(14)カイ視点 搦めとった日
クリスマスの日。
俺はやっと、彼女の心を搦めとった。
「カイ、一人でも元気に過ごすんだよ」
この言葉を聞いた瞬間、隣で優しく笑う彼女の手足を切り落としてしまおうかと考えた。
手足を失って何もできなくなれば、俺だけを見てくれるだろうか?
否、この人はきっと耐えられない。
自分を殺そうとしてきた相手の怪我に、涙を流す人だから。
狂った世界に生きる俺とは違って、綺麗な世界を生きている人。
俺が不安がれば、それをそのまま素直に受け止める。
演技している可能性なんて、考えもしない。
(だから、こんな奴につけ込まれるんだ)
「ずっといっしょにいてくれる……?」
「うん」
彼女は今、言質をとられたことにも気づいてない。
本当に、可哀想で可愛い。
(俺が、守らないと)
じゃないと、どこの馬の骨とも知れない奴に掠め盗られる。
この人は可哀想な人間に弱い。
弱ったフリさえすれば、誰もが彼女の関心を得てしまう。
(そんなの許さない)
彼女が心を砕くのは俺だけでいい。
彼女が同情するのも俺だけでいい。
関心をかえるなら、それが同情だろうが愛情だろうが大差ない。
「愛してる」
俺の胸に頭を預け眠るまどか。
腹部に回した腕に力を込めれば、むずがるようにもぞもぞと動く。
どんなにもがいても俺の腕から抜け出せない彼女を見て、言い知れないほどの快感が全身に巡った。
(体は簡単に縛れる。心は―――“憐み”で搦めとればいい)
可哀想な“子ども”を演じればいい。
そうすれば、彼女は俺を無下にはできない。
(本当に…………愚かなほど素直で可愛い人)
これからも、どうか気づかないでくれ。
この真っ黒な心に触れるには、あんたは綺麗すぎるから。
「これからも、上手く隠すから」
腕の中で眠るまどかの頬を撫でる。
そして、カイはその頬にそっと顔を近づけた。