後編
「…そしてついに、魔王を斃すことに成功したのだ!選ばれし勇者と穢れなき聖女の力により、世界は守られた。救世の英雄たる二人をここに紹介する。我が誇りとする息子、王太子ジギスムント!その婚約者である清廉なる乙女、フェオドラ嬢!」
…広場に集まる民衆の興奮は、その言葉で最高潮に達した。詰め掛けた人々は、国王の演説が終わり勇者と聖女が呼ばれたところでさらに前へ出ようと押し合い、異様な熱気が壇上に伝わってくる。
──アンゼルムの結界がなければ、壇上に駆け上がってきて抱きついてきそうな勢いだな。救世主を一目見るためとなれば無理もない…しかしこの喧騒、怪我人や死人が出てもおかしくなさそうだが、勘弁してほしいものだ。フェオドラには治せないのだからな…
にこやかに登壇したジギスムントは内心で皮肉めいたことを考えていたが、熱狂的に歓迎され自分で思っているほど冷静ではいられなかった。その場の雰囲気と自分を崇拝する視線に、しぜんと心が浮き立ち作り物でない笑顔になる。
「ほら、あたしの言ったとおりだろう!先月村の宿に泊まった三人連れ、あれが勇者様たちだったんだ!顔は隠してたけど、フードからはみ出た銀髪と金髪がキラキラしてたからね!」
「俺も見たぞ!森ですれ違った時は何をしてたのかと思ったが、奥に入ったら泉の水が綺麗になってて魔物が死んでたんだ!浄化と討伐の直後だったんだよ!銀髪の男は立派な剣を持ってた…あれが王太子殿下だったのか!」
「うちの子は怪我を治してもらったって!金髪のお姉ちゃんが『内緒だよ』って言って魔法をかけてくれたんだって、そりゃあ喜んで…あのお綺麗なご令嬢がそうなのね?!」
あちこちで驚きと納得の声が上がる。アンゼルムの魔法は効果があったようだ。
ジギスムントはふと、異世界の聖女の黒髪を思い出した。
──漆黒の、聖女というより魔女のような髪。魔王討伐が果たされるまではと愛想良くしていたが、ずっと汚らわしい色だと思っていた。あのような色味の者が聖女だと発表したところで、このように歓迎されたとも思えない。これで良かったのだ。
聖女のことを思い出すと、ジギスムントはいつも忌々しい気分になる。
思い通りに操るため、自分との結婚をちらつかせたにもかかわらず即座に断ってきた聖女。乗ってきたとしても約束を守る気など当然無かったが、向こうから断られたという事実がプライドを傷付けた。ジギスムント本人を拒絶したわけではないようだったが、わずかでも迷う素振りすらなかったことが許せない。
アンゼルムの報告によれば、旅を通じて勇者と想い合うようになっていたという。世界は違っても平民は平民同士ということか。田舎の平民によくいる赤毛の、教養も品格もない男。
勇者として崇められるのは高貴な血筋を持つ、自分であるべきだ。三代前に選ばれた王族、あれが正しい形だった。その形に戻すだけのことに、良心の痛みなど感じることはない。
魔王討伐が終わるまで、ジギスムントとフェオドラは公の場に姿を現さず王宮に籠もっていた。退屈な日々ではあったが、二人に取って代わる時のことを想像して耐えていたのだ。予想外に早く討伐が果たされたことで、その日々も存外短く済んだのは僥倖だった。
隣で歩を進めるフェオドラとは、もともと婚約間近だった。婚約発表の前に勇者と聖女が見出されたおかげで、この計画が生まれたのだ。ジギスムントとフェオドラは世界を救う旅のさなかで愛を育て、皆に祝福されて結婚し、『いつまでも幸せに暮らしました』とこの先数多出されるであろう英雄伝の結末に記されるはずだった。
フェオドラは緩く波打つ金髪を揺らし、聖女らしく純白の清楚なドレスでジギスムントに寄り添っている。既にここが結婚式の場のようだ。その横には兄であるアンゼルムが、これまた花嫁の付き添いのようについて来ている。
