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8 謎の地下通路



 備品室には、大量の紙媒体のファイルがあった。

 黄ばんだファイルもあれば、真新しいファイルもある。


「いつまでここで待てばいいのかな……」


 機密かもしれないファイルを見るのも、後が怖い。

 口封じに、天への片道切符を渡される可能性もある。


 手に持っている万年筆をいじりながら、周囲を観察する。


「……ん?」


 ファイルを物色してると、奥の棚の影に、ドアがあることに気づいた。


(さらに重要なファイルが保管されてる場所とか?)


 そっとドアに近づき、観察する。

 しかし、ドアの周囲には何の文言もない。


 もしかして、ここってトイレな可能性ある?


「う~ん、トイレの確保……」


 今は別に行きたいとは思わないが、後のことは分からない。

 いつまで待てばいいのかもわからないし、トイレかどうかの確認をする価値はある。


「…………よし」


 私は思い切って、そのドアを開けた。












「さて、話し合いをしようか」


「黙れ」


 中村は敵意に満ちた目を向けられ、微笑んだ。


「久しぶりだね、カイ君」


「殺すぞ」


 相変わらずの“狂犬”っぷりに、苦笑する。


「彼女のおかげで落ち着いたと思ったんだけど」


 佐藤君の話題を出すと、彼の目が一瞬だけ揺らいだ。

 どうやら彼女は、こちらの想定通りに動いてくれているようだ。


「どうだい?彼女の傍は居心地がいいだろう?」


「無駄口を叩くな。用件を言え」


「やれやれ……」


 彼女の前では()()()()()()を健気にしておいて、その他の人間に冷たい。

 これでは“狂犬”というより、“忠犬”だ。


「“白亜”が動いた」


「…………」


「君にとっては過去のことかもしれないが、この問題の一端は君にもある」


「…………」


「彼女の安全のためにも、協力してくれないかい」


「………………フン」


 同意してくれたようだ。


 中村はカイの絆された様子に、笑みを浮かべた。

















「アイヤァァーーーっ!!」


 私は今、人生史上最も恐ろしいものに直面している。


『ギュエエエェェ』


 ブチョン ブチョン


「ひいいぃいぃッ!!」


 背後から迫りくるブヨブヨした化け物。

 フォルムは、私がこの世で最も嫌う虫を(かたど)っている。


 そうそれは、『イモムシ』。


「キモすぎーーーーッ!!!」


『ギョエエエエ』


「エセ魚みたいな鳴き声だすなーー!!」


 なぜこの謎の状況になったのか。

 それを説明するには、長い説明が————必要ない。


 シンプルに、備品室の奥にあったドアを開けると、こうなった。


 ドアを開けたらなぞの地下通路だったし、後ろにあったはずのドアは消えてるし。


(踏んだり蹴ったりだ……!!)


 ポロッ


「―――あっ!」


 カン カン カラン


 ポケットに入れていた万年筆が落ちてしまった。

 

(どうしよう———いや、拾ったら死ぬ)


『ギュエエエ』


 奴は着実に近づいてきている。

 あのブヨブヨの体で、一体どうやって走っているんだ……!


「ごめん!後で拾えたら拾———」


「それは拾わない奴の常套句だ」


「!?」


 ピカッ!


 閃光が薄暗い地下通路を切り裂く。


『ギュエエェェ————』


 劈くような断末魔が反響する。 

 私はたまらず耳を塞いだ。


 断末魔がやんだ後、目の前にいたのは、一人の男性と……こんがりと焼けたイモムシだった。


 彼は真っ黒な服を着ていて、ぱっと見では暗殺者としか思えない。

 口元を布で覆っているのが、さらに怪しさを倍増させている。


 そんな彼が、こちらに歩み寄って来た。


「おい」


「!」


 私は、思わずファインディングポーズをとる。


 だって仕方ない。

 片手にナイフを持った人が近づいてきたんだから。

 そんな物騒なものを近づけてくるんじゃない!


「この万年筆をどこで手に入れた」


「…………?」


 戦闘態勢の私に構うことなく、暗殺者風の男性は手を私の前に出した。

 その手の平には、さっき私が落とした万年筆があった。


「…………多分、中村さんから?」


 正直、その万年筆をどう手に入れたのかはわからない。

 バチッとした静電気が手に走り、気づいたら手の中にそれがあった。

 まあ、そんな摩訶不思議なことをやり遂げそうな人といえば、中村さんしかいないだろう。


「!…………そうか」


 何かに気づいた様子の彼は、万年筆を自身の懐に仕舞おうとして————。


 バチッ


「!!」


「いたっ!」


 万年筆が放電したと思ったら、私の手の中に瞬間移動した。


 …………贅沢を言うなら、放電しながら手の中に戻らないでほしい。


「……そうか、アンタが———」


「え?」


 何かを呟いた彼は、急に距離を縮めてきた。


「ぐえッ!?」


「つかまってろ」


 俵担ぎをされた私は、口から内臓が出そうになる。

 お姫様だっこをしろとは言わないから、せめて抱っこしてくれ!


「でるでる内臓がでるって!!」


「飲み込め」


「んな無茶な?!」


 遠慮のなさすぎる彼に担がれ、私は地下通路から脱出した。















「うぷっ。……まさか、あの状態のままで駆け抜けるとは……」


 地下通路にあった謎のゲートを通ると、元の備品室へ戻ることができた。

 浮遊感と共に戻った時、例の謎の男性はいなかった。


 痛めつけられた私の内臓たちの怨嗟は、どこにぶつければよいのだろうか。


 ガチャ


「あ、やっと戻って来たんだね」


「中村さん……!」


 備品室のドアから、中村さんが入ってきた。

 そして、その後ろを茶色い風が通る。


「ぐえっ」


「グルルルル………」


 カイの熱烈な歓迎を体で受け止める。

 鳴き方が獣に近くなっている。

 どうやら、とても心配させてしまったらしい。


「ごめん……本当に色々あったんだよ……」


「グルル……」


 鳴きやまないカイをなんとか宥め、二人にさっき起こったことを話した。



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