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07

こ、このドアの向こうにお義父さんとお義母さんが……


ちゃ、ちゃ、ちゃんとこっちの言葉で挨拶が言えるかな


か、噛んだらどうしよう、練習の成果が出なかったらどうしよう!


あ、お茶の用意もしてない!!


あ、でもお茶の用意をするのに待たせちゃったら駄目だよね


え、待たせるって既にもう十分待たせてるよねこれ


は! 挨拶の言葉どうしよう


ま、まずはこんにちは、まずはこんにちはをしてえーと


は、は、はじめまして都子です、ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません


ほ、他には? 他には?


あ、一応歳を言った方がいいのかな、たとえば学歴とか参加した地域活動とか? いやこっちの学校に通ったことなんてないんだけど


え、どうしよう、他になんかある? 趣味と特技とか?


あ、緊張のせいか、なんだかさっきよりも強いお腹の痛みが波のようにいったりきたり


う、うぅぅ、こ、こうしているうちにもどんどん時間が……!


ま、まずはこんにちはまずはこんにちはまずはこんにちは



……かちゃ



『こ、こにちゃ』



恐る恐るドアをそっと開けて挨拶をしたら



――空気が、凍った



あ、あれ、挨拶間違ってた?

何でみんな黙るの?

そんなにダメだった?

寧ろ何を言ったの?

も、もしかして放送禁止用語?!


あ、ごめんなさい

え、もうしわけありません


どうしよどうしよ、あ、あれ、お義母さんは?


ユンと、お義兄さんと、リスみたいなしっぽのついたお義父さんらしき男の人と……お義母さん……お義母さん……あれ?


視線を上にあげてみる……と

もっふもふの体高 四メートルくらいのお洋服を着たおっきなリスさんが



「……かわいい」



どうしよ、眼がくりくりなんですけどけしからたまらん

体当たりしたい、お腹の毛皮に埋もれたい!

あの頬袋がぱんぱんにいっぱいになるくらいにご飯を貢ぎたい!!


……あれ?


そういえばユンも初対面の時まんま狼だったよね、ということはもしかして



『おかぁたん?』


「そうですよ、母のミュリアルと父のセレスセラスです、わたしたちと同じ姉さん女房なんですよ」


「えぇぇあんなにかわいいのに姉さん女房なの?!」



だってあんなに眼がくりくりなんだよ?!

年下の若妻じゃないの?!


ちょっとだけ開けただけのドアをユンが完全に開けてお義父さんとお義母さんを紹介してくれるけれど、かわいくてさわりたくてそれどころじゃなかった

だって大きなしっぽがくりんくりん揺れてるんだよ?!


すごくだきつきたい!


なにあれ! なにあれ!!


燃える! じゃなくて萌える!!


あ、いや、おちつけばおちつくときおちつかなければならぬ!


今はご挨拶が大事、今はご挨拶が大事


えっと、名前を言う時はえーとえーと、結婚したから最初に教わったのと違うんだよね、だいじょうぶ、だいじょうぶ、練習したもん



『えと、キサラギ=ゆんぁいんす・うりゅ・ふりゃう・ミヤコれしゅ! そぇかりゃ、えと、えと……』



あれ……



『としは、じゅうがふたちゅと、いちが、ひとちゅ……』



あれ……



『そぇかりゃ……そぇかりゃ……』



……おなかいたい



「ぁ……」



いま……びしゃって……え……もしかしてこれ……うわさにきくはすいとか?

ってことはえっと……



「都子さん? どうし……」


「……うまれそう?」


『『『?!』』』


『うっうまっ?! ユ、ユユユ、ユンあんた巣穴巣穴巣穴っ』


『今すぐ掘り……いえもう掘ってあります!』


『枯れ草は敷いたのかい?!』


『く、草?!』


『む、蒸し焼きをした後の剥いだ毛皮ならあるぞ』


『あんなもの焼けてしまっているじゃありませんか!』


『お前達バカですか落ち着きなさい、ベッドがあれば充分です、後は煮沸済みのお湯と清潔な布を大量に用意するんですよ、ミューも落ち着いて下さい、家畜の出産とは違うんですから、ちゃんとユンが調べていますよ』