──これで王家は民の信頼を取り戻し、ジギスムントの治世も磐石になるだろう。私とフェオドラの存在で、我が公爵家の地位も揺るぐことはない。
勇者と聖女を助け使命を果たしたということで、アンゼルムは世界一の魔術師と国王に認められた。その称号は今この時から、民の間にも浸透していくことだろう。
光に満ちた舞台に立ちながら、アンゼルムは舞台から排除された二人のことを考える。
魔王討伐後の二人の身柄をどうするか、会議は紛糾した。情報秘匿のためには殺すべきだという意見。勇者や聖女を害した場合何が起こるかわからないため、止めたほうが良いという反論。
魔王は斃したがこの先別の問題が起こり、聖剣を扱える勇者と聖女の能力が必要になる時が来るかもしれない。その時まで幽閉すればいい。話し合いの末に出た結論はそれだった。
勇者は故郷の家族や村人を脅しの材料に使えるが、聖女はこの世界にしがらみがない。勇者と親しくなったことで、人質に使える存在ができたことは幸いだった。勇者もまた、聖女の命を引き合いに出されると諦めたように見えた。
──聖女もあんな平民でなく私を選んでいれば、もう少し良い環境で飼い殺してやったものを。
旅の始まりの時点で、アンゼルムは聖女を懐柔するつもりだった。自分の駒として自在に動かせるよう、なんなら王家に対する未来の切り札として、自分に靡かせようとしていた。寄る辺ない異世界の少女であれば、傍で優しく接し続けていれば簡単に落ちるに違いないと思っていた。
だが聖女が心を許したのは、地位も美貌もアンゼルムの足元にも及ばない男。
二人が距離を縮めていくのを間近で見せられているうちに、アンゼルムは狙いが外れたことによる怒りと、理由のわからない奇妙な苛立ちをおぼえるようになった。
あるいはそこで勇者とも打ち解け、二人の信頼を得る方向に計画を変更すればよかったのかもしれない。だがその苛立ちのせいで、アンゼルムは逆に二人と距離を置くようになったのだ。
二人に認識阻害と髪色変化の魔法をかけ続けながら、アンゼルム本人は自分の姿を隠してはいなかった。王太子の顔を知る者は多く、勇者の顔をジギスムントに見えるようにしてはそれこそ騒ぎになってしまうため認識阻害にとどめた。念のため聖女も同じようにしたものの、アンゼルムは平民に顔が知られているわけではない。旅の間に見掛け、勇者と聖女に付き添う魔術師の顔を覚えている人間もいるだろう。それはジギスムントとフェオドラが勇者と聖女である、と信じさせる大きな要素となったはずだ。
聖女は懐柔し、勇者は故郷の安全と引き換えに服従させる。多少計画は狂ったが、大筋は王家とアンゼルムの描いた通りに進んでいる。
無数の人々の歓声を全身に浴びながら、アンゼルムはふっと笑った。
「…世界の危機が去った今、勇者としての使命は果たした。今後は次期国王として民の安寧と国の繁栄に力を尽くすことこそ、新しき使命と思っている!」
ジギスムントが言葉を紡ぐたび、目の前の人波が揺れ声が上がる。これまで祭事などで民の前に立ったことは何度もあるが、同じように語りかけてもこれほどの反応はなかった。陶酔ともいえる感情が湧き上がるが、携えた聖剣の重みがそれをかすかに妨げる。
勇者であれば身体の一部の如く軽々と扱えるはずの聖剣は、選ばれていない者が持つと振り上げるのが困難なほど重みを増すのだ。
お前ではない、と拒まれているようで途轍もなく不快だった。
「恐れ多くも聖女として選ばれ、この世界を救うことができたのは非常に光栄でございました!これからは皆様の幸せのため、力及ぶ限り殿下をお支えしていく覚悟でおります!」
頬を紅潮させて人々に宣言するフェオドラは、本当に自分が聖女であると信じ込んでいるかのようだった。目を輝かせて誇らしげに語る様子は全く後ろめたさが感じられない。
