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02

「これなど、いかがでしょうか」


「え、えー……と」


「それとも、こちらは」


「…あ、…うん、…かわいい…と思う……よ?」



明らかに、あたしには大きすぎる服を次々と持ってくるユン

彼が言うには、選んだものをあたしサイズに作ってもらえるんだそうで……


そうだよね、お財布的に既製品が一番いいんだろうけど、既製品じゃ着れないもんね……


ってゆうか、スカートばっかり選んでるような……

旅だよね? 動きやすいようにパンツスタイルとかの方がいいんじゃ……?



「ね、ねぇユン、そんな可愛いのじゃなくていいよ

 オシャレを楽しむためじゃないんだし……」


「そうですね、確かに旅が行楽目的でないことを考えれば動きやすい格好の方がいいでしょう

 しかし都子さん、心に余裕を持たなければいけないとわたしは考えます」


「え?」


「ご家族が心配なのはお察しします、わたしにも大切な家族がいますからね

 しかし心に余裕を持たなければ、精神だけでなく いずれは体調も崩してしまうかもしれません」



心の病気は、身体にも影響を及ぼす

健康番組でたまにそんなことを言ってるのを、確かにあたしも知ってる



「折角ご家族を見つけても、貴女の心身が弱っていればご家族は悲しむでしょうし わたしも辛い

 ですから、時には美味しいものを食べ、綺麗な服を見たり着たりして楽しんでいただければ、と」


「…うん、ありがとうユン」



リュックに詰めた荷物一つでガイドも通訳も連れずに海外を一人旅

現地で触れる人々の優しさ、温かさ……

旅番組ってやらせばっかりなんじゃないの、とか思ってたけど……


優しさが目にしみる……!


うぅ、ありがとう、ありがとうユン……っ

そんなに暗い顔してたのかな、あたし……

心配してくれてありがとう……あたし前向きになるよう頑張るね!



……で、途中、短いスカートは流石に高校生くらいまでが限度だろう、とか

そもそも足をわざわざ見せても恥ずかしくない程のプロポーションは持ってない、とか

何で彼が勧める服は露出が高いのか、とか思ってたら実は他の服を見てみると彼の勧める服は比較的露出が少ない方だったんだね、とか


また彼が床にうずくまったとか


色々すったもんだの末、着回しできそうなものを何着か選び、流石職人というか、何か神懸り的な縫い物捌きで服を作ってもらい、今着ているものも着替えてしまおうということで、作ってもらった服を露出を抑えるために丈の長めなスカートやらニーソックスやらブーツやら

肩を覆うようにケープなんかコーディネイトした結果、鏡の中には……



「……う!」



…ね、…ねこみみ…あかずきん……!!

ぎゃぁぁぁあああああアアア!!!


こ、こすぷれなんてしたつもりないのに!

なにこれっ、なにこれどうしてこうなった!!


ワインレッドで綺麗だからって、赤いケープをチョイスしたのがまずかったの?!

それともこのスカート?!


ひぃぃ、と声も出ないほどうろたえていると、ユンが視界の端でお金らしきものを出しているのが目に入り、あたしは慌てて彼をとめた



「あ! ま、まって自分で払うから!!

 足りるかどうか分かんないけど、せめて足りる分だけでも!」


「安心してください、都子さん

 ルルヴィスやアヴァニスの服は左右対称に作ることが可能ですので複雑な加工は要りません

 ですから高価な生地や装飾をあしらわない限り、価格はあまり高くありません

 加えて都子さんの服に使用した生地は一般よりも遥かに少ないので更に安いですよ」


「る、るる? あばば…いや、そういう問題じゃなくて!

 自分で必要なものは自分で買うから!!

 そのために果物とか集めるのを手伝ってもらったりしたんだから!!」


「そうですか……?」



あたしの財布をぐいぐいと主張すると、彼は耳を少しだけ垂れた後に自分の財布をしまい

あたしたちのやりとりを眺めていた犬の獣人さんに何か話した……と、その瞬間



ぶわっ!



