01
大変長らくお待たせ致しました、続きです!
ごりっ
がり、ごり、ごりりっ
(……ぁー……)
つつー、と音の発生源から眼を逸らし、いかにも眠いなー的な仕草をとりつつ毛布に顔を埋める……
……こ、こわいんですけど……!
本人は砂浜で定番の砂山を作ってトンネルを掘って開通させようぜーみたいな気軽さと手軽さでごりっごりっとものすごい音をさせながら岩盤を素手で抉ってるけど、すっごい怖いんですけど!!
あたしが眠気で思考が鈍ってるせいで想像力が著しく低下してるせいか、ユンが何のために穴を掘ってるのか全然分からない……
もしかしたら穴を掘ること自体に意味なんかなくて犬……じゃなくて狼だから穴を掘るのが使命というか大好きというか、そういうアレでソレな理由かもしれない
因みにここがどこかというと、森の奥の洞窟の前……とかじゃなく、森の奥に洞窟を現在進行形で製造中……
洞窟って言っても……うーん……ど、どう言えば……
えぇっと……あ、ドーナツ?
うん、角ばったドーナツ型の空間があって、ドーナツの真ん中の穴の部分と、その外側が野外……だと思う、うん
だって、断崖絶壁を抉りはじめて中に入ってから一回も外に出てないんだもん抉ってる方向からして多分こうかなー……っていう
まぁ穴の中はユンの魔法の灯りのお陰で明るいし、目の前の破壊活動も ずぅーっと何もしないのも、どっちも全っ然まったく苦じゃないくらいソフトに和らげてくれる強烈な眠気フィルターと、そんな眠気を太っ腹……じゃなくて広い心……いや懐?でがっちりと受け止めてくれる愛用のふわっふわのふかふか毛皮の上に座って毛布にくるまりながら巨大クッションにもたれかかってるから、寒さとかぜんぜん感じないし快適なんだけど
……な・ん・だ・け・ど
眠気のお陰でやんわりファジーフィルターが掛かって助かるなー、とか思うけど、そもそもこれユンのせいだよね?
この猛烈な眠気も、眠気が無いととてもじゃないけど長時間(だいたい五秒以上)直視してられない破壊活動も、どっちもこれユンのせいだよね?
相変わらず全っ然記憶に残ってないけど、この倦怠感や眠気とか、あんまりお腹空かなくなってるのは、友達の惚気なんだか愚痴なんだかわかんない情報によれば ほぼ間違い無く夫婦生活のせいであって詰まるところあたしの体力面とか精神面とかそういったRPG的表現で言うならばヒットポイントとかマジックポイントとかのパラメーターを考慮してくれさえすれば、もともとこんな体調にはなっていないわけで……
お陰で、家族の捜索については、安静にしてなきゃダメだって言われて現在はユン一人に任せっきりな上に
昨日だか一昨日だったか日付も定かじゃないくらい朦朧としているところに、兄です、って立体映像みたいなものを見せられて名前も教えてもらったんだけど……眠気のせいか聞き逃しちゃった上に聞き逃したのが申し訳なくて聞くに聞きなおせない……
しかも名前を聞き逃したのを気にしてたら元々ぼんやりとしか覚えてなかった顔の方まで忘れちゃって、いまだに思い出せない……
じ、実際に会った時に紹介してもらえるだろうし、……大丈夫だよね、うん、大丈夫大丈夫
それにこのまま思い出せない場合に備えてちゃんと対策はしてあるもん
名前分かんなくても お義兄さんって呼べば大抵乗り越えられる
こっちの言葉でちゃんと覚えたよ!
