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04

異世界の人間が自分達と同じサイズとは限らないんですよね、おっきくたってちっちゃくたってでも書きましたけど

鉛筆よりやや細めの枝を折って、折れた側の表面の皮をぺりりとバナナのように少し剥く

皮を剥くのは個人の好みにもよるんだけど、枝によっては剥き難かったりもするから

色々試してこの木の枝に決めるのにはちょっと手間が掛かった


皮を剥いたら川の水でざっと洗ってから、折れた方の端っこを奥歯で噛んで潰す

程よく柔らかく加工したところで歯ブラシのできあがり




ぐしぐしぐしぐしぐし……




歯ブラシみたいにシャコシャコ音はしないけど

結構綺麗になるものなんだね、コレ


TVで、なんていうんだか忘れたけど、

どこかの民族の人がこうやって歯を磨いてるのを見たときは驚いたけど

考えてみれば昔は歯ブラシなんて無かったんだもん、そりゃそうだよね

うーん、TVって役に立つ


地元民も滅多に見ない幻の動物を求めて! とかいう探検ものの番組って

見ておくに越したことはないね、うん


帰ったら、秘境探検とか未だ文明の行き届かない奥地の少数民族を尋ねる、とか

そういう系の番組をもっと見よう


役に立つような事態はお金を払ってでも拒否したいけど!



……でも、どうせならもっとよく見て覚えておくんだった

だって、確かどういう木が歯磨きに向いてるかどうかとか言ってたもん


……いや、この世界の木が同じ効果かは分からないけど!





歯を磨きながら片方の手でおなかをさする

あー…だるい…だーるーいーぞー……



痛くはないんだけど、全体的に下半身が重いというか……

酷い方じゃなくて良かった、ここには痛み止めなんてないもんね……


でも、手縫いのアレはごわごわしてて、凄く不快……

頑張れあたし、あと三日……





歯磨きを終えたあたしは、

腰を暖めるために巻いた布をしっかりと巻き直して動物たちをお供に森の奥を目指した


先立つものを稼がなきゃね!


昨日はお猿さんに協力してもらって蔦を集めて、

集めた蔦でトートバッグの中に入っていた手芸教室の教科書を参考に籠を編んだから、

今日はその籠に果物なんかをたっぷり詰め込んで、

お金かもしくは物……っていうかできれば服とかと交換してもらおうという崇高な計画です!


服は服でも特に下着!


ごわごわしてる所為か、肌がひりひりする!!

まさか下着がこんな重要なものだったなんて、思いもよらなかった……

無意識に何時も通りの動きをすると、ぴりっと痛いんだもん!


綿って偉大だったんだね、別にシルクがいいだなんて言わない、綿がいい……っ



兎に角、なるべくそっと動くように気をつけながら

今までに動物たちに教えてもらった食べ物を採ったり

山菜?のようなものを採ったりして作った籠をいっぱいにした



「…だ…い…じょうぶ……かな?」



中身が空だった時は全然問題なさそうに見えたんだけど……

中身がいっぱいになった籠の姿は、なんだか今にも緩んで解けちゃいそうな……



補強しよう……!



網目の所々に細い蔦を差し込んで縛ったりして、

元々不恰好だった見た目を更にグレードダウンさせてなんとか補強をし

あたしはソレを狼さんに咥えてもらった



「じゃあ、頼める?」



口が塞がっている所為か、

狼さんはぴすぴすと鼻を鳴らして返事をしてくれた……かわいい


うぅぅ、ぷりんを思い出す……!


頬をぎゅっと抓って涙を我慢すると、狼さんはくりっと首を傾げてあたしを見た

ごめん、ヘンな人に見えるけど、ヘンじゃないんだよ、だから嫌いにならないでね!


狼さんの首には、赤い布を首輪のように巻いておいたから

害獣扱いされることは多分ないと思う……頼むよ狼さん!!


尻尾を一振りして人里へと消えていく狼さんを見送った後、

あたしは再び蔦集めをすることにした


籠があると、採った食べ物を入れておけるから便利だもんね!

でも、昨日お猿さんに集めるのを手伝ってもらった蔦は

失敗のし過ぎでもう2~3本しか残ってない……



「おさるさーん…いるー?

 また手伝ってほしいんだけどー……」



なるべく大声を出さないように呼び掛けると

がさっと木の枝が揺れて、お猿さんが来てくれた


すごく良い子!!


