偽傷ラスト
「父さん、早く!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
私達は、いま病院に向かっている。
息子の嫁さんが産気づいたという知らせを受けたからだ。
「無事でいてくれよ……」
息子は、タクシーの中で両手を組んだまま蒼白だった。まるで、若かりし頃の自分を見ているようで不謹慎ながらも懐かしさを覚えてしまう。
「安心しろ。大丈夫だ」
あれからの私は、公園を後にして一人でアパート暮らしをしていた。始めのうちは、生活を立て直す為に息子夫婦の力を借りていた。
「家族は助け合うものです」という、息子の嫁さんが言葉を掛けてくれたことが大きな理由だった。
「飛ぶホームレスあとを濁さず、か」
私はアルさんを訪ねて何度も公園に足を運んでいた。私の姿を見ると、彼はいつも快く迎え入れてくれていたのだが、ある日のこと、突然段ボールごといなくなってしまっていた。今があるのは、彼の後押しがあったからこそ。そして、相棒を含めた皆のお陰だった。
「ありがとう……」
人は、一人では生きていけない。 いや、人に限ったことじゃない。 動物は、お互い支え合いながら生きているんだろう。私は、この恩を必ず返したい。その為に今があるのだと思う。そんなことを胸に抱きながら、大変お世話になった公園を車窓の端に見ていた。すると、
グェー!
遠くで、馴染のある声が響いたような気がした。次に行く時は、孫を含めた家族全員で行きたいと強く思った。