公爵令嬢として生まれたときから大事にされ、望んだことは全て叶うのが当たり前と思いながら育ってきた。平民が自分の代わりに汚れ仕事を済ませ、謹んで功績を差し出してきたから快く受け取ってやっただけ。フェオドラの頭の中では、今回の計画がそのように変換されていた。
そんなフェオドラの言葉に、あらためて民衆が沸き返る…と思われたところで、
「聖女だと?…ならばお前にしよう」
ざわめきの中でも、何故かはっきりと聞き取れる声が響いた。
そして次の瞬間、壇上に立っていた者全員が謎の振動と高音に襲われ、その場に崩れ落ちていたのだった。
「…な…えっ?…私の結界が、解けて…解かれている…?」
ふらつきながら立ち上がったアンゼルムが、唖然とした表情で周囲を見回した。
「あー、僕たちの転移の衝撃で弾けちゃったみたいですねえ。すみません」
この場にそぐわない暢気な声がして、全員がハッと顔を向ける。
…国王が立つ一段高い位置から、先ほどまでいなかった二人の男がこちらを見下ろしていた。
ともにローブに似た形の柔らかそうな衣服を身に着けていたが、それは金属を溶かして身体にまとわせたような、見たことのない奇妙な材質でできている。三十代半ばに見える背の高い男は黒っぽい銀色の、男より少し若そうな青年は赤銅色だった。
二人とも漆黒の髪と瞳をしていたが、顔立ちを見ると召喚した聖女とは人種が異なっているのがわかる。端正だがどこか爬虫類を思わせる目つきや鋭角的な鼻と薄い唇は、この世界の人間とも微妙に造形が違うように見えた。
「呼びつけるだけならたいした影響もないでしょうが、こうやって自分たちで迎えにくるとやっぱり弊害は出るみたいですね」
「誰も死んだわけでなし、こんなちゃちな結界を壊したくらいで害とは言えん」
青年の発言を男があっさり否定する。先ほどアンゼルムに答えたのは青年のほうで、最初に響いたのは男のほうの声だ。
男はあの時、フェオドラの言葉を受けて「ならばお前にしよう」と言った。
「ちょっと、なんなのよこれ!動けない!」
そのフェオドラは他の者がよろけながらも立つ中で、押さえつけられているかのように跪いている。「殿下!お兄様!助けて!」
フェオドラに近付こうとしたアンゼルムは、自分の足も動かなくなっていることに気付いた。ジギスムントも国王も、壇上にいる者が皆床に縫い付けられたように、足の自由を奪われているのだ。
魔法も発動することができない。この二人の力だとすれば、アンゼルムとは比較にならないほどの強大な魔力だった。
「…何者だ、お前たちは」
唸るように問う国王に、青年が場違いな笑顔を向ける。
「申し遅れました。こちらは我が国…我が世界というべきかな?筆頭魔術師のユイカウ様、私は助手のキドナプです。はじめまして、異世界の国王陛下」
この世界では名前とわからないような、奇妙な発音だった。
「勇者と聖女の活躍でこの世界は救われたとのこと、おめでとうございます。これでもう安心ですね?…だから今度は、私たちの世界に聖女をください」
キドナプは笑顔のまま、さらりとそう言ってフェオドラを指した。
「…え、な、何を言ってるの?!嫌よ、どうして私がそんな」
「聖女なのだろう?我が世界で必要としているのは異世界の血であり、特定の人間ではない。ここに居る誰でもいいのだが、聖女ならばより世界を救うに相応しかろうと思ったまで。帰してやることはできないが、世界を救うためだ。赦せ」
ユイカウに無表情でそう言われ、フェオドラは我を忘れて叫んだ。
「ち、違う、違うの、私は聖女じゃない!別の世界から召喚した子が本当の聖女なの!だからその子を連れていってよ!」
それまで何が起きたかわからず、壇上を見守っていた人々がどよめいた。
「へえ?たった今、聖女として民に語りかけていたというのに?駄目ですよ、嘘をついて逃れようとしても」
