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02

次かその次辺りで裏篇の彼と合流させたいです

木々の合間、遠目に人里が見える



トートバッグは二つとも足元に倒れ、中身をばらまいていた

あたしの手から、双眼鏡が滑り落ちる



シャボン玉が地面について、ぱちんと弾けて消えてなくなっても

あたしは、人里には近寄ろうとしなかった


ぐらり、と よろけるように足元に座り込み


そっと自分の瞼を覆う



最初、まだ空をゆっくりと下っている時

遠目に見えた人里があった


取り敢えずそこを目指すため、目印になるようなものがないかと、

あたしはトートバッグの中にあった双眼鏡を思い出し

取り出して、注意深く覗き込んだ


でも、


でも、その人里にいたのは






人じゃなかった




アニメや漫画に出てくる、猫耳だとか、獣人だとか、そんなんじゃなくて

片方の手だけ人間だとか顔のあちこちに毛皮があったりなかったり



あたしなんかが紛れ込んでも、すぐに異物だって感づかれてしまう



皆を見つけ出す前に捕まったりしたらどうしよう

見世物小屋とか、もしかしたら食べられちゃったり




「…も…泣きそう……ッ!」




ぱぁん!




「……痛っ」



泣き言が出た瞬間、あたしは自分で自分の両頬を挟むようにして平手で打った

頬はじんじんと痛みを訴えてくる、でもそんなこと関係ない

泣き言は駄目、泣いちゃ駄目

泣いたら気持ちが欝になって、何もしたくなくなっちゃう


泣いて泣いて泣いて、あたしってなんて可哀想なの、なんて不幸なの

どうしてあたしがこんな眼に遭わなきゃいけないの

ふざけないで、早く元の場所に帰して、あたしの家族を返して


そんなことばっかり考えるようになったら、もう駄目だ


頼りになるのは自分だけなのに、

肝心の自分が役立たずになったら、一体誰があたしを、家族を助けてくれるの



そうだ、家族だって心配なんだから



もうどこかで捕まってるかも知れない



早く探さなきゃ



一体どこに落ちたのかは分からないけど

あたしはこうして安全に地上に降りることができた

皆が墜落して…なんて最初の最悪な想像は否定できる

宇宙からはっきり見た、海なんてない、一つしかない大陸に落ちたんだから

歩いていけば、いつかきっと探し出せる

何せ、家ごと落ちてきた変わった人間だもん、

例えあたしみたいに家族の誰かが途中で逸れちゃったんだとしても、

空から落ちてくるなんて珍しさなんだから、きっと噂話があちこちで広がってる



「だいじょうぶ…だいじょうぶ…だいじょうぶ……よし!」



いくぞ都子、あんたの肩に掛かってんだから、めそめそしないっ

あたしは乱暴に眼をこすると、足元に散らかったものをバッグに詰めはじめた





ざかざかざかざかっ





「……ん?」



え?、な、なに??


草をがさがさ鳴らしながら近寄ってくる音にあたしはびくっとなって立ち上がり

きょろきょろと辺りを見回した




その瞬間、




ざんっ!




「っひょおう?!」


「くゎおっ!」



なんだかこげ茶色のものが飛び掛ってきて

すてーんっと転がったあたしの顔をべろんべろんべろんべろん……

よ、よだれー!!

っぐはっ、ちょ、ま、待ってぇぇぇえええ!!!



「ぷはっ、ちょ、」



なんとか必死にもがきつつもソレを引き剥がすと


……え、



「…く、くまさん……でございますか?」



思わず敬語になるあたし、手にはふっかふかの感触

つぶらなお目々の



「仔熊……ちゃん?」



いや、可愛いよ、可愛いんだよ?、うん


でもね……


でも、



そうだよね、誰だってそう思うよね?

仔熊がいるってことはさぁ……


親…が……ね?



ガサァ!!!



「ぎゃぁぁぁあああああああ!!!」



ほら出たァァァアアアアアアア!!



「ごごごごめんなさい!

 誘拐じゃないからっ誤解だからっ

 ある日森の中でくまさんに出遭っちゃっただけだからァァア!!」



ふんふんふんふんふん……



「…ぁ…えー……と?」



無実をアピールする為に両手を挙げて無抵抗を主張するあたしの周りを親熊はぐるりと回りながら、ふんふんとあたしの匂いを嗅いでくる

…いや、熊相手にホールドアップが無意味だっていうのは後々気付いたけど!

