05
お久しぶりです、またも間が凄まじいことに…っ!!
……朝です
……おはようございます
……あの
……えー…と
じり…とさがる
じり…じり…
「…ふぅ」
十分距離を取ったところで、詰めていた息を解放する
あぁぁもう、心臓に悪いなぁ
すぅすぅと気持ち良さそうに寝ているユンを起こさないように、さっきまであたしが掛かっていた毛布をぺろんと折り返すようにしてユンに掛け、身支度セットを持ってそっとテントを出た
…なんで毎朝すぐ隣に寝てるんだろう……
いや、うん、分かるよ? 理由は分かる、だって屋外…ぶっちゃけ野宿だもんね
初めて逢った時みたいにユンが傍にいれば動物の類いは寄って来ないもんね、うん
宿泊代が一切掛からないのはとってもありがたいし、文句を言ったらバチが当たるよねーとか思いつつも、毎朝目が覚めると目の前に神々しいご尊顔があったりすると心臓が止まりそうになるわけで…
まぁ流石に寝ている間まで姿をいぬ…じゃなくて狼に変えていてほしいとか図々しいお願いはできないけど、彼は彼で最近気が抜けて来ているらしく、昼間気がつくと人型に戻っていることがちょくちょくある
いや、うん、面倒なことさせてごめんなさい、ユンと出逢って少なくとも二週間は経ってるし最近はそれなりに慣れてきたよ、うん
そのうち常時人型でも動じなくなる…かも
櫛で手早く髪を整え、寝るときは外していた付け耳としっぽを装着
傍にある木の枝にはS字フック付きの薬缶の注ぎ口のような道具を引っ掛けてあり、そこに手を差し出して出てきた冷たい水で洗顔と歯磨きを済ませる
このポータブル蛇口?や あたしサイズの歯ブラシとか、ユンは本当に凄い…
いや、これで食べていけるよね、職人的な、うんうん
包丁やお玉、菜箸、お鍋とか調理器具も作ってもらった、こう、なんていうの、あー…
ヘラとか取っ手とか木製のものは木を手作業で削ったりして作ってくれたんだけど、お鍋とかフライパンとか金属製のものは地中から鉄の成分を抽出して、それが空中で形作られていく様子はなんて表現したらいいのか
不思議と言うか…奇妙と言うか…、そんな光景だった
彼が有能なのはそれだけじゃなく、流石 医療の心得があると自己申告してきただけあって薬草とかの知識も豊富で、作ってくれると宣言してくれた通り、薬用のボディソープやらシャンプーやらコンディショナーやら、とにかく色んなものを作ってくれる…
地球でも手作り石鹸とかは日増しになると鮮度が~、なんて話があるけど、この世界で売ってる乳液とか石鹸の類いもやっぱり鮮度を気にしなきゃいけない日持ちしないものしかなくて、その関係でユンにアドバイスしてもらって最初に買ったのは極少量だったんだけど
これじゃすぐ買い足さなきゃだねという話になった時、それなら、と彼が申し出てくれたんだよね
使った感じは流石と言うべきで、粉石鹸と違って使い勝手がいいのは勿論のこと、洗った後はもちもちのぷるぷるで乳液なんて必要ないくらい
これ、地球に帰ったら手に入らないんだよね…
「落ち込むなぁ…」
一度良い物を知っちゃうとグレードを落とすって大変だよね、うぅ…
あ、そんなこと考えてる場合じゃないよ
それは兎も角として、朝の身支度を終えて朝ご飯の準備に取り掛かる
今朝のメニューは昨日寸胴鍋一杯に作っておいた肉じゃがと、ユンが捕ってきてくれたのを下処理済みの鮭…っぽい魚丸々一匹のホイル焼き、それからご飯とお味噌汁
お鍋とか網とかは火に掛けなくても熱が通る親切設計、うっかり触っても火傷しませんでしたよ
勿論重さはどんなに中身がいっぱいでも最低限しか感じません、うわぁ
そしてもちろん、調理器具だけじゃなく、乾燥機能搭載でしかも貴金属店とかで見掛ける超細かい気泡で洗浄してくれるというあの能力を持った洗剤いらずの洗濯機っぽいものだって…
まずい、野宿だけど超ハイレベルの便利生活…
地球に戻ったら生活レベルのギャップに絶対苦労するよ
うぅ…、慣れちゃいけないと思ってるのに便利なものって侮れない…!!
