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08




『あぁ、起きたんだね"これえらぶ"』


「え?」


「見本の束から都子さんの好きなものを選んでほしいそうです」


「みほん?」



いつのまにか野外でユンの膝上に抱えられて眠っていたらしきあたしは、正面からずっしりと重そうで巨大な百科事典みたいに綴じられた布の束をお義母さんから差し出された


代わりにユンが受け取ってくれてぱらりぱらりと捲ってくれたそこには、花や動物、蔦草、果樹、サンプルのように色々な刺繍が施されている


言われるままにモチーフを選ぶと、お義母さんが、その大きな手にはだいぶ小さい縫い針をちくちくと器用に操ってあっというまに一つ二つと花の刺繍を刺しながらあたしに見せてくれる



「……すごい、きれい、絵画みたい」


『そんな大層なモンじゃないよ』


『何時もより針が早いですね、照れているんですかミュー、嫉妬してしまいそうです』



ばっしぃ!



『え?! けんかっ? どちたでしゅか?』


「夫婦の会話ですから気にしなくても平気ですよ」


「え、う、うん(でも凄い音が……)」


「喉は渇いていませんか?」


「あ、ありがとう」



いつもの程よく冷やされた果実水を渡されて、お義母さんの手元を見つつも、ちまちまと飲みながら考える


……なんであたし寝ちゃってたんだろう?


いつものようにユンに抱きかかえられているあたしの膝の上には生まれたばかりの子供達が寝ていて

あたしの狭い膝の上に収まりきるためにか、みんな子狼の姿で、それでもはみ出しそうになるのを小さく小さく身体を丸めて収まっている


おなか空かないのかな、赤ちゃんって二~三時間置きくらいにちょっとずつ何回にも分けてミルクを飲むからお隣のお嫁さん大変よねってお母さんとおばあちゃんが言ってたのに……とか思いながら子供達をなでなでしていたら突然いっせいにきゅんきゅん鳴きだしてびっくりした


わ、は、初授乳っ、ど、どうしたらどうしよういきなり吸い付かせていいのっ? しゃ、煮沸消毒とかすべき?! それってあたし大丈夫?! とかおろおろしているとユンがあたしの服の胸元をちょっと寄せて濡れタオルで胸を拭いてからそこに子供を頭から突っ込んだ



「え」



そ、そんなところに切れ込みが?


びっくりしているうちに吸い付いていた子は引き離されて代わりに哺乳瓶を咥えさせられ、すかさず次の子が母乳の方に吸い付かされる……なんか既視感が


……そ、それよりも、こんな服持ってたっけ??


いやすごい便利と言えば便利なんだけど……

こっちのお母さんは出産しないから多分 母乳も出ないんだよね?

ねぇ何でこんな仕組みの服思いつけたの? 元々は何用の服だったのこれ??


あ、そ、そうだ、げっぷ、げっぷさせなきゃ、フードコートで若いお父さんがやってたの見たことあるっ


哺乳瓶の方を吸い終わった子を抱き上げて背中を恐る恐るとんとんしてみると、けぷっと空気を吐き出して、ミルクも一緒に吐き出した

えっと、拭くもの、拭くもの、あ、ありがとう


ユンにタオルを渡されて口元を強くこすらないように気をつけながら押し当てるようにミルクを拭き取る


それからはもう怒涛のようで、ミルクをあげて、なんで人型の時には穿いてるのに狼姿の時は毛皮だけなのかな とか思いながらオムツを替えてあげて、あっという間に時間が過ぎて



「がんばった、つかれた、すこし、やすむ」


「あ、"おかぁたん、ありぁとごじゃま!"」



お義母さんが、タイミングを見計らったようにお茶とお菓子と、そしてあたしの肩にふわりと綺麗な柄の刺繍が施された赤いストールを掛けてくれた

赤から、端に行くにしたがって白く色味を増していく美しくも落ち着いた雰囲気の刺繍、綺麗で、とても滑らかな手触りの



「それ、ミヤコの」


「え」


「母が、都子さんの為に差したんですよ」


「……いただいても、いいの?」



お義母さんは、にっこり笑って、そっとあたしの頭を撫でてくれた



「ユンと、わたしたちのかぞく、かんげいする、なかよく、する」


『ぁ、あいっ、こちらこしょっ、おねがいよろちくれしゅ!』



そうだ! そうだった!! 思い出したっ


あたしでもいいですか? まともに挨拶もできなくて、礼儀知らずで、こっちのことほとんど知らないし、ちっとも言葉が上手くならなくて……

こんなあたしでもユンのお嫁さんで、この子達のお母さんでいいですか?



「肩の力を抜きなさい、何事も程々が一番ですよ」



お義父さんがそう言って、お茶菓子の山の中からクッキーを一枚摘み上げてあたしの手の平に置いてくれた

それだけで、すごく、すごくほっとしてしまって



「今日の都子さんは泣き虫ですねぇ」



そう言ってユンが、お義父さんがくれたクッキーをさくりと一口大に砕いてあたしに食べさせてくれた

涙のせいか甘いのになんだかしょっぱいけど、お義母さんのクッキーは凄くおいしかった

この子達と、お父さんとお母さんとおばあちゃんにも食べさせてあげたいくらい


安心したせいか、一頻り泣いてしまって、落ち着いたところでユンが子供達の名前を決めてくれた


子供達の名前は、翡翠と柘榴と琥珀に玻璃と黒曜


天然石の手作りアクセサリーのページに魔よけとか御守りみたいなことが書いてあって、それを読んでて考え付いたんだって

この子達が、五人揃って、ずっと、健康で元気でいられるようにって、ユンが意味を込めてくれた



その後、お義母さんたちは一月ほど我が家に滞在してくれることになり

その間、自分の分の食事をとる時間や睡眠不足にならないように あたしを休ませてくれている間に子供達の世話をしてくれたり、炊事や洗濯を代わってくれたりしていた


このお礼はいつか……でも早めにできるといいなぁ



「はぁ、早く一ヶ月経たないでしょうか」


「うん」



ユンがぽつりと呟いた言葉にしみじみと頷く、そうだよね、お世話になりっぱなしだもんね、今このお世話になりきってる状態でお礼もへったくれもないもん

とりあえず自分達だけで生活を成り立たせられるようになったら、すぐにもお礼がしたいなぁ


ユンも同じ気持ちだったみたいで、笑顔の迫力が増して、しっぽが高速ふりふり状態になり、そこへ子供達がよたよた集まってきゅんきゅんじゃれ付いていた……幸福の象徴のようなその光景に、幸せすぎて可愛いすぎて鼻血でそう!

ムービー撮れる魔法をお願いしておいてホント良かった!!


――そんなわけで一ヵ月後、あたしは再び妊婦してた



NA・N・DE?!

次回更新は水曜の同じ時間です


※子供達の名前は色に意味があります、五行ってヤツですね

 誰一人欠けることなく五人揃って、という感じで

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