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01

テンションは結構違います

「あ、用紙切れてる…買ってこなきゃ」


「きゅうん?」


「あ、ごめんねぷりん、起こしちゃった?」


「きゃうっ」


「ごめんね、でも丁度いいからお膝からどいてね

 卒論を仮印刷しようと思ったんだけど、用紙が七枚しかないから買ってこなきゃ」


「くぅ」


「!!、も~かわゆい!!

 小首を傾げる姿が最高!、あたしよりも長く生きてる凄い長生きさんなのに

 どうしてそんなにラブリーなの!!」


「きゅーんっ」


「あーかわいいかわいいかわいい……は!」



……いけないいけない、用紙を買いに行かなきゃ

ぷりんは賢いコだからおりこうに留守番できるだろうけど

見た目凄く若く見えても、もう22歳だもん、凄く元気そうに見える長寿犬だけど心配だよ


お母さんたち、まだ帰ってこないのかな~

ついでにスーパーに寄ってくるって言ってたけど……



「あ、凄いタイミング

 じゃ、ぷりん、ちょっとコンビニまで行って来るね」


「わんっ」



ダックスフント特有の短い足でぴょんぴょんあたしの足に纏わりついてくるのを

慣れた動作で踏んでしまわないように避けつつも、リビングから私室に移ると

あたしはケータイとお財布を持ってパーカーを羽織り、車のエンジン音が聞こえる玄関の外に出た

きっといつも通り大量に買い物してきているだろうから、ドアは開けたままの状態で



「お母さんおばあちゃん、お帰り~

 お父さんは車?」


「ただいま都子ちゃん」


「ただいまミヤ、そうよ、出掛けるの?」


「うん、ちょっと印刷用紙買いに行って来る

 何か買ってくるものある?」


「じゃあ、新しいお菓子この前コマーシャルしてたでしょ?

 あれあったら買ってきてよ」


「スーパーには無かったの?」


「もう無かったの

 そうだ、出掛ける前に車から荷物出して中まで運んでくれる?

 お母さんたちはほら、買い物した袋で手が塞がってるから」


「え、だって手芸教室の荷物でしょ?

 そんなにあるの?」


「それがおばあちゃんと京子さんの二人分でしょう?

 教室に行くと教室仲間の人たちとついつい物の貸し借りやら持ち寄ったお菓子やらで」


「袋がぱんぱんってことね」


「そうなの、その上来週から教室の改装だっていうから、全部荷物持ち帰ってきたから」


「じゃあ、お父さんはその荷物を一度に運ぼうと車に留まってるわけだ

 もー、一度に運ぼうとするから…あたしもやるだろうけど

 じゃ、玄関に置いただけでいい?」


「いいわよ、お願いね」


「うん」



取り敢えず、手の平に喰い込んでいるエコバッグをおばあちゃんから取り上げて玄関の上がり口に置いてあげると、二人はさっそく玄関で買ったものを広げはじめた

もーせっかちなんだから

玄関にはやっぱりというかぷりんが来ていて、こっちを見ながら尻尾をぶんぶん振ってる


家の横にある車庫に向かうと

車の横からお父さんのお尻が生えている



「お父さん、お帰り」


「おー、ただいま都子

 ちょっと手伝ってくれないか」


「今、まさにその為に参上したところだよ

 だめだめいっぺんに運ぼうとしても、落としちゃうってば」


「ははは、ついな、つい」


「じゃ、あたしはこっちの袋持つから」


「父さんはこっちだな」


「うん、あー、ほんとだ、手芸教室なのに、バードウォッチングの双眼鏡とか

 お菓子ばっかり!!」


「そういうなよ、あれでも社交場なんだぞ」



ぱんぱんに詰め込まれた大きなトートバッグを玄関に向かいながら覗き込むと

中にはお菓子やら本やら、あ、これロマンス小説、え、竹ヒゴ? 籠でも編んだの??

フィットネスバンド? これこの前CMしてた、装着するだけで骨盤矯正、痩せるっていう……

ほんとに何してんの手芸教室なのに



「ねぇ、お父さんそっちは?

 そっちは何が入ってるの??」


「こらこら、玄関はすぐ目の前だぞ」



重たいトートバッグをなんとか片手に纏めて、

ドアを支えてあたしが中に入るのを待つお父さんのトートバッグを覗き込んだ時だった



どぉんっ!



「えっ」



大きな衝撃が走り、お父さんはよろめいて掴まっていたドアに両手でしがみ付き

あたしの身体は後ろに浮き上がるように傾いて

ドアの向こうには、衝撃に驚いておばあちゃんの身体を抱え込むようにして玄関の柱にしがみ付くお母さん


あ、バッグが


お父さんの手から離れたバッグが、あたしの横を通過していく

後々考えると、こういう時の思考ってどうなってるのか


あたしは、バッグに手を掛けた



「都子っ」


「都子ちゃんっ」


「みやぁッ!!」



え、なにこれ




家は、傾いていた



庭ごと、敷地ごと



門の外の道路もちょっと一緒に抉られて



何で身体が傾いて、浮き上がるような感覚なのか分かった




宇宙だ




ここは、宇宙





瞬きもできずに見ているしかない家の背景はいつの間にか暗くて、

星が……


写真集で見る絶景の天の川なんて目じゃないくらいに





むせかえるような、ほしの、うみが……





両手が塞がっていて、身体が不安定な状態じゃ、

どこかに掴まることも出来ないあたしの足は


地面から離れ


浮き上がり


星の、海へ




「母さまっ!」




え?




それは、聞いたことのない声だった


声の主は、


声の主は、匂い立つような妖艶の美女で

頭の横からは、耳が



ぷりんのような、犬の、耳が下がっていて




彼女は、浮遊感に安定しないこの状態でも、


泣きそうになりながら


泣きながら


必死に、あたしの方へと向かってくる





でも、あたしは


あたしたちは



どんどん


どんどん、遠ざかり





あたしは、独り、星の海へ





やがて頭上に、地球が……




ちきゅう?



地球かどうか、分からない……



だって、世界地図で見たのと、違う



それは、一枚の大陸だった



丸くなく、ただ、一枚の




宇宙に浮かぶ、大陸





あたしはいつの間にかシャボン玉のような膜に包まれ

辛うじて遠眼に見えるあたしの家もシャボン玉のようなものに包まれていた



落ちていく





おちて…いく……





あたしと、あたしの家族は、別々の場所へ







ああ…さがさなきゃ……







あたしの家族……







あたしの大事な……

母は京子、娘は都子<笑 父親と祖母の名前はないですが、犬の名前はあります

ぷりんはプリンセスのぷりんであって甘くとろけるプリンではありません

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