「ぇえ?!」



犬の獣人さんは、くりくりの綺麗な目からぼたぼたと涙を流して あたしにぐぎゅうっと締め上げるように抱きつくと

何か言いながら背中をがっしがっしと さすってきた…く、苦しい、なんで??


気が済んだのか、すぐに力を緩めてくれたけれど、何がなんだか分からない

結局、犬の…えーと…多分、おばさんくらい? のお店の人は身振り手振りであたしから硬貨を三枚ほど受け取り、買い物は無事済んだ……


えっと、つまりいくらくらい使ったのかな??



お店の人達の涙ながらのお見送りに若干ひきつりつつもあたしは手を振ってさよならをした……

…なんか…多分、知らない方がいいようなことが起きたんだよね?……うん



「大分おまけをしてもらいましたね、よくお似合いですよ都子さん」


「う、うん、ありがとう」



だ…大分おまけしてもらっちゃったんだ……

ますます怖くて聞けない……っ


ま、また買いにきますから!

お金沢山溜めて今度はちゃんとした値段でいっぱい買わせてもらいますから!!







「さ、都子さん、ここは美味しくて品数も多いんですよ

 ちょうど席が二席続いて空いていますね、あそこにしましょう」



服屋さんから出て、相変わらず彼に抱き上げられたまま一階層上がったところで入ったお店は、ユンの言う通り美味しそうな匂いがして、とたんにお腹がすいてきてしまった

彼の指差す方を見れば、そこはカウンター席で店員さんが布巾でさっと食事の後を拭き取っている



「うん、ねぇお昼はもう過ぎてるんでしょ?

 なのにほぼ満席なんて凄いね」



これは期待できそう! なんて思いながら席へ向かえば……



「あー……」



…イスが…凄く…高い……

カウンター席の相乗効果なのか、イスが脚立みたいな……

あれ、もしかして義手とかを作るお爺さんのところで座らせてもらったのって、テーブルじゃなくてイス……?


ユンにイスに降ろしてもらったはいいものの、辛うじてカウンターに顎が乗るくらいで、この上に料理が出てきても手が……



「そこの椅子を借りてきましょうか?」


「え!、あ、だ、大丈夫大丈夫、こうすればっ、ね!」



ユンの視線を追えば、そこにはちょくちょくお店で見掛けるような小さい子用の高めのイスが三つほど並んでいた……

いや、それは…大人としてそれはちょっと……!!


苦肉の策でイスの上に正座をすれば、なんとかカウンターに乗り上がるような感じで腕が乗る、これでなんとかなる、うん、だいじょうぶだいじょうぶ

座面だって広いんだし、正座でも座ってられる、よし!

行儀が悪いとか悪あがきとか色々頭の中でぐるぐる回るけど全てはセルフスルー!!


しかし、と心配そうな彼を無理やり納得させ二人してメニューを覗き込む

文字は読めないけど、挿絵のようなものが入っていて、そこにユンの説明が加わり、内容はなんとなくだけど想像することが出来た


そこで分かったことだけど、なな、なんと!

なんとメニューにご飯とかお味噌汁とかうどんとか、馴染み深い日本食の数々を発見!!



うわーうわー! ご飯! 白いお米!! 炭水化物ばんざい!!!



ご飯のお供は、ここはやっぱりお肉!

長らく動物さんたちのお世話になってたのと火が使えないことからお肉とは遠ざかってたけど、ここはぜひともお肉でしょう!


動物達といえば、色々お世話になってると、いつの間にか ついついお猿さんとか狼さんとか敬称をつけちゃってたけど、今後もそれは抜けそうも無いなぁ……

いや、日本人として、ね!

勿論、お世話になったのは素直にありがたいし、感謝もしてるんだけど、やっぱりお肉食べたいと言うか!

包み隠さず言うけど、お肉大好きだから!!