……いや、まぁ、威張って言えることじゃないけど、うん
まぁでも、流石にいくら手助けにならないどころか邪魔をしかねない身体的能力差とはいえ、家事を含めた肉体労働の全般を任せてしまうのも申し訳ないなーという小心者らしい罪悪感はしっかりと存在するから、せめて手伝えないまでも寝ちゃわないようにはしようと思って、頑張って眠気に抵抗しつつも じーっと、彼の作業を眺めているわけなんだけど……
若干恨みがましい視線込みなのはカンベンしてもらうとして
「都子さん」
「……ん、……ぇ?」
「都子さん、我慢せずに眠って下さい、今の貴女にはそうとう辛い筈です」
え、あれ、いつのまに傍に来たのユン
心配そうな顔をした彼が、あたしの顔を覗き込んでいた
ユンの顔色はこれだけの大穴を短時間で開けたにも関わらず疲労らしきものはちっとも見当たらない、あたしの頬を労わるように撫でる彼の手を取って裏も表も見てみるけど、泥汚れなんて見当たらない上に いつものように爪も綺麗に整ったまま
あたしがお婆ちゃんの家庭菜園の手伝いで土いじりをした後は手の潤いが無くなってがさがさになったりしたけど、ユンの手はそんなこともなくすべすべのまま
……羨ましい
「ん、あの、だいじょうぶ
ユンは? つかれてない? きゅうけいは? おちゃでものむ?」
「……嬉しいお誘いですが、お茶はやめておきましょう、休憩にします
都子さんも一緒に休みましょう」
言うなり彼は、あたしがくるまった毛布を捲くると、あたしを膝の上に横抱きにして抱え込むようにして座り込み、その上から毛布で自分ごとくるまった
その安定感はあたしに更なる睡眠への誘惑を仕掛け、ますます意識が朦朧としてきちゃう
「……眠らないのですか?」
「ん……さすがにねすぎかな、って……」
「では、少しわたしとお喋りをしますか?」
「……うん」
少しでも眠気を払おうとユンに凭れ掛かったままの顔をぐりぐりと摺り寄せてみるけど、一行に眠気は遠ざかってくれそうにない
彼は小さな子供みたいにむずがるあたしをあやすようにしながら気晴らしにか話し掛けてくれるけれど、それもあんまり頭の中に入ってきてくれそうになくて
相槌も適当というか無意識というか、ぼんやりした返事になっちゃう……
「一応、粗方の造形は終わりました、後は水周りに内装や家具などですね
取り敢えずは急ぐので家具は既製品を買いますが
後でしっかりしたものをわたしが作ります、希望があれば遠慮なく言って下さい」
「……ぅん、わかった」
「間取りも急拵えで造ってしまいましたが、後で貴女の体調が安定したら色々と調整をしましょう
なんでしたら別の場所に新しく作り直してもいいですね」
「……ぅん」
穴を?
「……眠りたくありませんか?」
「……んー……」
あんまり寝すぎると身体がだるくなるって聞いたことあるし、寝不足よりはいいのかもしれないけど、これはこれで良くなさそうだなーとは思う
「都子さんもご自身の身体の変化に戸惑っていることとは思いますが」
「うん……」
そうなんだよねー、もーびっくりするぐらいねむくてねむくて……
まさかこんなに体力無いとは思わなかった
……いや、もともと運動は全然なんだけど
「……やはり不安ですか」
「……ちょっとだけ」
いくら原因が分かっているとはいえ、流石にここまで強烈に眠いともしかして睡眠障害かなぁとか思っちゃったりするんだけど
結局あたしの体力が無いのが原因だし、こればっかりはどうにもこうにも……
それよりも心配そうに気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、心配の根本を製造している本人として もうちょっと手加減しようとか思いつかないのかなぁ、とか思ったりするわけで
「……わたしは何よりも貴女が大事ですので、都子さんを守る為であれば、最後の選択も……」
眠気で朦朧としたあたしの眼にもはっきりと分かるほどに深刻そうな顔をしたユンが、あたしのおなかをさすりつつ、一気にあたしの意識を完全覚醒させるに充分な破壊力を持った意味深なセリフを呟いた
「……ぇ?」
えっ、も、もしかしてあたし盲腸?
……ま、……ま、まさか、もっと重い病気……とか?
え、うそ、しゅ、手術はちょっと……
このファンタジーな世界で手術って衛生面とか手術器具とか、かなり……
っていうか物凄く厳しいんじゃ……!
「もし何事も無く、それでもこの子らが流れてしまったとしても
それは貴女のせいではありませんから」
「え?」
「え?」
……え?
あたし、妊娠してたの?
次回更新は日曜の同じ時間です
因みに愛の巣()の大まかな間取りはコチラ→ ://1239.mitemin.net/i170080/ ←