はー…それにしても狼さんはどのくらいで戻ってくるかな

毎日時間を掛けて少しずつ人里から遠ざかるようにしてるから

もしかしたら、行って帰ってくるのに結構時間が掛かるかも……


そうだ、移動と言えば、せっかく不恰好ながらも籠が編めるようになったんだから

これでトートバッグが入るくらいの大きな籠を作って

背負えるようにしたら移動はもっと楽になるかな

肩に掛かるところは蔦が重みで食い込んで痛そうだから布でも巻いて、うん、良さそう



あー、それからこの姿もどうにかしなきゃ……

……包帯みたいなものでぐるぐる巻きにしてみるとか!

それで怪我のせいで喋れないし耳も聞こえません、とか

そうすれば身振り手振りをしてもらって意思の疎通をとってそこから言葉を覚え……

いや、親切な人にお医者さんとか紹介されてもそれはそれで困るよね…


それに、もし変装前に見つかったら……

ど、どうしよう、どうやって言い繕おう……


えっと、えー…と……


凄く珍しい民族で秘境にしかいないんです!とか……?

いや、秘境探検幻のあの動物を探せ!じゃないんだから……


いや、その前に言い繕うもなにも、言葉が通じない……!!



「えー、どうしよう……えー…えー…と…あー…うー……」



手伝ってもらいつつ、ぶつぶつ考え事をしながら蔦と果物を集めて転ぶこと数回

お礼にお猿さんのブラッシングを済ませた後

あたしは川で水浴びをすることにした


数日前までは一日一回だったんだけど、

今は特に血の匂いをこまめに落とす為に頻繁に水浴びをする


こういう時に身体を冷やすのはよくないんだけど安全には代えられないもん

うぅぅ…つ、つめたいぃぃぃぃぃ……!




あああ、お風呂、お風呂に入りたい……



お湯…お湯……





!!





そうだ、前にTVで女優さんが川の水でお風呂を作ってた!


そうそう、あれは確か、一ヶ月を少ない金額で生活できたら賞金がもらえる番組で

その女優さんは、川の一部を石を使って囲い


その傍で火を焚いて石を焼き、焼いた石を囲った水の中に入れて沸かしてた!!



「いい!、これはいい!!」



TV万歳!

なんて素晴らしいのTV!!



「……あ、」



でも、だめだ……

あと、紙マッチは二本しかないんだもん……



「…ふぁいやー……ぅぅ」



がっくりと肩を落とし、水底に手をつく

水の中では、魚達がまるで食べてと言わんばかりに手の傍を泳いでいる



「いや、あの、ごめん、気持ちは嬉しいんだけど……」



生きた魚をさばくことだってできるけど、流石にそれは申し訳ないというか……

気持ちが伝わったのか、魚たちは鱗を煌かせながらどこかへ泳いでいってしまった


荷物の傍にいたお猿さんはいつの間にかいなくなり

代わりに、鼻をひくひくとさせた兎……


いや!、いやいやいや、君のことも食べないよ!!

確かに遊牧民の生活を追う!とかいう番組を見てるから、

動物のさばき方も知識としては知ってるけどね!


いやいやいや、鳥さんも寄ってこないで!

確かに君は丸々としているけれども!!



「き、気持ちだけ受け取っておくね」



彼らはその一言で立ち去ってくれた

やっぱり生贄志願だったの?!



「うぅぅ、何この理性と本能を揺さぶる試練の連続……!」



確かに動物性たんぱく質の摂取量は少ないけど!!

でも魚以外に加工済みでない未来系お肉の子をどうこうしようという程

あたしも理性を失えていないというか……!


確かにお肉好きだよ?美味しいよ?

でもね、でもだよ、無理でしょう…むり……むりむりむり


大体、最低限必要な塩だってないんだもん

お肉だけ焼いても美味しくもなんともないよ?

この前の魚だって、塩がないから味は……まてまてまてまて!


違う、問題はそこじゃないから!

現実逃避のあまり塩って!!


確かに今の食生活、塩分は物凄く足りてないけど!




などと青春の光と影に苦悩していると

狼さんが戻ってきた!



「わ、お帰りっ」


「くゎう!」



くんくんと鼻を鳴らすように擦り寄ってくる狼さんの首のあたりをわしわしと撫でてあげると

それはもう嬉しそうに、尻尾を千切れそうなくらいにぶんぶんと振って……


いや、ほんとに千切れそうだよ?


おち、落ち着こう!!

よしよし、どうどう!



ひとしきり撫でてあげて落ち着いたところで背中に括り付けられた荷物に手を伸ばす

あっと、濡れちゃう濡れちゃう

下着を作った残りの布切れをタオル代わりに濡れた身体を拭いて再び手を伸ばした

折角だから狼さんが物々交換してきてくれたものを着よう、どうやら服みたいだし!


