの方にいくにつれて、綺麗な紅色に色が変化していってて、見た目はとっても綺麗なんだけど

お猿さんが採ってきてくれて一度食べようとチャレンジした時は、残念ながら食べることができなかった


なにせ匂いはすっごく甘くて美味しそうなのに、硬くって硬くって!!


果物ナイフが全然刃が立たないの!

仕方なく皮ごと丸齧りしてみようとしたんだけど、やっぱり無理で……


教えてくれたお猿さんは、実を渡すとさっとどこかに行っちゃったから

彼らが一体、どうやって食べるのか見たこともなかったし



でも、ユンが言うには市場に出回ってるって話だし

しかも高級だっていうんだから きっと美味しいんだよね



あ……でも流石にあの高さは彼でも無理かも



「お猿さーんっ

 ちょっと来てもらってもいい? 」



……。



「お猿さーん?」



……。



「…あれ?」



いつもは呼ぶとすぐ来てくれるのに



「猿がどうかしましたか?」


「うん、あの…採ってもらおうと思って」


「リェンルーニをですか?」


「りぇ……え?」


「あの実の名前ですよ、リェンルーニ

 少し歯応えがありますが、甘い実です」


「甘いの?、えっと、そのりぇんにー?をね

 いつも高いところのものはお猿さんとか鳥さんに採ってもらってるから、

 いつものように採ってもらおうと思って呼んだんだけど……」


「いいえ、来ていますよ、あそこにほら

 それに狼や兎、熊などもあそこにずっといますよ……」


「え? ど、どこに??」



言われた方向をきょろきょろと見るけど、一向にその姿は見えてこない



「この方向です、ほら、あの枝と、五本左隣の樹の下、茂みの中にも」



すこし見当違いの方向を向いていたらしいあたしの頭を

頬に手を当てるようにしてついっと方向修正し、指をさしてくれるんだけど

全く分からない……


仕方なく、トートバッグの中にある双眼鏡を取り出して、それで言われた方向を見てみた



「……えー? どこに……あ!」



いた!、いたよあんな遠くに!!



「ど、どうしてあんな遠くに……?」


「それはわたしがいるからでしょう、

 野生の生物は勘が鋭いので大抵はわたしを恐れて近寄ってきません」


「え?!」



こ、怖がって寄って来ないの?!

じゃ、じゃあ彼が現れてから動物たちが寄ってこなくなったのは

彼のことを信用してあたしを任せたとかそういうのじゃなく

怖くて近寄れなくて遠くから見てたの??!!



「…こ、怖くて?」


「はい、家畜などはわりと鈍感なのですが、

 野生生物は気配に敏感ですから このような反応は仕方ありません

 ところで、それは遠くを見る為の道具ですか?」


「え、こ、これ?」



手に持っていた双眼鏡を見せると、彼は"はい"と返事を返す

こっちには似たような道具はないのかな?



「えっと、双眼鏡っていって、

 ユンの言うとおり、遠くのものを見る為の道具で、

 ここを回すとね倍率が変わって見える距離も変わるの」


「なるほど…上手い細工ですね

 似たものを知っていますが、あれは見える距離は変わりませんから…

 あぁ、残念です、わたしではあまり恩恵は得られないようです」



彼は受け取った双眼鏡を当てたり外したりして遠くを眺め、ため息をつくように言った

そうだろうね、そんなに眼が良かったら双眼鏡とかいらないよね……


少し苦笑い気味に双眼鏡を返してくれると

ユンは、足元の小石を拾い出した



「?、小石なんか拾ってどうするの??」


「実を採るのに使うんです、このように」



ひゅっ、と空気を切るような音がして

ぼとりと彼の手に大きな実が落ちてきた



「え?」


「これを蔓に当てて切り、こんな風に実を落とします」



彼は、りぇんにー?を籠の中に入れると

もう一度小石を、今度はあたしに分かり易いように弾いて見せた

軽く握った片手の人差し指に小石を乗せ、親指で弾く

あたしの眼では追えなかったけど、ソレは蔓に当たって、ぶちりと切断し

またユンの手に実がぼとりと落ちてくる



「み、みんなそんな風に実をとるの?」



す、凄い、あの、あれみたい、忍者とか……!