「…さて」
ご飯の支度も整ったところで そっとテントの中を覗き込み、いまだ麗しい寝顔を披露してくれているユンを見る…
自力で起きてくれないかなー、とか願いつつ見守ること三分
…ご飯冷めちゃうよね、うん
「あ、朝だよー」
呼び掛けてみるけど、相変わらず反応はなし
「もしもーしっ 朝だよー、起きてー」
少し近づいてさっきよりも大きな声で呼び掛けるも、やはり反応はなし…
「……はぁ
ユンー、ユ~ン~っあーさーだーよーっ」
「…ぅぅ、はい、おはようございます都子さん」
「おはよう、朝ご飯の用意できてるよ」
ゆっさゆっさと力の限り肩を揺すって声を掛けてやっと起きてくれたユンのすっかり定番になっているらしい西洋式朝の挨拶を心を無にしてスルーしつつ洗顔用のタオルを渡し、ご飯の盛り付けを始める
彼は見た感じ几帳面そうに見えるし気配に敏感そうだけど、わりと寝汚いところがあるんだよね
あれ?でも最初のうちはあたしより早く起きてたような…
「今朝も美味しそうですね」
「あ、うん、簡単なものだけどね」
「いいえ、いつも美味しく頂いていますよ、毎日の楽しみの一つです」
「そう?、ありがとう」
身支度が済んだ彼は何時ものようにあばにゃ…じゃなくて、えー…あばにす?に姿を変えて食卓についた
さっくりとしゃもじでご飯をほぐした釜から自分の分のご飯をお茶碗に盛り付けた後、釜と箸をユンに渡し、鮭(仮)を綺麗に身と骨に分けていく彼の手元にお味噌汁を注いだラーメン丼サイズのお椀を置く
いただきますと釜からご飯を食べ出す彼に続いて、あたしもいただきます、とご飯を食べ出す
(…なんで玉葱平気なんだろう)
明らかにイヌ科っぽい彼は、美味しそうに玉葱入りの肉じゃがを食べている
念のため玉葱が平気かどうか聞いたときには、好き嫌いはありませんよ、と返事を貰った
いや、好き嫌いとかそういう問題じゃないよね…?
美味しそうに食べてくれるユンの様子を見ると作った甲斐があったと言うか何と言うか…
食べる所作はとても綺麗なのに気がつくと舐めた後のようにすっかり空になった食器を二人で片付け、夜のうちに干しておいた洗濯物を取り込み、新鮮な山菜や薬草を採って荷物の整理をした後、あたし達は野宿をしたこの場所からすぐ近くの街に行く
『ぁにょ、こにょひちょらちをちりましぇんか?』
ユンに作ってもらったパスケースサイズのアイテムを開くと家族の顔が立体映写される
一応、こっちの人に違和感を感じさせないためなのか、お父さんの頭にアライグマのふわっふわな三角耳が聳え立ってるのがなんともシュール…
ごめん、お父さん、せめて笑えたらよかったんだけど、ちょっとひいちゃったよ…
いや、ごめん、うそつきました、ちょっとどころじゃなく、うん、あ、あはは
相手は申し訳なさそうに首を振って何か答えてくれた、たぶん"知らない"で合ってると思うけど
「元気を出してください都子さん」
「うん…」
結局今日も収穫はなし、皆どこにいるのかなぁ…
そんなに遠い所に落ちちゃったのかな…
鬱々と考えながらユンが魔法を使っているのを眺める
雫の形をした真っ黒な道具を使って何かをしてる、一応何をしてるのか彼に聞いてみたんだけど理解力が追いつかないあたしでは正しく理解できてるかも分からない
簡単に言うと巨大な魔方陣を描いてるんだって
それで、その魔方陣を使って女神様を呼び戻す、とかなんとか
うわーファンタジーだなぁ、地球みたいに偶像崇拝じゃなくて本当に神様がいるなんて
でもユンの話によると、魔方陣はかなり巨大で何人もの人が協力して描いてるってことだから
そんな大きな魔方陣で呼び出される女神様って相当巨大ってことだよね
上からこの世界を見たときのことを思い出すと、地上は女神様にはかなり狭そうだけど
ぶ、物理的な問題って関係ないのかな?
午前中は聞き込みに費やし
あまりの成果の無さに落ち込むも気を取り直してお昼ご飯にご当地グルメを堪能した後、午後は昨日の野宿場所で採った分の山菜と薬草を売る
今朝採った分は明日の野宿場所近くの街で売る予定、ユン曰く近所で採れるものを売っても需要がない可能性があるから他所で売った方がいいんだって、なるほどね
ついでに残り少なくなった調味料と、山では採れない野菜類も買い足す
肉や魚や卵は…気がつくとユンがどこかから仕留めてイイ感じに解体済みのを持って来てくれる
…うん、とっても新鮮そうだね、うん、すごく食費に優しいよね、うん
一応、今回もEx含め四話用意してますので、前回と違って一日で書き上がってる分を全部…とかではないんですが
予約投稿で従来通りに表裏タイミングを合わせてぼちぼち上げていきます
次は四日後の同じ時間です
そしてとうとう次回は…!