1 怒涛の展開
大学3年の初夏。
私は人生最大の間違いを犯した。
「やあ、君が佐藤君だね?」
「は、はい!」
「うん、採用!」
「え?」
就活中の私にとって、その言葉は嬉しいものだった。
嬉しいもののはずなのだが……。
「あ、あの、これインターンシップですよね…………?」
偵察のために来たインターン先で、採用が決まってしまった。
内定じゃなくて、採用?
あとこの会社、練習台として申し込んだインターン先だったんだけど……!
様々な思いが脳裏をよぎったが、私にはそれを口にする勇気はなかった。
「うわあぁぁぁーーー!!」
『グルルルル……!』
バタバタバタ
ある路地裏で、私は鈍足を懸命に動かす。
「こ、来ないでッ!」
『グルアァッ!!』
「ひぃぃぃ~~~!!」
獣のように手足で俊足移動する男。
彼は「白亜」という組織に与する『狂犬』と呼ばれる人物。
「なんでこんなことに!!」
「グルアァ♪」
「だめだめだめ、それ食べちゃダメなやつ……!」
お弁当に入っていたバラン(仕切りに使われてる草みたいなの)を食べようとする『狂犬』と呼ばれていた人物に、慌てて声をかける。
しかし、聞く耳を持たない。
「カイ!言うこと聞かないと……」
「ぐ、ぐる……」
「もう撫でないよ」
「ぐるぁ!?」
すぐにバランを吐き出し、椅子に座っている私の膝上に頭をのせてきた。
本当に、彼はすることが犬に似ている。
「なんで懐かれたのかもわからないし……」
一時は獲物と捕食者の関係だったはずなのに、今では共に暮らしている。
「私の人生は、あのインターンで大きく変わってしまった……」
「グルァ?」
カイと名付けた元『狂犬』の頭を撫でながら、自身の将来に不安を感じた。
「福利厚生とか贅沢は言わないから、安全の保証だけはしてくれ……!!」
いや、自分のリサーチ不足によって秘密結社に入ってしまったのだ。
仕方が、そう仕方がな———くはないな。
「インターン先が秘密結社だなんてわかるかーーッ!!」
「グルアァ♪」
魂の叫びが、社宅に響き渡る。
しかし、苦情がくる心配はない。
なぜなら、住んでるのが私とカイだけだからね!
「人手不足なんてレベルじゃないよーー!!」
秘密結社の人材不足なんて知りたくなかった。
もっと神秘的な存在かと思っていた純粋な私を返してほしい。
こうして、私は怒涛の展開を大学3年の初夏に迎えた。