表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/27

(11) カイ視点 『愛』故に



 彼女の膝の上で寝ていると、不快な音が聞こえてきた。


 ブブブッ ブブブッ


(チッ、無機物風情が……)


 案の定、彼女の意識があの四角い物体に移ってしまった。

 あの物体を壊してしまいたいといつも思うが、彼女が悲しむのは本意ではない。


 仕方なく、彼女の声に耳を傾けることにした。


「………中村さん?」


 電話相手があのクソ野郎であることが判明し、一気に気分が悪くなる。

 耳を澄ますことはやめにする。


 思えば、彼女を独り占めにできる時間は少ない。

 何もない日は家にいるが、いつもではない。


 どうすれば、彼女を俺の傍にずっとおいておけるのだろうか。


 監禁は、場所と金があれば可能だろう。

 だが、心は手に入らない。

 これは最終手段にしておこう。


 とりあえず今は、彼女の傍にいられる身分が必要だ。


『カイ君はいるかい?』


 不快な奴に名を呼ばれ、顔をしかめそうになるのを抑える。

 彼女に起きていることがバレてはいけない。


「あー……」


 彼女の視線が俺に向く。

 ———全身の血が歓喜で湧き上がる。


「寝てます」


(この優しい声をずっと聞いていたい)


『おや、それは何より。寝る子は育つっていうからね』


(黙れ)


「いや、今の状態で十分だと思います」


(…………!)


 彼女の言葉に、心臓がとまる。

 

 何もできない今の俺で…………いい?

 こんな俺を、受け入れてくれる?


 成果を出さなければ、()()される。

 関心をかうには、他を蹴落とさなければならない。


 ————世界は、そうあるんじゃないのか?





 彼女は最初から、俺に何も求めなかった。

 言葉が喋れなくても、ゆっくり待ってくれた。


 敵だった俺を怖がりながらも、決して放り出さなかった。

 捨て置けばよかったのに。


(この人だけが———俺を見てくれた)


 だから、この人の視線は絶対に譲らない。

 いずれ必ず、俺だけのものにする。






 じっと彼女を見つめていると、彼女がこちらを見た。


 気まずくなったのか、そっと目を逸らす姿も可愛い。


(俺を、意識してくれてる)


 クソ野…………中村の呼び方を教えられた後、俺は彼女にすり寄った。


「うわっ、くすぐったい………!」


 彼女の柔らかい太ももに頭を擦りつける。

 このマーキングは、人間に対して効かないのが残念でならない。


「す、ストップストップ!」


 クッションと一緒に後ろへ逃げる彼女を追い、壁へ追い詰めた。


 焦った顔をしてる。

 本当にかわいい。

 このまま———食べてしまおうか。


「目!目がなんか怖いよ!?」


 彼女の声に、意識を取り戻す。


 危ない。

 本能に従うところだった。

 

 怯えた色をしている瞳に笑いかけ、顔を首筋に埋める。


「うっ……」


 横目でみた彼女の顔は、酷くそそられるものだった。

 怖いけど逃げられない、哀れな獲物の顔。


(いつか絶対、食べ尽くそう)


 それまでは、味見で我慢しよう。


 ペロペロと首筋を舐めると、彼女の体が震えた。

 こんなことをしても逃げないのは、俺を信用しているからなのだろうか。


 まあ、どうでもいいことだ。

 結局のところ、彼女は逃げられないのだから。


(そういえば、この感情の呼び方を知ったんだった)


 彼女がよく読んでいる漫画というものにあった言葉。


 確かそれは————『()』だった。


(『愛』しているんだから、仕方ないのだろう?)


 俺の行いも、きっと許される。

 ———『愛』故に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