「あまりこういう採り方をする者はいないでしょうね

 この樹は、あまり丈夫な樹ではないので、大人が登ると枝が折れてしまいますから

 登って採るのは大抵 草食種系で体重の軽い子供です

 大人になると登れなくなるので、子供に採らせるか、樹を倒して採る者が殆どでしょう

 しかし、この実は樹に寄生して栄養を得てなる実なので、

 一度樹を倒してしまえばもう実は採れなくなってしまいます」



そ、そうなんだ……

それで高級なのかな?



「実が熟れて落ちて来るのを待ったんじゃダメなの?」


「落ちて来る頃には完全に硬くなってしまって危険なんです

 実の重さがちょっとした岩のようになり、重さに耐え切れなくなると落ちてきます

 そして高さと重さを活かして地中にめり込むんですよ

 落ちて来る時に頭に当たると、頭蓋骨が粉砕されてしまいます

 ある程度硬くならなければ甘味は出ませんし、過ぎれば刃が立たなくなってしまいます」



…ず、頭蓋骨粉砕……?



「実は幾つもなりますが、外の環境に非常に弱いのです

 ですから実は硬いのですが、それでも地上に落ちて芽吹くものはほんの僅かです

 芽吹いても上手く樹の傍に落ちることができなければ寄生もできずに枯れます

 実が硬いのには他にも理由があります

 匂いは甘いですから動物たちを引き寄せて持ち帰らせ、

 しかし硬いので食べることはできず、大抵は舐めて甘味を味わう程度で捨てられる

 捨てられた場所が偶然この樹の傍であれば、そこに新たな可能性があります」



こ、こんな凶器みたいな実に そんな壮大なストーリーが……!



「一つは売らずにとっておいて、食後に食べましょう

 冷やして食べると美味しいですよ」



彼は食べ頃らしい実を幾つかとると

にっこり爽やかな笑顔でそう言った



「う、うん、ありがとうっ

 あの、ユンが採ってくれたんだからいっぱい貰ってくれるとありがたいな」


「ふふ、ありがとうございます」



その後、暫く果物を採ったあたしたちは、今度は山菜採りをし山を出ることになった

採った山菜の中には珍しい薬草も含まれていたみたいで、

ソレを彼は幾つか買い取ってくれると言ってくれたんだけど

あたしはその薬草を収穫のお礼として彼に全部譲った


やっぱり世の中は持ちつ持たれつだよね、

ただでさえ行楽でもない旅にお世話になるのに頼りっきりなんて、あたしの庶民魂が耐えられない……!


それにしても、この山菜たちは美味しいのかな?

火が使えないから生で食べられそうにないものは全然口にしたことがないんだけど

これから行く街で山菜を使ったご飯とか食べられるといいなぁ……

もちろん、お肉も……!!


というか塩分、今、切実に塩分が足りてない……!



「では、行きましょうか都子さん」


「うん、あの、いいから、大丈夫だから」


「遠慮なさらないで下さい」


「遠慮じゃなくって、ひゃ!」



申し訳ないからいいと言うあたしをよそに、

一時間もすれば着きますから、とユンに小さい子のように抱っこされ

荷物を持ってもらって、その上あたしまで! と恥ずかしいやら情けないやらだったけどそんな羞恥は秒殺で吹き飛んだのは次の瞬間だった



ひ、ちょ、ま、ぎ、



ぎゃぁぁぁあああああああああ!!!





揺れは殆どないんだけど、兎に角 景色が恐ろしい速さで遠ざかっていく恐怖と言ったらもう!


レーシングカー仕様のオープンカーをアウトバーンでエンジンの限界まで試すってきっとこんな気持ちなのかなって思うのはきっとあたしだけじゃないよね?!

ちょ、神様ごめんなさい、ジェットコースターなんて全然怖くないとか、去年友達と行った遊園地で偉そうに言ってごめんなさいっ!!


殆ど揺れないし、マントを被せてもらった上に耳を塞いでもらって荷物ごとしっかり抱きしめてもらってるし

眼をつむっちゃえば恐らく感じるのは風だけなんだろうけど、眼をつむってる間に何かにぶつかったらと思うと怖くて眼をつむれないし、だからって眼を開けててもそれはそれで当然怖いし






ほんと、もう






おかあさぁぁぁああああああん!!!

次回は街で買い物です、そういえばこんな話がありましたね

男が服を貢ぐのは、脱がせたいからだとか

口紅を贈るのは、ちゅーしてちょっとずつ返してもらうためだとか


まぁ大変


勿論、一般的な教育を受けた彼女が許容できるのは、せいぜいファミレスで奢ってもらうくらいなんで拒否りますけどね

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