いや、でも、別に毎食食べたいほど中毒的に好きってわけでもないけどね、でも美味しいし!

ずっと食べてないんだもん!!


だから今こそお肉を! 満を持してお肉!!

今お肉を食べずしていつ食べるのか、っていう、ね!


なんて心の中で色々言い訳しつつも、迷うことなくユンの二番目のオススメのええるぶたの生姜焼き定食とサラダとお味噌汁のセットを彼に頼んでもらう、ふふふ、さっきの猿のお爺さんのところでの経験でしっかり学習してるからね、勿論、頼んでもらったのはSサイズ相当のものだよっ!


あたしは得意満面ほくほく顔でユンにカウンターの箸立てから箸をとってもらって、固まった



「う…うわぁ……」



お箸…すごく…大きいよこれ…うぅ……

割り箸のような感じのその箸は、片方だけでもあたしの親指くらいの太さで、長さも肘から指先くらいまで……


見かねたユンが、どこからか小さなナイフを取り出して、ビキっと音をさせて箸を縦に割り、あたしの手に丁度いいように太さや長さを調整してごりごりと削り出し、ささくれが引っかからないよう丁寧に綺麗に整えてくれた

器用なんだね、うぅ、ありがとう……!

まだ21だし、歳のせいとか思いたくないけど、感動で涙が……

いや、泣いちゃだめ泣いちゃだめ、我慢だよ都子! ファイトォ!



「ありがとうユン、大事に使うねっ」


「う、は、はい」



ユンはなぜだか鼻を押さえて、片方の手で首裏をとんとんと叩いていた

この人、大丈夫かな、度々具合悪そうになるけど……

やっぱり美人薄命系の人? 入院とか通院とか必要なのかな……



「ユン? だいじょ……」


『はいお待ちどーさんっ

 イェイェル豚の生姜焼き定食と、ハウェルスォンのこんがりお焦げスタミナ雑炊だよ!』


「来たようですね、いただきましょう」


「あ、う、うん、…え…これ…ちょ……」



いや、ちょ、えぇー……


あたし、フードファイターじゃないからこんなに食べられない……

こんなこともあろうかとSサイズらしき量で頼んでもらったのに、車についてるハンドルくらいの大きさの丈夫そうな金属製のお皿に山のように盛られたお肉と、工事現場の人が使ってるようなヘルメットサイズのやっぱり金属製っぽい器に盛られたご飯とサラダとお味噌汁……


何だか家具や食器とか金属製のものばっかり、……丈夫だから? 壊れないように??



「どうしました都子さん、食べないのですか?」


「え、あ、う、うん、いただきます」



声を掛けられてユンの方を見れば、彼は彼で車のタイヤくらいの大きさもある丼を抱えていた

それ……全部食べるの?


どうやらお粥っぽいその料理を見て、やっぱり病気なのかな

でも、折角胃に優しそうなご飯も、その量を食べたら逆効果だよね?

なんて考えつつ、正面に向き直る……


わー、お肉、おいしそー……


でも分厚いね……5cmくらい?

ご飯粒の大きさも倍くらいなんだー……


これ多分、一割も食べないうちにお腹いっぱいになるよね、あたし……


でも、勿体無いの精神を持つ日本人として、残すのも気がひけるというか……

出来る限り食べて、残った分はお持ち帰りさせてもらおう、うん!

……タッパーとかないよね? どうやって持ち帰ろう……

と、兎に角、お腹いっぱいになってから考えよう!



「い、いただきますっ」



置いてあったナイフ…というか、あたし的には家庭用の包丁の1.5倍くらいのサイズのソレを持つと

ずっしりと、こう…従兄弟の家にあった5kのダンベルみたい……!


うぅぅ、て、手がぷるぷるするぅぅぅぅッ!