でもほら、死んだフリは逆効果だし、背中を晒して逃げると追ってくるっていうじゃない!!

なんだっけ?、眼を合わせたまま、ゆっくり静かに後ろに下がって距離をとるんだっけ??

そんなのこの緊急時にできるわけないでしょ!!



「ぐゎう」



最後に、ふん、と一息噴いて親熊はあたしの傍に腰を下ろした

仔熊はいまだちょろちょろと周りを走り回っている



「え、えーと……」



とても、すごく、ものすごーく、無害に見える

いやでも熊だし!


ここは相手を刺激しないよう、さっさと荷物を纏めて、穏便に立ち去ろう!


熊の様子を伺いながら刺激しないようにそろそろと再び屈み込み再び荷物を纏め始める……と、


もふっ



「え、ちょ?」


「ぐるぅ」



周囲を影が覆ったかと思うと

次の瞬間には、あたしは獣臭とふかふかとした感触に包まれていた


そのまま動かないので、どうも襲われたのとも違うようで

戸惑うように声を出そうとしたその時、



『あれ、いないぞ?』


『ええ? 匂いは??』


『バカ言うな、俺は兎の種だぞ、犬や狼の種じゃないんだからそこまで分からない』



声が聞こえる、誰かが来たんだ

さっきの人里の人だろうか……


あたしに覆いかぶさる熊が動く気配がないのは

あたしを彼らから隠しているから?


でも、それよりも重要なことがある



言葉が……




分からない




『おぉい、お前知らないか?

 さっき落ちてきた新しい子供』


「ぐぁおう」


『お前、熊の言葉分かんの?』


『いや、全然』


『アホ、しかし困ったな

 ミファルカ婆さん、今度はうちの子に迎えるって楽しみにしてたのに』


『前の子はササラキさん家の子になったしな』



何だろう…何の話をしてるんだろう……

あたしを捕まえる相談?



『お前、まだ落ちる前の様子見たんだろ?

 何の種だった??』


『俺は鳥の種じゃないんだからそこまで目はよくない

 何の種かは分からなかったが、何時もより少し大きな子だった気がする』


『大きい? 虎の種か??

 男か女どっちだ?』


『さっぱりだ』


『なんだ』


『兎に角、地上に降りたばかりの子供は上手く動けないんだから、

 自力で遠くに行ったとは考え難い』


『そうだな、この辺りは都市部と違って自然がほぼ生活の場に食い込んでるから、

 野生動物も俺らに慣れてる分、襲ってくることもないだろうが……』


『育児期の動物に拾われた可能性もある

 母性本能がかなり高くなってるから、自分の仔と一緒に育てられると後々大変だぞ』


『ああ、仕方ない、村の衆を集めて山狩りをしよう

 根気よく訴えれば子供を返してくれるだろう』


『よし、じゃあ一旦戻ろう』



何の相談だか分からないけど、話は終わったらしく

声の主が遠ざかっていく音がして暫くの後、

やっとあたしに覆いかぶさっていた熊は身体を起こした



「あ、えっと、ありがと……う?」


「ぐぉう」



声の感じからして、悪いような印象でもなかったけど

現状が分からないことには、姿を現すのもいまいち気が引けるし

それに、言葉が分からないという大問題があることも分かった


聞き込みをするにも言葉が分からないとどうにもならないんだから、

いずれは言葉を学ぶ為に彼らに接触する必要があるのは分かるけど

あたしは彼らと明らかに人種が違うんだもん、

まずはこの見た目を何とか装って怪しまれないようにしないと……


見た目がどうにかなったら、喉に包帯のようなものでも巻いて喋れないのをアピールして近づくのもいいかもしれない……

耳も聞こえないフリをすれば、言葉じゃなくてジェスチャーを使ってくれるかも

そしたら言葉を覚えやすいし


どっちにしても、今はまだ接触するべきじゃないんじゃないかな……




「兎に角、ここを離れなきゃ……」




また探しに来るかも知れないし……






もう少しここの情報を得るまでは……まだ

出会ったというか出遭った、遭遇ですね、うわぁ危ない!

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