キドナプに言われ、フェオドラは半狂乱になって王家と自分たちの計画を暴露する。
どよめきはますます大きくなり、未知の異世界人への恐れより、騙されていたことへの驚愕と怒りが人々の心を染めていくが、壇上の者たちは異世界人の来訪、いや来襲を受けた衝撃でそのことに気付いていない。
こちらが異世界人を召喚することを、疑問に思ったことはなかった。それなのに、こちらが召喚…いや誘拐されることを、誰も考えたことはなかったのだ。
「なるほど。ではそちらの王太子殿下も、勇者を騙っていたというわけですか。…その聖剣とやら、異世界の私でも特別なものなのはわかりますが、道理で貴方には荷が勝ちすぎている気がしたんですよねえ」
カッとなったジギスムントは聖剣を鞘から抜こうとするが、その重みのせいでじりじりと引き上げることしかできなかった。顔を赤くして聖剣と格闘するジギスムントに、人々が軽蔑の目を向ける。
「…なーんて、実ははじめから知ってたんですけどね」
にこやかに放たれたキドナプの発言に、ジギスムントの手が止まった。
「異世界召喚の魔法の痕跡を追って、我々はこの世界に来た。無関係の世界の人間を自分たちの都合で攫うのは罪悪と承知しているゆえ、同じことをした世界であれば納得の上協力してもらえるであろう、と思ってのこと」
「そうして飛び込む前にこの世界の様子を見ていたら、異世界人の少女もその剣の気配を帯びた少年も、貴方がたに囚われていた…今もそうかはわかりませんが」
アンゼルムは消された結界のことを思い出した。あの破壊力であれば、聖女を幽閉した塔にも影響を及ぼしただろう。勇者にかけていた行動制限の魔法も…
「非道なことをするなあ、と呆れていましたが、おかげでこちらの罪悪感が薄れたのでありがたいです!いきなり召喚してこき使った貴方がたと違って、私たちはきちんと説明してお別れもできるよう、こちらからお迎えにあがったのですよ。…まあ、どうしても嫌ならそちらの殿下でもいいです。曲がりなりにも勇者を名乗っていた方ですから、愛する女性のためなら喜んで身代わりになることでしょう」
「…い、嫌だ!見知らぬ世界に無理矢理連れて行かれ、二度と帰れない上に利用されるなど、鬼畜の所業ではないか!」
ジギスムントの叫びに対し、即座にユイカウが答える。
「お前たちも同じ事をしただろうが」
「…っわ、わたしは王太子だ、この国に必要なんだ。誰でもいいのなら、その辺から好きに選ぶがいい!」
ジギスムントが手を振り上げた先は、広場に集まる民衆だった。
…一瞬静まり返った人々から、次々と激しい怒号が浴びせられ、物が投げつけられる。
異世界から攫ってきた少女、自分たちと同じ平民の少年。そんな二人の功績を奪い、この先も日の当たらない場所に縛りつけようとしていた。平然と自分たちを騙して笑っていた。状況が変わった途端、今度は自分たちを身代わりで差し出そうとした。
民の怒りはすさまじく、動けない壇上の者たちは石や木切れ、鉄屑や卵に至るまで、よけることもできず飛んでくる物体の的になるしかなかった。
その光景をしばらく眺めた後、キドナプはのんびりと言う。
「えっと…もう必要とされてないみたいですよ?」
そんな状況の中でも壇上の人間は皆、異世界人に選ばれることがないよう必死で身を縮めていた。
だが卑劣な企みが明かされ、さらに醜態を重ねたのだから、王家と公爵家、関わった者全員に未来はないだろう。この世界に残れたとしても、異世界に逃げたほうがマシという目に遭うかもしれない。
それに思い至ったのか、フェオドラは虚ろな目でユイカウとキドナプを見た。
「…連れて行かれたら、浄化や魔王討伐をさせられるの?」
「この世界の滅亡回避はそういう形だったが、我が世界は全く違う理で動いている。…動力源、と表現するのが適切か」
