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6 髪を切ろう



「カイ?着替えれた?」


「………うん」


 返事を聞き、部屋のドアをそっと開ける。


 すると、長身の目隠れ系男子が立っていた。

 服装は、シンプルな黒いシャツにジーパン。

 しかし、体型からも顔の形からも、イケメン感がバシバシと伝わってくる。


 …………これは、髪を切ったらもっとすごいことになるのでは?


「ちょっと失礼」


「…………っ!」


 カイの前髪をかきあげ、顔全体を見てみる。


 眉は釣り気味で野性味がある一方、目は垂れ目の二重。

 まつ毛は上下ともに長く、左目の端には泣き黒子。


 全体的に、甘めの顔立ち。

 体にはしっかりと鍛えられているため、ナヨナヨ感は一切なし。


 一言でまとめると、イケメンだ。


「芸能事務所にスカウトされそう………」


 不吉な想像をし、道中で絶対にサングラスを買おうと決心する。


 悶々と考えていると、ふと強い視線を感じた。

 ぱっと前を向くと、観察していた彼と目が合った。


「あっ、ごめん」


「…………」


 距離感を間違えていたことに気づき、すぐに離れる。


「………大丈夫?」


 彼をよくよく見てみると、顔が赤い。

 もしかして、体調が悪くなったのだろうか。


「やっぱ外出は今度に———」


「大丈夫」


「しよう、えっ、あっ、ほんと?」


「大丈夫」


 しっかりとした口調で却下され、思わずタジタジになる。

 彼がここまではっきりと主張するのも珍しい。


「じゃあ、出発しようか」


「うん」


 そして、私たちは予約している美容室へと向かった。








(つ、疲れた…………!)


 本当に大変だった。

 例の手鏡を使うのも大変だったが、もっと大変なことがあった。


 隣をチラッと見ると、サングラスをかけたイケメンがいる。


 そう、この御仁が大変だったのだ。




 入店は問題なかった。

 しかし、髪を切る段階になった時に問題が起きた。


 ハサミを持った美容師さんに、カイが威嚇を始めたのだ。


 なんとか落ち着かせたが、髪を切っている間、隣でずっと手をつなぐことになった。

 …………周囲からの視線が、本当に痛かった。


 手鏡を使うことの不安が、あの視線のおかげ(?)で吹っ飛んだ。


 そうして地獄の時間を手鏡で抹消し、今は帰路にいる。


「カイ、髪を切った感想は?」


「頭、軽くなった」


「それは良かった」


 頭を軽く振っている彼を見て、そっと微笑む。

 ハサミ騒動の時はどうしたものかと思ったが、髪を切ったことは良かったようだ。


「……かっこいい?」


「……ん?うんうん、カッコイイよ!」


 突然の質問に、一瞬フリーズする。

 しかし、すぐに率直な意見を述べた。


「なら、いい」


「そっかそっか」


 満足そうな彼に、微笑ましい気持ちになる。

 しかし、同時に悪寒がした。


 彼の視線が、一瞬だけ不穏な感じを醸し出していた気がしたのだ。


 もう一度、彼を見る。


「なに?」


「い、いや、なんでもない!」


 いつも通りの彼だ。

 私の気にしすぎだったようだ。


 そのまま、私たちは家に帰った。







「かっこよければ、もっと見てもらえる」


 強かな犬は、ご主人様の関心をひくために手段を選ばない。

 そして、邪魔者に対しても———容赦しない。


 かつて「狂犬」と呼ばれたカイは、うっそりと笑った。

 

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