狼さんの背中には上着のようなものが袖の部分で結びつけるように布が縛ってあった

真ん中が膨らんでるのは、きっとその中にも衣類があるからだよね


…で、わくわくと荷解きしたその服……は、



「わ、わぁ、綺麗な若草色、ありがとう」



あたしは狼さんをがっかりさせないよう笑顔でお礼を言った


色は、凄く綺麗

大きさ…は……


なんていうのかな、Tシャツ?……みたいなんだけど

あたしには大きすぎて、半袖っぽいのに、これ、あたしが着たら、手が隠れるよね?

首周りも、丸首なんだけど、穴よりも肩幅が小さくて、引っ掛からない……


ど…どうやって着たら……


首周りを縫って小さくする?

それとも切り込みでも入れて、そこに紐を通す?

いや、切り込みなんか入れたらそこから脆くなっちゃうかも……


数秒考えた結果

トートバックの中から若草色のシャツにあててもあまり違和感の無い白い紐状の布を取り出し

その紐でシャツの首周りの一部を絞り染めのように絞って結び、

紐の反対側もそうやって結び肩紐を二つ取り付けた



「ほらワンピースみたいでしょう、ありがとう、助かったよ!」


「くぅん!」



ワンピース状になったシャツを着て狼さんの前でぱっと手を広げて見せてあげると

得意げに一鳴きし、もう一度撫でてあげると大役を果たしたかのように勇ましく帰っていった



「……で、他の服は……ぁー、うん、やっぱりね」



衣類を広げてみると、下着やスカートのようなものも出てきた

……大きいけど



「ぱんつ…大きいなぁ……」



ブラは、ビキニみたいな、紐で結ぶタイプ……

カップが大きいね…片方のカップで帽子サイズ……いや、もうちょっと大きい?


布の手触りとしては、ちょっと粗いけど、あたしが手縫いで造ったのよりは良さそう……

でもこれ、どうしたら……


せめてぱんつだけでも……なんて思ったけど



「片方の穴に、足が両方入りそう……」



どうしよう……

これ、無理にはいても……

やっぱりこれも紐で結ぶタイプなんだけど

腰で結んだら、布が下で空間を空けてたわむよね?

腰の部分を何回か折り込むようにして結ぶ?

…折っても余った横幅はどうしたら……



ワンピースの下がすっぽんぽんという情けない格好で考えること暫し

後半戦に入ったとはいえ生理中だと思い出し、

あたしは取り合えず自分で造った下着をつけることにした



「この下着は後で分解して小さく作り直そう」



生地的にはなんとかなりそうだし

この大きさを分解して作り直したら、きっと上下2~3組は硬いよね!……失敗しなければ



バッグの中から手縫いの下着を取り出し、

川縁の石の上に洗って絞っておいた下着を手に取ろうとすると

がさっと傍の低い木の茂みから大きな黒いものが飛び出して、あたしはびくっと後ずさった



「ひゃう?!……ぁ、び、びっくりした!」



それは今まで現れた中で一番大きな狼さんだった



「きみは初めて見る狼さんね、はじめまして

 怖がってごめんね、大きいからびっくりしちゃった」



随分理知的な顔をしてるなぁ……

なんか野生動物っていう印象とは程遠いような……

狼さんはじっとあたしの顔を見てたんだけど、やがてこっちに歩み寄ってきてくれた


そぉっと手を伸ばしてみるけど、嫌がるような素振りもないから、そっと毛皮を撫でてみた

お座りしている大きな身体に、ふかふかの感触を楽しむように首へ抱きつくと

美容院帰りのぷりんみたいに触り心地が気持ち良い



「あたし都子よ、きみはよく来る狼さんたちとは毛皮の色が違うね、

 真っ黒な毛皮がつやつやしてて綺麗、凛々しくてかっこいいね」


「わたしはユンファイエンスです都子さん

 貴女も小さくて柔らかくて可愛らしくてとても好い匂いですね、

 こんなに軟らかいなんて、降りたばかりの子供でもそうそうありえない触り心地です」



……え?



突然、聞いたことも無い声と共に

そ、と背中に何かが巻きつくような感触が……


耳あたりのいい声に、ぎく、となってそろそろと目線を徐々に、恐る恐る上げていく

まず、目に入ったのは衣服だった、ふかふかの毛皮は、どこにも、……ない

次に目に入ったのは首で、詰襟のような襟から覗くのは、浅黒い肌だった、


更にその上、




顔…は……




「ぎ、」


「ぎ?」


「ぎゃぁあああ!! 美形ぃぃいいいいい!!!」

まだぱんつ穿いてません……

彼女が絶叫したのは主人公フラグが立ったからです、

嫌な予感ばりばりですけど、まぁ大丈夫


ようやく彼と出逢いました、がんばらねば!!

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