「動力源…?」
「必要なのは異世界人の『血』だと言ったろう。その血をもとに術式を組み、世界の機能が停止しないよう動かし続ける…別の世界の者に説明するのは難しいものだな。理解を得るのは無理かもしれないが、何も知らずとも役割を果たすことはできる。考えずともよい」
「血…それって、生贄として殺されるってこと?!」
「動けないのだから暴れようとするな、疲弊するだけだ。…やはり理解は及ばないか。殺すなど、とんでもない。生涯部屋から出さず大事に大事に、徹底的に管理して健康で永らえてもらうことに努めよう。
…血を抜ける期間が長ければ、そのぶん新たな異世界人を迎えに行くことを先送りにできるゆえ」
「ひっ…ひとでなし!よくもそんな酷いことを…なんの関係もない人間を…」
ユイカウはため息をついた。異世界の人間とは会話が困難だとあらためて思う。
「何度も言わせるな。お前たちもしたことだ」
「生涯閉じ込めて生かさず殺さず利用する。うん、同じですね!でも僕らは貴女たちと違って、救済者…来てくれた異世界の人をそう呼ぶんですけど、世界を救ってくれた人の手柄を横取りしたりしませんよ?ま、横取りしようもないんですけど」
キドナプが話に割り込む。
「そうだな。救済者には感謝あるのみ。そしてこのような行為を続けているからには、こちらが別の世界に召喚され利用されることも覚悟している。…選ばれたのが私であってもだ」
「貴方なら役目を果たして自力で帰ってきちゃいそうですけどねー。
…それでユイカウ様、誰にします?長持ちすることを考慮してやっぱり若者、この女性かお兄さんか王太子?あ、国王も捨てたもんじゃないかも。ああいう厚顔な人ってしぶとく生き延びるんですよねえ…周りにいる貴族の方々もあるいは…」
──その日広場で起こった暴動は信じがたい出来事をきっかけにしていたが、王都の民の証言が一致していたため真実と認められた。異世界人が去るのと前後して壇上に押し寄せた民衆によって混乱はさらに深まり、治まったのちも誰を袋叩きにしただの、誰が逃げ延びただの情報が錯綜し、異世界人に連れ去られたのが誰だったのかは未だ特定できていない。
勇者と聖女を蔑ろにした王家と公爵家、それに連なる関係者の愚行は後の世に広く伝えられ、新しく立ち上げられた国家では百年後に魔王が誕生する前に瘴気を浄化する研究が行われることとなる。これまでも考えられてきた問題ではあるが『異世界召喚は避けるべし』という切実な思いで一致団結して取り組む、これからの百年ならば良い結果を生み出せるかもしれない。
本物の勇者と聖女の捜索もされたが、王宮から消えて以来行方は知れなかった。
異世界人のユイカウとキドナプは事情を知っていたらしいので、二人の逃亡に協力したのではという説もある。転移による結界の破壊が狙ってのことだったのか、最早それを彼らに訊ねる機会はない。
──聖女は勇者の村に匿われ、穏やかに暮らしているらしい。
──腕の立つ剣士と強力な魔術師の冒険者カップルがいるが、実はあの二人が勇者と聖女なのだ。魔術師は珍しい黒髪をトレードマークにしており、冒険者界隈ではそれを真似て魔法で黒髪にする者が現れちょっとした流行になったという。
──海岸で赤毛の青年と寄り添って歩いていた異国的な風貌の女性が、偶然船の難破により流れ着いた怪我人を癒すところを見た。あの時の、普通の治癒魔法とは比べものにならないほどの清浄な光は、彼女が聖女である証だ。
そうした話も出たことがあるが、隠匿された勇者の故郷を知る者はおらず、認識阻害により二人の外見を見た者もいないため、真偽は不明のまま無数の噂の波に呑まれ、流され、やがて消えていった。
読んでいただき、どうもありがとうございました!