こ、これは両手で持たないと、とてもお肉なんか切れないっ


でも更に角度的な問題もあって、この状態じゃどう頑張ってもお肉は切れそうも無いっ



「…都子さん、やはり椅子を借りてきましょうか?」


「え、だ、だいじょうぶっ 膝立ちすればほら!!」


「しかし疲れるし危ないでしょう、

 借りてきますから都子さんはそのまま食べていて下さい」


「あ、だいじょ、あ……」



行っちゃった……

そんな…子供イスなんて恥ずかしい……

あぅぅ…は! そ、そうだよ、ここは ちゃんと食べられることをアピールして

子供イスが必要ないってことをユンに分かってもらうのが一番だよね!

なんて意気込んでみたはいいものの……



「ん、んぅぅ……っ!

 お肉…硬っ くぅぅ~っ!!」



ナイフは重いし、お肉は分厚くてしかも硬いしっ



「くぅっ…こンの…ぅひゃうッ?!」



キンッ……ドス!



体重を掛けるようにナイフを押し込んだ瞬間、膝がずるっと滑って落ちそうになったあたしは、慌ててカウンターにしがみ付いた



「…っ こ、怖かったっ 落ちるかとおも……

 あれ? ナイフどこ……」


『てめぇこの糞ガキがぁッ!』


「ヒィッッ?!」



隣から物凄くドスの効いた声がして、何を言ってるのか分からないけどそっちを向いたら

恐ろしい形相のライオン風の獣人さんがあたしを見下ろして牙を剥いていた……!!


ひ、ひぃっ、これがウワサの肉食系男子?!

いやいやいや、そんな現実逃避してる場合じゃないよあたしっ


恐る恐る視線を下げると、肉食系男子…じゃなくて、ライオン獣人の手元には多分あたしのものと思われるナイフがぶっすり刺さっていて

そそ、それで多分怒ってるんだよね?!


ででで、でもなんでそんなところにナイフが……あ!

た、多分、カウンターにしがみ付こうとしてナイフをお皿に叩きつけちゃったんだ……

そそ、それでお皿から跳ね返ったナイフが華麗に宙を舞ってお隣の手元にどすっと着地の10点まんてーん……ぎゃぁぁぁあああああ!!!


ごごご、ごめんなさいぃぃいいいいいいい!!



『ぐぎょおぉぉうッ?!』


「ひっ?!」



新しい感じの威嚇音?!

え、なに? この人 凄く歯がガチガチしてるんですけど?!

この鋭い牙でおまえなんか骨ごとごりごりっと噛み砕くぞゴルァア!ってことですか?!



ボキィッ!



「ひぃぃ!!」



歯、歯が砕けたァァアアア!!!

威嚇のし過ぎで歯が砕けるとか、どんだけ怒られてるのあたしぃぃいいい?!



「都子さん」


「は、はぃぃぃいいい!!」



あ、ユ、ユンか!

びっくりした! すっごいびっくりした!!



「闘技場の観覧席の方で食べましょうか、

 ここの闘技場は上三段はテーブルがついているんですよ」


「え、と、とうぎじょう?

 あの、それよりこのひと……」


「はい?」



う、うわぁ、なんだかとってもステキな笑顔っ、せ、背中がヒヤッてした!

あ、あの、でも、こ、このひとにね、しつれいなことをしちゃって、あの、あのね?


ユンは大きなトレイにあたしたちの定食を乗せると魔法?でそれを小さくし

足元に置いていた荷物を持って、比較的荷物量の少ない方の片手でさっとあたしを抱き上げた

定食の乗ったトレイはふよふよと傍に浮かんでいる



「食べ終わった食器は後で自分で返せばいいですし、

 お金を余分に払えば元の食堂が回収してくれますよ」



とか言いながら、お店の人に小さめのコインを二種類、二枚ずつ渡して席を離れてしまう

い…いの?


あれ、いいの?


ライオンのひと…あれ? 目がうつろというか、全然こっち見てないというか……

あれー…? とか思ってるうちにお店の奥へ

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