『あ、そ、そうだったね、人間のお産だものね、ひ、ひい、人間のお産!! もしものことがあったらどうしたらいいんだいあたしゃ!』


『ああ、わたしの心優しい愛しいミュリアル、大丈夫です、失敗しても貴女はどうにもなりませんから安心して下さい』


『不吉なことを言わないで下さい!!』


(なんか がいやがうるさいようなきがするけど、ぜんぜんなにいってるのかわかんない)



――そんなこんなで



「ぴゃあっ」


「きゅうっ」


「くぁうっ」


「きゅあっ」


「ぴゃうっ」


「……想像以上に安産……っていうか小さっ! 文字通り仔犬サイズなんですけど?!」



――手の平サイズってそりゃ安産にもなるよねっ!


いつの間にか家の中の寝室で気がついたらあたしは子供達を傍にベッドに横になっていた……いやいつの間に?!


いつ産んだの?! え、身体とか全然痛くないというか若干の倦怠感しか感じないというか、え、魔法? 魔法で治してもらったの??


生まれたばかりの子供達を一人一人魔法で綺麗にしてはあたしの隣に寝かせてくれるユンを呆然と見上げつつ記憶を振り返るもまったくわからない……!


っていうか五人、いやみんな狼の姿だから五匹? あれ寝返りをうったら人間の姿になったからやっぱり五人? いやいやいやもう寝返りをうてるとかお隣のお子さんは生まれてすぐに寝返りとかうたなかったって話だけど……あ、全員男の子だ……いやいやいやいやなんで姿が変わったら身体の大きさが人間の赤ちゃんサイズになるの?! でもなく問題はそこじゃなくてなんで姿が変わるのかっていうっていうか五人も?! 犬……じゃなくて狼が多産系だから?!



「ありがとうございます都子さん、大丈夫ですか、身体は辛くありませんか」


「あ、う、うん、だいじょぶ、ユンが魔法で治してくれたから、聞いた話しだとほんとは産後一ヶ月は安静にしてなきゃいけないみたいだけど、これなら普通の生活がおくれそう」


「一ヶ月ですか……治癒はしましたが、ゆっくりと労わらないといけませんね」



心配そうにあたしのほほをなでてくれるユンを見てると、孫が生まれたばかりの頃のお隣のおばさんもいつもお嫁さんの心配をしてたのを思い出す


無理して家事をしようとしたのか「あなたは赤ちゃんの傍にいるのが仕事よ!」ってお嫁さんがおばさんに怒られる声がお隣からしてたっけなぁ……


あの温和なお隣のおばさんがあんなに怒るほど安静にしてなきゃいけない筈なのに、ユンの魔法の効果ってばものすごい……!


っていうかあれ?



「お義母さんとお義父さんとお義兄さんは?」


「外にいますよ、都子さんは彼らのことは気にせずに身体を休めて下さい」



え、なんで外……あ、そっかお義母さんは家の中に入るのはちょっと厳しいもんね、ということはお義父さんとお義兄さんもそれに付き合って三人揃って外……

うわぁぁああぁぁあぁあああお舅さんとお姑さんとお義兄さんをよりにもよって初対面で野外に放置とかどんだけぇぇえええええっ


"親戚付き合い"という言葉がガラガラと崩壊していくんですけど!


円満とか円滑とかすっごく大事なのにどうしよこれうわぁぁぁぁあああ!



自分のような無礼な妻をもらった夫の立場だとか、そんな無礼者を母親に持った子供の立場だとか、親の顔が見てみたいわ、とか言われちゃうかもしれない両親の立場だとか色んなものが頭の中をぐるぐると無限ループしてしまうけど思考の沼から抜け出せそうにない



「都子さん? 顔が真っ青です! どうしたんですかっ体調が思わしくありませんかっ?!」


「あの、ごめ、ゆ、ゆん~!!」



あたしのせいでゆんがわるくいわれたらどうしよう

こどもたちがおじいちゃんとおばあちゃんからあいされなかったらどうしよう

あたしなんかでごめんごめんなさいごめんなさいぃぃいいいっ


まるでこの世の終わりみたいに、ひんひん泣いて泣いて泣きすぎていつのまにか気絶するように眠っちゃってたらしく、目が覚めたら、なんか丸く治まってた



……え?

次回更新は日曜の同じ時間です

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